第5話 付与魔術師とは

「不遇職……?」

「残念ながら、キリサキ殿は戦闘では活躍できないと考えるべきでしょうな」

「そんな……」

「ウサンよ、それは……」



ウサンの辛辣な言葉に皇帝が口を挟もうとするが、思い悩んだように黙り込む。彼の反応からレアは自分が本当にこちらの世界では酷い扱いを受けている職業を身に着けてしまった事を悟り、それでも彼は自分がどのような職業を身に着けたのかを問い質す。



「どうして戦闘に役に立てないと言えるんですか?」

「はあっ……勇者殿は知らないのだからしょうがない事かも知れんが、付与魔術師というのは魔術師の出来損ないとまで言われている職業だ」



小馬鹿にしたようなウサンの態度にレアは苛立ち覚え、他の人間も何人かが顔を顰めるが、こちらの世界の付与魔術師という職業がどのように扱われているのかを知るために我慢する。



「……どういう職業なんですか?」

「ふむ……付与魔術師は通常の魔術師と違い、魔力の容量が多い事ですな。全ての職業の中でも魔力容量だけはトップクラスだが、そもそも覚えられる魔法が最も低燃費の付与魔法だけしか扱えない。まあ、その点を除けばそれほど悪くはない職業と言えるかもしれん。しかし、魔術師は強力な攻撃魔法を扱えるからこそ重宝される存在であり、付与魔術師は付与魔法以外の魔法は覚えられないのが問題だ。基本的に我等の世界の攻撃魔法は「砲撃魔法」が主流にも関わらずに付与魔術師は覚える事が出来ない」

「砲撃魔法?」

「文字通りに砲撃を行う魔法の事だ。先程のウヅキ殿が扱った魔法は初心者が扱う初級の砲撃魔法だ」

「あの威力で初級……?」

「砲撃魔法に段階が存在し、初級、中級、上級の3つに分かれている。そして初級の魔法でも先ほど見ての通り、レベル1の人間が扱ったにも関わらずに普通の人間ならば間違いなく殺傷できる能力を誇る。だが、この威力は魔術師の職業の人間だからこそ発揮できるのだ」

「あっ……だから魔術師の職業の雛の魔法は凄かったのか」

「私達だとあれほどの威力は引き出せないのね」

「そうなの?」



他の勇者達はウサンの説明に納得するが、レアは自分がこれから先に付与魔法以外の魔法が覚えられない事を告げられた事になる。



「他の職業に転職とかは……」

「本来ならば不可能ではないが、伝承によれば勇者として召喚された人間の「主職」は固定されており、他の職業に切り替える事は不可能だ」

「な、なら付与魔法というのはどういう魔法なんですか?」

「文字通りに魔法の力を物体に付与させる能力だ。だが、この魔法は正直に言えば役に立たん」

「どうして言い切れるですか?」

「仕方ない……おい、誰か剣を貸せ」

「は、はい!!」



ウサンが仕方がないとばかりに兵士に指示を出して長剣を借りると、レアに差し出す。彼は戸惑いながら剣を受け取ると意外な程に重量がある事に気付き、自分が本物の飾り物ではない本物の剣を受け取った事に気付く。



「魔法の使い方は先ほどのウヅキ殿のように魔法名を唱えるだけでいい。ステータス画面に表示されている「戦技」という項目の下に表示されている文章を読めば発動するはずだ」

「戦技……?」



剣を受け取ったレアは鞘から長剣を抜き取り、本物の刃に冷や汗を流しながらもステータス画面を確認する。




――――――――――


戦技


・付与魔法エンチャント


 風属性 熟練度:1

 火属性 熟練度:1

 水属性 熟練度:1

 雷属性 熟練度:1

 土属性 熟練度:1

 聖属性 熟練度:1

 闇属性 熟練度:1

 

――――――――――



画面に表示された文字を確認すると、レアは無意識に長剣の刃に掌を構えて魔法を発動させる。何故か誰かに教わったわけでもないのに彼は付与魔法の使い方に気付き、魔法を発動させた。



「風属性エンチャット」

「何っ?」

「うわ、何だ!?」

「え、普通に格好良くない!?」



一瞬だけレアの掌が緑色に光り輝き、長剣の刃に竜巻のように風が纏う。その光景にウサンは眉を顰め、他の人間も驚愕の表情を抱くが、すぐにレアは異変に気付く。



「ちょ、うわわっ!?」

「ぬおおっ!?」

「大臣!?」



刃に風を纏った長剣を支えきれず、体勢を崩したレアは謝ってウサンに剣を振り落としてしまう。慌てて彼は後方に下がって回避する事に成功したが、長剣の刃に纏っていた竜巻が霞め、彼の髪が下から吹き上げられる。次の瞬間、彼の頭部から黒色の物体が吹き飛び、広間に静寂が広がった。



「いててっ……あ、大丈夫です、か……?」

「き、貴様ぁっ……!?」

「ぷっ……わはははははっ!!お、お前……桂だったのかよ!?」



レアが顔を上げるとそこには頭が剥げた状態のウサンが顔を真っ赤に染めて立ち尽くしており、その光景を見た茂が大笑いする。彼の笑い声が伝播したように他の人間もウサンの変貌に口元を抑め、皇帝でさえも笑い声を抑えるように両手で口を隠す。



「く、くくっ……」

「わ、笑ったら失礼よ……ぷっ」

「だ、だけどよ……何だよあの頭?普通の剥げの人より光ってるぜ?」

「ぶふっ!!」

「き、貴様らぁあああっ!!」

「いかん!!大臣を抑えろっ!!」

「す、すいません!!本当にすいませんでした!!」



笑いものにされた事でウサンは杖を振り上げて魔法を発動しようとするが、慌てて皇帝が兵士達に銘じて彼を取り押さえる。兵士達に力尽くで抑え込まれたウサンは玉座の間から連行され、その光景にレアだけは彼に謝罪の言葉をかけた。

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