補足②


     補足 ②


 ライターとしての僕の仕事は、半分は創作活動でした。キースたちはまともにインタビューなど受けてはくれません。

「お前は俺たちのことをよく知っているんだ。適当にそれらしく書いてくれればいい。足りない情報は、質問してくれたら答えるよ」

 記憶装置からキースたちの普段の言葉を聞き直し、その時の空気を思い出しながらインタビュー記事を書いていました。雑誌会社の要望を聞き、それに合わせた質問を考え、キースたちが言いそうな言葉を探し出し、当てはめていました。中にはその言葉を創造することもあります。キースたちならこう言うだろうということは、普段の付き合いから想像がつくのです。

「上手いもんだよな。まるで本当に俺たちが喋っているようだ。これからも頼むな」

 僕の書いた記事について、彼らからの文句は一度もありませんでした。

 記憶装置は、全ての人に埋め込まれていました。当時世界を支配していた会社が権力を持っていた時代に生まれた者はみんな、誕生と共に脳に植え付けられていたのです。小さなもので、脳を傷つけることもなく、成長の妨げにもなりません。記憶装置には、生まれてからの全ての会話が記録されています。本人の声だけでなく、話し相手の声も全てです。心の中の声もまた、記憶されるのです。

 その記憶装置はそのままIDにもなっています。クレジットカードの役割も担っていました。銀行の光装置に金を入れておけば、その情報が記憶装置に送られるのです。銀行に金が入っていれば、現金を必要としません。便利ではありますが、つい無駄遣いをしてしまうのが難点でした。しかし当時世界を支配していた会社が倒産してしまってからは、IDやクレジットとしての機能は失われています。ただ、記憶装置としては今でも使用することが出来ています。この伝記本を書くにあたっても、その記憶が役に立っています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る