第17話 敵討ち
俺は怪我をした体に鞭打って必死に走る。
ケルビンを攫った男を見失うわけにはいかない。
男は子供一人を抱えた状態だ。
怪我をしている俺でもついていくことくらいは出来る。
どれくらい走ったかはわからない。
男は森の中にポツンとたった小屋の中に入って行った。
俺は男が入った扉めがけて、肩から突進する。
バタン!
俺は扉を破ると、膝に手をついて、肩で息をする。
視線は真正面にいる男を捉えている。
「ふぅ。よくその怪我で追ってきましたね。でも……」
男は俺に手のひらを向ける。
「遊びは終わりです」
男が言った瞬間、
ボン!
また俺の目の前で爆発が起きた。
俺はきた道を戻るように小屋の外に吹っ飛ばされた。
そしてそのまま気を失ってしまった。
——————————
ここはどこだ?
何が起きている?
気がつくと、俺は木に縛り付けられていた。
目を覚ましたばかりで状況がつかめない。
俺は寝ぼけた頭で考える。
——そうだ! 思い出した!
ケルビンが攫われて、犯人を追ってきたんだ。
そして犯人はあの小屋の中にいるはず!
正面には小さな掘っ建て小屋がある。
今すぐ助けに行きたいが、俺と木を結んでいる縄のせいで身動きすら取れない。
これでは縄を剣できることもできない。
俺に出来るのは……
「おい!!! ケルビン! 聞こえるか!?」
声を出すことくらいだ。
しかし、反応はない。
「聞こえてんだろ!? ケルビン! おい!誘拐犯! 出てこい!」
しばらく、大声を出し続ける。
ケルビンと誘拐犯の気をこちらに向けるために。
すると男——誘拐犯が扉をあけて出てくる。
「うるさい奴ですね」
そう言って俺に手のひらを向ける。
「!」
またあの爆発が起きる!
そう思って、俺は誘拐犯を止めるように、
「待て! お前は何でこんなことをしているんだ!?」
魔法?を使わせないための咄嗟の一言だった。
咄嗟の割には、素直な疑問がすらすらと出てくる。
「……良いでしょう。教えてあげますよ」
男は手を下ろして話し始める。
「私は魔法使いです。魔法のことは知っているでしょう? あの子供も使ってましたからねぇ」
俺はじっと話を聞く。
「私は魔法の研究をしていましてね。ある実験の媒介として子供を使っていたんですよ。……生贄にね」
男のフードに隠れた顔が怖気の走る笑顔を作った。
「でも、実験は失敗続き。もうダメかと思った時、あなたたちを見つけました。飛んで火に入る夏の虫とはこのことです!ギャッハッハ!」
男は声に出して笑い出した。
声を聞くだけでおぞましい。
「まさか、魔法を使える子供を連れてきてくれるとはね! 僥倖ですよ!」
俺は怒りを抑えて静かに聞いていた。
そして俺はある質問をする。
「……10数年前、ロニエルという街を訪れなかったか?」
ロニエル……俺が家族と共に住んでいた街の名前だ。
そして弟が消えた村だ。
「ロ〜ニ〜エ〜ル〜? う〜んどうでしょう」
男は首に手を当てて考える。
すると男はハッとした様子で
「おお! 思い出しましたよ! 確かハワー……とか言う名前の子供を使いましたね」
俺はその瞬間、男に向かって飛び出そうとした。
しかし、縄で縛られているせいで顔を突き出すことぐらいしかできない。
「ハワードだ!!! 許せねぇ……殺してやる!」
怒りの炎で男を焼き尽くしてしまいたい。
身動きの取れない体は必死に縄に抵抗する。
しかし、縄は固く結ばれていて、多少動いたくらいじゃびくともしない。
「あれれ? もしかして親族の方ですか? 弟さんか何かですか?」
男は愉快そうな顔を俺の眼前に置く。
「お・と・う・とだ!いいか待ってろよ。お前は必ず俺が殺してやる!」
「……それは怖いですね。死んでください」
男は再度俺に手のひらを向ける。
——来る!
俺は歯を食いしばって、身を固くする。
ドカン!!!
さっきよりも激しい爆発だ。
俺は気を失いそうになる頭を必死に振り払おうとする。
しかし、体が動かない。
「ふぅ。昔話も面白いものですね。さ、死体の始末は後にして、実験♪実験♪」
男は小屋の方に歩いていく。
——動け
俺は血にまみれた体に言い聞かせる。
——動け
先程の爆発によって縄は消し飛んでいる。
体が動けば、奴の元にたどり着ける。
——動けえぇぇぇ!!!
俺はよろよろと立ち上がり、足につけていた小さなナイフを手にとる。
そして先程まで全く動かなかった体が嘘のように、男目掛けて駆ける。
男は俺に気づいていない。
激昂に任せた体は男の元にたどり着く。
そして……
ザクっ
ナイフが奴の脇腹に突き刺さった。
男は何が起きたかわかっていない様子で全く動かない。
俺は男に刺さったナイフを離し、その場に倒れこむ。
「……え? なんだ? これ……」
男にはまだ痛みが伝わっていない。
直後、男は叫ぶ。
「なんだよ!?これぇぇェェ!?!?」
男もその場に倒れ込み脇腹を抱える。
「……へへっ、ざまぁ……みろ……」
そう言って、俺はそのまま気を失ってしまった。
——————————
眠りから目が覚めると、異変に気付いた。
——ヒューゴと……ケルビンがいない!?
僕はその様子に気付くとまだ寝ているリゼットさんを揺らす。
「リゼットさん! 起きてください! リゼットさん!?」
僕は最悪の事態を考えてしまう。
まさか、ヒューゴとケルビンが攫われた?
いや、攫うならヒューゴよりリゼットさんを狙うだろう。
どういうことだ?
疑問は晴れない。
するとリゼットさんが目を覚ました。
「ん〜? アランさん。おはようございます……。どうしたんですか……?」
まだ寝ぼけている様子だ。
僕は
「リゼットさん! 大変だ! ヒューゴとケルビンがいないんだ!」
僕は上体を起こしたリゼットさんの肩を揺すりながら言う。
「……顔でも洗いに行ってるんじゃないですかぁ?」
そんな訳がない。
昨日探索したが、川は見つからなかった。
無いかも知れない川を僕らを残して探しにいくとは思えない。
これは紛れもない緊急事態だ。
パンッ
僕はリゼットさんの眠気を覚ますために顔を叩く。
……ごめん。
「痛!ったい……。 何するんですか!!!」
いきなりのことにリゼットさんは怒る。
「ごめん! リゼットさん! でも緊急事態なんだよ!」
怒っているリゼットさんは完全に目が覚めたようだ。
可愛らしくプンプンと怒っているが、そんなことを気にしている場合じゃない。
「えっと……。どういうことですか?」
僕はさっきと同じように現状を説明する。
しかし、現状を理解したところで何ができると言うのだろうか。
誘拐犯と同じように、何一つ手がかりはない。
僕らが急いでも仕様がないのか?
僕らは待っていることしかできないのだろうか?
説明が終わった時にリゼットさんが僕の後ろを指差す。
「あれ、足跡じゃないですか?」
振り返って、地面を見ると確かに大人二人分の足跡があった。
急いで走ったかのような足跡だ。
「本当だ」
いやちょっと待て……。
大人二人分?
一人はケルビン、つまり子供の足跡があるはずだ。
どういうことだろう?
「……行こう。リゼットさん。この先にヒューゴが居るはずだ」
……ケルビンが居るかどうかは分からない。
「はい」
僕たちは足跡を追って歩き始めた。
——————————
足跡を辿っていくとやがて小さな小屋が見えた。
足跡の方向もそちらを向いている。
——あそこか。
僕はリゼットさんと目を合わせてこくりと頷き合う。
そして小屋に一目散に走り出した。
小屋の前は少し開けていて、そこには
「ヒューゴ!!!」
ヒューゴが血を滴らせて横たわっていた。
僕とリゼットさんはヒューゴの元へ行く。
ヒューゴの近くに膝をついて、様子を見る。
酷い怪我だ。
服の全面が破れ、火傷傷が胸を覆っている。
「リゼットさん! 水ある!? 後、包帯も!」
僕はヒューゴを見つめたまま、リゼットさんに呼びかける。
「ほ、包帯はないですけど、布ならあります!」
と言って、リゼットさんは包帯代わりに保存食を包んでいた袋を裂く。
水筒を取り出し、布と一緒に僕に渡す。
水筒の水を傷にかけて冷やそうとする。
焼け石に水かも知れないがやらないよりはマシだ。
近くに川か井戸があれば……。
僕は周りを見渡す。
残念なことに井戸一つ見つからない。
僕は立ち上がって、
「リゼットさん。僕はあの小屋に入ってみる。ヒューゴを診ていてください」
僕は小屋に向けて一歩を踏み出す。
ゴクリを喉を鳴らして、扉の取っ手を掴む。
開けると、
「ん”ー。ん”ー」
暗い部屋の中から、くぐもった声が聞こえる。
誰かいる……。
僕は目を凝らして声のする方をよく見る。
少しずつ見えてきたのは
「ケルビン!!!」
僕はケルビン近づき、口を塞いでいた猿轡を解く。
「ぶはっ、ここはどこなのさ!?」
ケルビンがやっとのことで開くことができたた口から声を出す。
「森の中の小屋だ。ヒューゴに連れてこられたんじゃないのか?:
僕は状況の把握のために質問をする。
「分からないよ! 起きたらこうなってたんだ!」
ケルビンは荒々しく言葉を発する。
と言うことは誰かに連れてこられたと言うことだ。
つまり、この小屋の中にまだ誰かがいる?
僕は警戒を高める。
暗い部屋に慣れてきた目で小屋の中を見渡す。
人の気配はない。
消えたのか?
それなら何のためにケルビンを誘拐したのだろうか。
誘拐?
そうだ。
ケルビンを連れ去ったのはネビルの村を脅かしている誘拐犯だ。
僕はとりあえず、ケルビンの体を縛っている縄を解くことにした。
すると外からリゼットさんの声が聞こえてきた。
「アランさん! ヒューゴさんが起きました!!!」
「!」
急いでケルビンの縄を解き、小屋の外に出る。
「ヒューゴ!」
木に寄りかかって、リゼットさんに体に包帯を巻かれているヒューゴがこちらを向く。
「……よぅ。アラン……。やってやったぜ」
僕はヒューゴの元に駆け寄る。
「大丈夫か、ヒューゴ! 何が起きたんだ!」
ヒューゴは包帯代わりの布が火傷傷に当たり、痛みに顔を歪ませる。
「痛っつ……。そんな騒ぐなよ。……誘拐犯はやっつけた。そこら辺に転がってなかったか?」
僕は突然の情報量に驚く。
ヒューゴは誘拐犯と痛み分けになったと言うことか。
しかし、周囲を見渡してもそれらしい死体は見当たらない。
「やっつけたって……、この辺りにはいなかったよ」
しかし、よく見ると血の跡が道を示すかのようにこぼれ落ちている。
この先に……犯人がいる……。
僕は血が作る道を見つめた。
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