第23話 魔法使いの村
夜も吹ける中、アリアは森の中を一目散に駆けていく。
馬車よりも速く、疲れを知らないかのように。
「ちょ、ちょっと! 待ってくれ!」
あまりの早さに馬が付いて行けず、置いていかれそうになる。
あの走力とスタミナはどこからくるんだ!?
少女の髪が淡く光り続けているおかげで暗い森の中でもなんとか見失わずにいられる。
彼女はこちらの様子を伺っているようで、時折立ち止まってくれているのがわかる。
「アランさん! あの娘、もしかして!」
ケルビンが後ろから声を発する。
淡く光る髪、そして常識では考えられない身体能力。
「ああ、間違いない。彼女は——」
僕はこの眼でしっかりとその光を捉える。
「——魔法使いだ」
——————————
アリアを追って、馬をひたすら走らせる。
馬車の荷台が木の枝に当たってガサガサと音を立てる。
それすら省みずに馬を走らせる。
馬車が通るには狭い獣道、さらに夜の暗闇のせいで地面がよく見えない。
馬にとっては走りにくいことこの上ないだろう。
馬よ、申し訳ない。
でも今は頑張ってくれ。
唯一のヨナの手がかりでもあるあの少女を見失ってしまったら、この深い夜の森では何が起こるかわかったものじゃない。
僕はしばらく祈りながら馬を走らせた。
そして少女が立ち止まる。
木々の間を抜けていくと、自然に囲まれた集落のような建物が見えてきた。
もしかしてここがマーレの村か?
アリアの髪は輝きを失くす。
そして彼女は僕たちの元へ走り寄ってきた。
「こっち来て!」
僕は少女に手を取られ、彼女が動く方向へ引っ張られていく。
僕は体勢を崩しながら馬車を降りて、彼女についていく。
どこに連れていかれるんだろう?
こんな少女がまさか盗賊な訳は無いだろう、と根拠のない予想をしながら歩く。
後ろからケルビンが警戒しながらついて来る。
それで良い、ケルビン。
君は僕の護衛だ。
自分と僕を守ることだけを考えていてくれ。
僕はケルビンに念を送りながら、彼女がいつ立ち止まるか気にしていた。
そしてその時はすぐに訪れた。
目の前には扉。
アリアは何の遠慮もなく扉を開けて、声をあげる。
「おじいちゃーん! お客さんだよー!」
「おぉ! アリア。おかえり。どこに行ってたんだい?」
家の中には揺り椅子に座った年配の男性がいた。
暖炉の前でパイプを吹かしている。
「いつもの高台にいたの! そしたらこの旅人さんが来たんだよ!」
アリアは溌剌と述べる。
自己紹介を促されたように思った僕は
「こんな夜分にすみません。僕は旅商人のアランと申します。こちらは護衛のケルビン」
僕はお辞儀をして、ケルビンにもそれを促す。
「おぉ、それはそれはご苦労様です。今日はもう遅い。こちらで宿をとりなされ。アリア。部屋に案内しなさい」
僕は一瞬警戒するが、この家にいるのは少女と老人の二人。
部屋に案内するとも言っている。
僕の警戒は杞憂だったようだ。
ケルビンと目を合わせて警戒を解く。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」
アリアには聞きたいことがたくさんある。
しかし今夜はもう遅い。
話を聞くのは明日でも良いだろう。
そうして、僕たちは空いている寝室に案内された。
その後、放置していた馬を近くの木につないで、僕たちは就寝したのだった。
——————————
翌日
「お兄ちゃーん! 朝だよー!」
暖をとるためにかけていた布を引き剥がされる。
僕はその出来事に驚いて、上半身を起こす。
「うわ!」
起きたばかりで状況の確認がうまくできない。
昨日何があったか記憶を辿る。
えーと、確か女の子を出会って、村の人の家に案内されて……。
そうだ。ここはマーレの村だ。
村の人の家に泊まらせてもらったんだった。
僕は覚醒しかけているの頭をもっと凝らすように頭をふる。
「お兄ちゃん、ご飯できてるよ!」
この少女の名前は……アリアだ。
ヨナに似た銀髪に僕は一度は目を奪われた。
僕はベッドから抜け出して、居間へと行く。
着くと老人とケルビンが既にテーブルについていた。
「アランさん、おはようございます」
ケルビンが僕に朝の挨拶をする。
「アランくんおはよう。みんな揃ったことだし食べようか。賑やかな食事は久しぶりだ」
家の主人である老人はそう言って、僕にテーブルに座るよう促す。
「「「「いただきます」」」」
食事の内容は豪華とは言えない。
だけど、こんな人の温もりに溢れた食事はいつぶりだろう。
ここ最近はずっと保存食だったからか、余計に心が暖まる。
老人が身の上話しをながら食事をする。
「……でな。村の人々は驚いたものじゃ。はっはっは」
柔らかな口調に温和な性格が垣間見える。
僕は老人の話に口を挟む。
「えっと、ご老人はこの村の村長なんですか?」
僕の質問に老人は「うむ」と頷く。
「いかにもそうだ。名前はまだ言ってなかったかな? すまんすまん。老いた体ゆえ許してくれ。私のマーレ村の村長シモンだ」
村長さんは自慢気に胸を張る。
こういうお茶目なところもまた、人が良さそうな印象を加速させる。
「村長さんは……」
「シモンで良いよ」
「……シモンさんはその、知っているんですか? アリアがその、魔法を使えるということは」
シモンさんがまた「ん?」と呻く。
「知らない訳がないだろう? この村はそういう村だ」
僕は意味深な言葉に疑問を持つ。
そういう村とはどういうことだ?
もしかしてこの村は……。
僕が疑問を自分で解決しようと頭を回転させていると、老人の白髪が光りだした。
僕は驚きに目を丸くする。
老人は一度手をあげて体を震わせると、その手を暖炉の方に向けた。
「はっ」
ボゥ
火の玉が暖炉の方へ飛んでいき、薪に火をつける。
僕はその光景を見て動揺し、同時に確信する。
その姿を見て、シモンさんはニヤリと笑う。
「この村は……魔法使いの村だよ」
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