第3話 魔法

レア達が召喚された「バルトロス帝国」はマテラの世界の西側に存在する国家であり、この世界には大陸が1つだけしか存在しない。バルトロス帝国は大陸の西側の大部分を領地に治める国家だが、現在は「魔王軍」と呼ばれる組織に侵攻を受けていた。そしてレア達を現実世界から召喚したのはバルトロス帝国の代85代目の皇帝の「バルトロス皇帝」だった。



「魔王軍は我がバルトロス帝国の領地に大きな被害を与えている。魔王軍と対抗するために我等も幾度か軍隊を派遣したが、正直に言えば我々側の不利な状況に追い込まれておる。だからこそ、我々は古の時代に嘗て世界を支配しようとした魔王を打ち倒したという勇者と呼ばれる存在を呼び出そうと我々は考えたのじゃ」



今現在のレア達は王城の「玉座の間」と呼ばれる広間に移動しており、皇帝が直々に彼等に説明を行う。ウサンは用事があるという事で退室しており、その間に4人は彼に色々と質問を行う。皇帝はウサンと比べるとレア達に好意的に接してどんな質問でも真面目に答えてくれる。


皇帝の話では最初に勇者召喚の提案を行ったのはウサンであり、皇帝自身は他の世界の人間に自分達の世界の厄介事を任せるなど反対したが、結局大勢の家臣達の後押しもあって仕方なく承諾してしまう。皇帝は帝国に伝わる古文書を読み解き、現実世界から勇者となり得る存在をこちらの世界に呼び寄せる儀式を行った結果、見事に成功してレア達がこの城に召喚される。


この「勇者召喚」と呼ばれる特別な儀式によって召喚されたのがレア達であり、彼等がこの世界に訪れた時点で勇者としての特別な力を既に身体に宿しているらしい。実際に彼等の全員がこちらの世界の文字や言葉を学んだわけではないにも関わらずに通じており、どのような原理かは不明だが彼等の目にはこちらの世界の言葉と文字は全て日本語に翻訳されていた。



「あの、本当に俺達は元の世界に帰れないんですか?」

「うむ……ウサンの話によると、我々が所有している聖光石だけでは帰還させる魔力が不足しているらしい。すまないが聖光石を入手出来るまでは勇者殿にはここ生活してもらう必要があるのう。安心してくれ、誰一人として決して不便な生活を送らせない事を約束しよう」

「それはいいけどよ……さっきの奴みたいに俺達もその魔法というのが使えるのかよ?」

「大木田、敬語ぐらい使えっ!!」

「ちっ……」



皇帝に対して茂が質問を行うと、彼の隣に居た瞬が咎めるように言葉を掛ける。それでも茂の疑問は他の3人も気にかかり、皇帝は彼の質問に真剣に頷いて傍に控えていた兵士に何事か命じると、玉座の間に大量の書物を所持した使用人達が訪れる。



「勇者殿、色々と聞きたい事はあるだろうが、今から儂の言う言葉を口にするか、もしくは頭の中で余の言葉を反芻してくれ……「ステータス」とな」

『ステータス?』



皇帝の言葉に全員が同時に彼の呟いた言葉を口にした瞬間、皆の眼前の空間にパソコンやスマートフォンのような「画面」が誕生する。唐突に視界に現れた謎の画面にレア達は驚愕するが、眼の前に表示されたのはRPGゲームの登場人物キャラクターの性能を示す「ステータス画面」と酷似した画面が視界に広がる。


レアは自分の視界に表示されている画面の一番上には自分の名前が表示されている事を確かめ、他の人間も彼のように戸惑った表情を浮かべており、全員が皇帝の告げた「ステータス」と呼ばれる画面の確認に成功していた。




―――ステータス―――


主職:付与魔術師(固定)


副職:無し


レベル:1


SP:10


―――――――――――


職業スキル(予備)


・無し


―――――――――――


技能スキル


・翻訳スキル

(あらゆる文字・言語を翻訳できる)



―――――――――――


戦技



・風属性 熟練度:1


・火属性 熟練度:1


・水属性 熟練度:1


・雷属性 熟練度:1


・地属性 熟練度:1


・闇属性 熟練度:1


・聖属性 熟練度:1



―――――――――――


固有スキル


・未収得


―――――――――――




視界に表示されているステータス画面にレアは戸惑いを隠せず、本当に自分がゲームの世界に迷い込んだような感覚が広がり、画面に表示されている内容を確認していると皇帝が説明を行う。



「恐らく視界に画面が開いたはずだが、このステータス画面は自分にしか確認する事は出来ん。レベルが上昇すれば身体能力や魔力も大幅に成長するが、体を鍛える事だけでも十分に力を身に着ける事は出来るぞ」

「おおっ……!!」

「すげぇっ……マジでゲームみたいだ」

「レベルが1か……という事は魔物を倒せば経験値でも貰えるのか?」

「うむ、話が早いな。レベルを上昇させる方法として最も効率的なのは魔物を打ち倒す事じゃな」

「魔物……本当にそんな奴等と居るんですか?」

「何?勇者殿の世界には存在しないのか?」

「動物はいますけど……魔物というのは俺達の世界では幻想ファンタジーの存在として扱われていますね」

「ふぁんたじぃっ?言っている意味は良く分からんが……」



皇帝の言葉からレアはこの世界にはゲームのように「魔物」と呼ばれる存在が実在する事を認識し、他の人間も息を飲む。実際に自分達が魔物と呼ばれる存在と戦わされる事になるのではないかと知った瞬間に全員に緊張が走り、浮かれていた人間も大人しくなる。それでも皇帝の話によればレベルを最も早く上昇させる方法は魔物を倒す手段しか存在せず、普通に生活を送るだけではレベルが上昇する事はない。



「このレベルの目安はどんな感じですか?ここにいる兵士の人達の平均のレベルは分かりますか?」

「それは余も知らんが……おい、どの程度なのじゃ?」

「はっ!!一般的には兵士の平均レベルは15~20であり、将軍クラスになると最低でも30~40レベルです!!ですが、冒険者の中には50~60の人間も存在すると聞いております!!」



皇帝の質問に傍に控えていた兵士が返答すると、レアは自分のレベルがこちらの世界では一般人よりも低い事を知り、不安を覚える。他の人間も彼と同じように自分のステータスが低い事に気付き、瞬が代表して皇帝に質問する。



「あの……魔王軍というのはどんな奴等なんですか?やっぱり、悪魔とかいるんですか?」

「悪魔?それは魔人族の事かな?確かに魔王軍の幹部は魔人族で構成されていると聞くが……」

「魔人族……ちょっと言葉の響きは格好いいね~」

「何を呑気な……僕達、本当に戦えるのか?」

「おい!!そんな事より、魔法ってのはどうやって使うんだ!!あの野郎、絶対にぶっ飛ばしてやる!!」



召喚された4人の中では比較的に戦闘に関しては最も馴染みやすそうな茂が皇帝に怒鳴り込み、先ほどウサンに吹き飛ばされたのがまだ気に入らないのか、執拗に魔法の習得を催促する。自分も彼と同じような能力を身に付ける事が出来れば負ける事はないと彼は確信しており、他の人間達も彼の質問の内容は気になった。この世界に魔法が存在するとしたら、異世界人である自分達も魔法が扱えるのか疑問を抱くのも当然である。



「その事に関しては私が答えましょう」



玉座の間の出入口から男性の声が響き渡り、皆が振り向くと玉座の間を退室していたはずのウサンの姿があり、彼は複数の黒衣を纏った人間を引き連れていた。その全員が女性で統一されており、年齢もレア達と同様に10代半ばだと考えられ、容姿も整っている。レアは女性の使用人をわざわざ大臣であるウサンが連れて戻ってきた事に疑問を抱くが、彼はわざとらしい笑みを浮かべて4人に話しかける。



「では皆さん、まずは先ほど渡した書物を開いて下さい」

「書物……これの事か?」

「そうです。ささ、早く読んで下され」



召喚された人間は全員が「翻訳スキル」を習得しており、こちらの世界の文字は理解できるため、レア達は女性陣から手渡された本の表紙の文字も読める。レアが受け取ったのは表紙に「サンダーランス」と記された分厚い書物だった。彼は不思議に思いながらも中身を開こうとした時、先に与えられた書物を読んでいた人間達が驚きの声を上がる。



「おおっ!?」

「なんだ!?」

「こ、これは!?」

「え?」



次々と他のクラスメイトが驚きの声を上げ、レアは彼等の反応に不思議に思いながらも自分の書物を開いてみるが、中身は何故か「空白」であり、文字の類が記されていなかった。そんな彼にウサンはレアが他の人間のように反応しない事に訝し気な表情を浮かべ、質問を行う。



「……どうかしましたかな?」

「いや……表紙の文字は理解できるんだけど、中身が何も描かれていないんですけど……」

「描かれていない?おかしいですな……文字さえ理解出来れば「魔法書」を読み解く事で誰でも魔法は覚えられるのですが……」

「魔法……書?」



初めて聞く単語にレアはウサンが何の話をしようとしているのか問い質そうとした時、彼の視界に新しい画面が表示される。



『この魔法は修得出来ません。職業に制限が掛けられています』

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