第7話 勇者の加護

「それでは先にお主達に確認したいことがあるのだが、ステータス画面に「加護」と呼ばれる能力は存在するか?」

「加護……?」

「過去に召喚された勇者は加護と呼ばれる特別な能力を所持していた。例えば普通の人間よりも早く成長できる「成長の加護」相手の魔法攻撃を無効化する「魔法耐性の加護」という加護が存在したという」

「加護か……皆、ステータス画面を見てくれ」



瞬の言葉に全員が従い、レアも自分の能力を確認する。最初に現れた画面には皇帝の語る「加護」の項目は存在しなかったが、勇者の加護という言葉を意識した瞬間に新しい画面が表示された。



『文字変換の加護――1日に1文字だけあらゆる文字を変換できる。但し、文字の削除や追加は行えない』



新しく視界に現れた画面にレアは驚くが、その内容を見て更に動揺してしまう。自分の職業が役に立たないと言われた矢先にせめて能力だけでも真面な力が欲しかったが、謎の文章が表示されて戸惑う。



「僕は剣の加護だ……内容は剣技を習得しやすいらしい」

「私は高魔力の加護って書いてある。えっと、魔法の威力を強化するみたい」

「へっ!!俺は暴力の加護だ。腕力が一番成長するらしい……俺向きだな」

「私は必中の加護ね。弓矢や銃の攻撃が必ず命中するらしいわ」

「僕は武器制作の加護だ。こちらの世界の武器ならなんでも作れるらしい」

「げ、最悪……あたしは太陽の加護、日に当たっている時だけステータスが上がる超地味な能力~」

「わ、私は月光の加護です。月夜の晩だけステータスが3倍に上がる加護みたいです」

「俺は……文字の加護。なんか1日に1文字だけどんな文字も変換できるらしいけど」

『…………』



最後のレアの発言に全員が沈黙し、何の役に立つのか分からない能力に全員が気不味そうな表情を浮かべるが、慌てて皇帝が話を戻す。



「ま、まあ……加護にも色々と種類はある。それに役に立たないと思われる能力も実は隠された力を持っていたという事があるからな。実際に過去に召喚された勇者の中にも一見は何の役に立つのか分からない能力が途轍もない活躍をした事はあるぞ。例えば「洗浄の加護」と呼ばれる勇者はあらゆる汚れを洗い流す能力を持っていたが、実はこの能力は人間以外に効果が発動出来るらしく、汚染された水源を元に戻した事もある素晴らしい能力だった」

「なるほど……そう考えると霧崎君の能力にも意味があるのかもしれないね」

「いや、文字を1文字だけ変化させるなんて意味あるの?」

「確かに……所謂外れではないですか?」

「えっと、どうすれば加護の能力は発動できるんですか?」

「伝承によれば画面に説明文も記されているはずだが……」



レアは実際に自分の加護を発動させるため、彼は異世界に召喚される前に持ち込む事に成功した鞄から学生手帳を取り出す。彼は画面に描かれた説明文を確認し、指先に意識を集中させて手帳に描かれている「白鐘学園」という文字の変換を試みる。



「えっと……こうかな」

「うわ、指が光ってねえかそれ!?」

「本当だ……これが霧崎君の加護なのか」



指先から淡い光が放たれ、指先に小さな「魔法陣」が浮かび上がる。やがて手帳の文字に指先が触れた瞬間に文字の1文字が消えてなくなり、レアは「黒」という文字を書き込む。次の瞬間、手帳の表紙に描かれていた文章が「黒鐘学園」という文字に変化を果たす。文字の変換を終えた瞬間に指先からの光が消え去り、レナの手元には学校名が変更された手帳だけが存在した。



「なんか……地味な能力ね」

「確かに……」

「本当にそれだけなのか?」

「う、うん……特に他に変わりはないかな」

「むう……まさか、これで終わりのはずは……いや、しかし……」



手帳の文字が変化しただけで特に変化はなく、もしかしたら名前を変えた事で学校名が本当に変更したのかと考えたが、生憎と文字が変換されたのは表紙だけであり、学生手帳の規則の項目には普通に「白鐘学園」という文字が記載されていた。



「これは一体何の役に立つんでしょうかね……正直に言って本当に外れでは」

「ちょっとしょぼすぎな~い?」

「おい、そんな言い方はないだろう?別に霧崎君が悪い訳じゃ……」

「だけどよ……こいつの職業は戦闘には向かないんだろう?それに肝心の能力もこれじゃあな……」

「で、でも間違えて書いちゃった文字を書いた時に便利じゃないかな?」

「消しゴムと修正ペンで十分だろそんなの」

「うっ……」

「あ、あの……気を落とさないでください。私の能力も夜じゃないと意味ありませんし……」



瞬と雛と美紀は彼の能力に同情して慰めの言葉を掛けるが、茂は少し言いにくそうに率直な感想を告げ、考と美香に至っては完全に彼を見下した発言を行う。レア自身も自分の能力が予想以上に使えない事に衝撃を受けているが、嘆いていても仕方がない。



「ま、まあ今日の所はここまでにしておこう。勇者の皆様のために歓迎の宴を準備している。そこでゆっくりと英気を養ってから明日からの訓練に励んでもらいたいのだが」

「宴だと!?」

「豪華な料理が食べられるの!?」

「そんな……僕達のそんな事まで……」

「マジ?国のお偉いさんとか来るの?」

「宴ですか……まあ、こちらの世界の料理が僕に合うといいですけどね」

「す、すいません……私、人が多いところは苦手なんですけど……」

「俺も参加していいのかな……」

「も、勿論だ!!勇者として召喚されたのならばきっと霧崎殿も何らかの優れた素質を持っているはず。遠慮せずに楽しんでくだされ!!」



皇帝の言葉にレアは安堵の息を吐き、少なくともこの国の頂点に立つ人間が自分の保護を約束を保証しているため、他の人間と共に宴の会場に向かう。

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