第9話 ウサンとの確執

「これぐらいか……」



彼が覚えられるのは固有スキルの「魔力回復速度上昇(消耗した魔力の回復速度を上昇)」「魔力容量拡張(魔力を増加)」「魔法威力上昇(魔法の威力を上昇)」「魔法耐性(魔法攻撃に対する耐性を身に着ける)」の4つを覚えられた。これらのスキルは魔術師の職業に適した能力のため、SP消費量も少ない。


しかし、自分の職業に適したスキルの場合も覚え続けるとSP消費量も増加するらしく、例えばレアが4つのスキルの1つを習得した場合の消費量は「1」だが、次にスキルを覚える場合の消費量は「2」その次の場合の消費量「3」となり、このようにスキルを覚える度にSP消費量が増加されていく。


彼が4つのスキルを習得すると合計で「10」のSP消費量となるため、この4つを覚えた場合は他の能力を身に付けられない。しかし、彼が自分の職業には適していない他のスキルを覚えるには同様に「10」のSPを消費しなければならず、こちらの場合は幾ら覚えてもSP消費量は固定化されているので増加される事はないが、現状では彼が魔術師以外のスキルを1つしか覚えられない。



「役立たずと言われてもね……このままだと不味いだろうし」



現在は勇者を召喚した皇帝は職業も能力も低いレアを丁重に扱っているが、もしも他の人間が彼の存在を不要と判断した場合、この国から追放あるいは排除される可能性も否定できない。実際に彼は既にこの帝国の二番目の権力者であるウサンに目を付けられており、何としても自分が役立つ事を証明しなければ未来はないとレアは考えていた。



「明日から訓練も始まるらしいし、どうにかしないとな……他の付与魔法も後で確かめないとな」



ステータス画面を確認しながらレアは現在の自分の能力と覚えられるスキルの確認を終えると、彼は不意に文字変換の加護の文章を見て疑問を抱く。



「あれ、もしかしてこの能力って……?」



文字変換の説明文を見ながらレアはある考えが閃き、自分の考えが本当に可能なのかと疑問を抱いながらも自分のステータス画面に意識を集中させていると、不意に彼の目の前に人影が現れる。



「おっと、失礼!!」

「うわっ!?」



頭から冷たい液体を浴びせられ、レアは驚いて視線を向けると彼の目の前には醜悪の笑顔を浮かべたウサンが存在し、彼の手元には空になったワインのグラスが存在した。すぐにレアはウサンが自分に対してわざとグラスの中身を零した事に気付き、彼を睨みつける。



「これは申し訳ない……私とした事が手を滑ったようだ」

「……いえ、お気になさらずに」

「ふんっ……勇者と言っても役に立たない人間は必要はないと思いませんかね?」



彼の行動と発言に周囲の人間が息を飲み、騒ぎを聞きつけた兵士が駆け寄ってくるが、相手が大臣と知って立ち止まる。だが、レアは冷静に彼の言葉に皮肉を返す。



「そうですね、不要な物は必要はない……それならウサン殿のその頭に乗っている物は貴方にとってはとても必要な物なんですか?」

「なっ……き、貴様ぁっ!!」



ウサンは新しく頭に乗せた桂に手を伸ばし、彼は激怒の表情を浮かべるがレアは懐に手を伸ばすと念のために回収していた置いた代物を彼に差し出す。



「これをどうぞ」

「な、何だこのゴミはっ!?」

「何って……貴方が最初に被っていた物ですよ」



レアが取り出したのはウサンが最初に身に着けていた桂であり、彼はそれを見て歯を食い縛り、右手に持っていたグラスを彼に向けて叩きつけようとした。



「このっ!!」

「っ!?」

「止めなさい」

「うおっ!?」



グラスを叩きつけられる前に一人の女性が彼の腕を握りしめ、腕を捻ってグラスを取り上げる。その行動にレアは驚くが、彼を救ったのは金髪の女性であり、年齢はレアよりも1、2才程年上だと考えられる。雛や美香とは違ったタイプの美少女の登場に彼は驚く。



「は、離せっ!?貴様、私を誰だと……お、王女様?」

「貴方の行動は目に余ります……立ち去りなさいっ!!」

「うわぁっ!?」



ウサンは自分の腕を捻り上げる彼女に怒鳴りつけるが、顔を見た瞬間に顔色が真っ青に染まり、腕を解放されると慌てて距離を取る。そんな彼の行動に王女と呼ばれた女性はレアにハンカチを差し出す。



「我が家臣が失礼をしました……どうかこれで身体をお拭きください」

「あ、どうも……」

「ジャンヌ様、あちらで皇帝がお呼びです。参りましょうか」

「分かりました。では、失礼します勇者様」



ジャンヌの傍に赤色の髪の毛の美青年が現れ、執事のような恰好をしている事からレアは彼女の従者だと判断したが、二人はレアに一礼を行うとその場を立ち去る。ウサンから自分を助けてハンカチを渡してくれた王女にレアは戸惑うが、後ろ姿を黙って見送る事しか今の彼にはできなかった。

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