レア以外の人間はウサンが用意した「魔法書」と呼ばれる書物を読み解く事に成功したが、何故かレアに渡された書物だけは中身が何も描かれておらず、他の人間のように魔法を習得する事が出来なかった。レアの言葉に眉を顰めながらもウサンは他の勇者に質問を行う。

「他の勇者の方々は魔法を覚えられましたかな？」

「なんか、変な画面が現れて魔法を修得したって文章が……」

「それは素晴らしい！！魔法書を簡単に読めるとは、やはり貴方達は勇者だ！！」

瞬の返答にウサンは大げさに拍手を行い、玉座の間に存在した他の人間達も拍手する。レアを除く勇者達は普通に本を読んだだけで本当に魔法を覚える事が出来た事に疑問を抱いているが、ウサンは早速彼等に魔法を試すように促す。

「どうですかな？それでは早速魔法を扱って見ますか？」

「え？もう魔法が使えるのか！？」

「はいはい！！私、私がやりたい～！！」

真っ先に彼の言葉に反応したのは雛であり、彼女の言葉にウサンは頷くと即座に兵士達に人型の木造の人形を玉座の間に運び出させる。人形を彼女から５メートル程離れた位置に設置すると、彼女に魔法を発動させるように告げる。

「これは訓練用の人形です。どうぞ、これに向けて魔法を発動してください」

「えっと、どうやるの？」

「おい！！誰か杖を貸さんか！！」

「は、はい！！」

ウサンの言葉に慌てて１人の女性が駆け寄り、ウサンが所持している杖のように宝石のように輝く水晶玉が取り付けられた杖を用意する。雛は女性から杖を受け取り、木造人形に先端を向けながら自分のステータスに表示された「魔法」の名前を叫ぶ。

「サンダーランス！！……わあっ！？」

雛が魔法の名前を発言した瞬間に杖の先端に電流が迸り、本物の雷のように電撃が木造人形に放たれ、一瞬にして黒焦げにする。そのあまりの威力と実際に魔法を発現させた彼女に誰もが驚愕の視線が向け、その一方で雛は興奮したように杖を握りしめる。

「す、すごい……本当に出来たよ～！！」

「マジかよ……信じられねえっ！！」

「ぼ、僕も試していいかいっ？」

「勇者様、こちらをどうぞ」

他の２人が雛の元に駆け寄り、彼女から杖を借りる前に女性の使用人が即座に動いて別の杖を差し出す。だが、一人だけ魔法の習得が出来なかったレアだけは魔法書を何度も開いて文章を読み込もうとするが、中身は何も描かれていない事に変わりはなく、魔法を習得する気配はない。彼は困惑した表情をウサンに向けると、ウサンが他の勇者達の行動に笑みを浮かべている事に気付く。そして自分が見られている事に気付いたウサンは只一人だけ魔法を覚える事が出来なかったレアに不機嫌そうに眉を顰める。

「……どうですかな？いい加減に魔法を覚えられましたかな？」

「いい加減に？」

「いや、何でもありません……それよりも魔法書は読み解けましたかな？」

「それが……職業に制限が掛けられているという文面が出たんですけど」

「なに？……まさか、ステータス画面の職業の欄を答えてくれないか？」

ウサンの表情が一変し、レアは自分のステータス画面を確認して主職の項目を確認して答える。

「付与魔術師と学生って出てるんですけど……」

「付与魔術師だと！？」

「うわっ！？」

彼の返答にウサンは目を見開いて大声を上げ、彼の言葉の直後に周囲に存在した人間達が騒ぎ出すが、皇帝がそれを収める。

「静まれ！！……確か、キリサキ殿だったな？お主の職業が付与魔術師というのは本当か？」

「あ、はい……」

「有りえん……付与魔術師の勇者など、聞いたことがない。まさか他の方々も付与魔術師がいるのではないだろうな！？」

焦りの表情を浮かべながらウサンはレア以外の人間を見渡し、他のクラスメイトは困惑した表情を浮かべながらも自分達の職業を伝える。

「僕は剣士です」

「……格闘家」

「魔術師だよ～」

「……ふむ、どうやらシロサキ殿以外は大丈夫そうだな」

「大丈夫？どういう意味ですか？」

他の勇者の言葉にウサンが安堵した表情を浮かべるが、レアは彼が先程から気になる言葉を呟いている事に気付き。まるで自分が付与魔術師である事が彼等にとっては不都合なように語っているように聞こえた。レアとしては自分の付与魔術師がどのような職業なのか質問を行おうとした時、先に皇帝が難しい表情を浮かべながら説明を行う。

「むうっ……まさか付与魔術師とは……キリサキ殿、落ち着いて聞いて欲しい」

「あの……何か不味いんですか？この職業……」

「うむ……付与魔術師というのは通常の魔術師とは異なる系統の職業でな。本来、魔法を使うだけならば魔術師以外の職業でも使用する事は出来る。だが、魔術師の職業の人間と比べると他の職業の人間が使用する魔法の威力は格段に落ちるのじゃ。そういう意味では魔術師という職業は非常に優秀なのだが……この付与魔術師という職業だけは魔術師の職業の中でも特別でな」

皇帝が話の途中で言いにくそうに黙り込み、代わりにウサンが彼の話を続ける。レアに対して彼は腕を組んだ状態で先ほどまでの態度はどうしたのか目下の人間に語り掛けるように説明を行う。

「付与魔術師の職業の別名は「最弱職」と呼ばれているのだ。魔術師の職業は幾つかの系統に分かれているが、付与魔術師は全ての職業の中で最も魔力が高い事を除けば全ての能力が他の魔術師の職業に劣っている。しかも魔術師にも関わらずに覚えられる魔法が限られており、付与魔法以外の魔法は殆ど覚える事は出来ん……言ってみれば外れの職業だな」

「えっ……」

「ウサン！！口が過ぎるぞ！！」

ウサンの言葉にレアは茫然とするが、即座に彼の態度を見かねた皇帝が怒鳴りつける。それでもウサンは気にした風もなく腕を組み、周囲に存在した兵士や女性陣もレアに対して嘲笑する。