第6話 皇帝の負い目

ウサンが兵士達に連行されて立ち去った後、しばらくの間は笑い声が玉座の間に響き渡ったが、やがて笑い付かれた皇帝が彼の代わりに付与魔術師の扱う「付与魔法」の欠点を教える。



「勇者殿も気付いたかもしれないが、付与魔法は物体に魔法の力を宿す魔法だが、問題なのは攻撃に利用しにくいという点だ。勇者殿も実際に試して分かったとは思うが、物体に付与させた魔法の力が強すぎると武器としては扱いにくいのだ」

「それが……付与魔法の欠点なんですか?」

「その通りだ。そして付与魔法を施した物体にも大きな負担を掛ける。その剣を見ると分かるだろう?」

「えっ……あっ」

「うわ、刃がボロボロだ……」



皇帝の言葉にレアは自分が握りしめていた剣に視線を向けると、先ほどの風属性の付与魔法の影響を受けたのか刃の全体が刃毀れを起こしていた。理由は刃の全体に纏った竜巻が影響なのは間違いなく、レアは自分の魔法で長剣が使い物にならない程に痛めつけた事を知る。



「付与魔法を施した武器を扱うには使い手も相当な技量を必要とするが、更に付与を施した物体にも大きな影響を与える。しかも付与魔術師の人間は砲撃魔法を扱えない事から後方支援は任せられず、魔術師の職業は運動方面が他の職業に劣っている事から戦闘には向いていない……他にも色々と理由はあるが、この職業が帝国では不遇職と呼ばれる理由が分かってくれたか?」

「……はい」

「そ、そんなに落ち込む必要はないよ霧崎君……君の分まで僕達が頑張るからさ」

「そ、そうだよ!!霧崎君の分まで私達が頑張って魔王軍の人達を懲らしめるからね!!」

「まあ、ウサンの剥げを明かしたのは笑えたぜ。後は俺に任せろや」



レアは皇帝の言葉に落ち込んでいると瞬達が彼を慰めるように声を掛け、他の人間達も役立たずの職業と断定された彼を慰める。しかし、その中の「鈴木加奈」という女子生徒だけは皇帝に話を戻す。



「皇帝陛下、付与魔術師の職業の事はよく分かりましたけど、具体的に私達はこれからどうすればいいんですか?まさか漫画やゲームのように魔王を倒す旅に出ろと言い出すつもりじゃないんでしょうね?」

「げえむ?よく分からんが、勇者殿にはしばらくはこの城に滞在してもらう。まずは訓練を受けた後、本格的に戦闘を経験して貰う。その後はそれぞれに見合った装備を渡して各領地の護衛を任せたいのだが……」

「え?魔王軍の討伐はどうするんですか?」

「実は魔王軍に関しては我々もその正体を完全に掴めておらん……奴等は帝国の領地に頻繁に出没して被害を与えるが、こちらは未だに敵の本拠地も発見していない……だが、奴らが世界各地の聖光石を強奪している事は確かじゃ。だから勇者殿を元の世界に帰す為には奴等の聖光石を取り返さなければならない」

「随分と自分勝手な言い分ですね……僕達には何の得もない」



眼鏡を欠けた男子生徒の「高山 考」が皇帝の言い分に眉を顰め、自分の眼鏡に手を押し当てながら意見を行う。先ほどまで高圧的な態度で接していたウサンが居なくなったことで安心したのか今まで黙っていた人間達も話し出す。



「無論、お主達には悪い事をしたと思っている……だからこの世界に滞在中は衣食住は我等が保証しよう。何か望む物があれば出来る限りは用意しよう」

「え~?それってちょっと都合良すぎない?私達、巻き込まれただけなんですけどっ」

「そ、そうですよ……どうして私達がこんな事を……」



ギャルのような姿をした女子生徒の「金木 美香」と、彼女の後方でおかっぱ頭の黒髪の女子生徒の「金木 美紀」が文句を告げる。この2人は双子の姉妹であり、学校では外見も性格は正反対ではある事から姉妹には全く見えない事で有名な双子だった。



「勇者様!!いくら貴方達が異世界の人間だとしてもその口振りは皇帝陛下の無礼ではありませんか!?」

「構わんっ!!彼等はこの帝国を救うために召喚に応じてくれたのだ!!我々は助けを求める側だ……口出しするな」

「も、申し訳ありません……」



勇者達の皇帝に対する口調に兵士達が反発するが、皇帝が直々に彼等を黙らせる。レアは皇帝が元々は異世界から勇者を呼び出すのは反対していたという話を思い出し、皇帝としても自分達の国の問題を異世界から訪れた勇者に任せる事に負い目を感じている事を悟る。



「皆、ここで皇帝様を責めた所でどうしようもないだろう?どちらにしろ僕達が元の世界に戻るには魔王軍を倒さないといけないんだ。だからここは力を合わせて頑張ろうじゃないか!!」

「瞬君がそういうなら……」

「ちっ……面倒くせえな……」

「しょうがないわね……」

「まあ、仕方ないですね」

「超面倒~」

「あ、あの……」

「……俺、役に立つの?」



物語の主人公のような発言を行う瞬の言葉に召喚された8人の勇者は顔を見合わせ、仕方なく帝国の人間と協力して魔王軍の打倒を誓う。

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