ブライアン・ムーン
二千九百四十二年二月二十八日、ブライアン・ムーンはこの世に生まれました。キースとは血の繋がらない兄弟です。キースが高校生の時に両親が離婚をし、その直後に母親が再婚しました。その相手の息子が、キースでした。
「俺は今でも、これからもブライアンを兄貴だなんて思うことはない。当然のことだ。ブライアンとは確かに家族だよ。それは親同士が再婚したからじゃなく、こうして同じバンドで活動をしているんだ。当然だろ? けれどな、この家族は特別なんだ。血の繋がりよりも濃いからな。俺たちは、平等なんだ。兄貴だとか弟だとか、そういう差別はないんだ」
キースとブライアンは義兄弟になったとはいえ、一度も一緒に暮らすということはありませんでした。両親が再婚をしたのを機に、二人はそれぞれ一人暮らしを始めました。
当時の現実として、学生が一人暮らしをするのは珍しいことでした。特に、キースのように中流階級の出では不可能ともいえることだったのです。学生の一人暮らしには、特別な許可が必要でした。表向きには条件がなしということになっていたのですが、実際にはとても厳しい条件があったのです。まず第一に、上流階級以上でなければなりませんでした。
「僕は確かにいい家庭に育ったよ。けれどそれがなんだっていうんだ? どこの家庭で育っても、僕は僕だ。ただ・・・・ 両親の再婚には感謝をしている。お陰で僕はキースと仲良くなり、音楽に出会ったんだから」
ブライアンの父親は、上流階級の生まれでした。それもかなりいい立場の家庭だったようです。今ではあまり意味のなさない過去ですが、おかげでキースは一人暮らしをすることが出来たのです。
「ブライアンはいい奴だよ。言葉遣いは上品だけど、その性格は俺とよく似ている。世間に不満を抱えている。そういうことはな、目を見ればすぐに分かるんだ。ブライアンは上品な面をしていつもニコニコしているけど、その目は俺と同じように腐っていたからな」
キースとブライアンは、一度会っただけですぐに仲良くなりました。その理由は、ザ・ビートルズにあります。ブライアンはザ・ビートルズの名前だけを知っていて、少なからずの興味を持っていました。話のついででそのことを伝えると、キースは大喜びをし、その日のうちにブライアンを僕の家に連れてきました。
「君がいたから僕はギターを覚えた。バンドを組んだのは、君の言葉があったからだ。だけどどうしてだ? 君がメンバーにならなかったことが、僕には不思議でならない」
ブライアンはギターが上手で、すぐにキースを追い越してしまいました。しかしキースは、ギターを使っての作曲が上手でした。初めはザ・ビートルズのモノ真似にすぎませんでしたが、すぐにオリジナリティが現れ始めました。後のライク・ア・ローリングストーンの曲は、ほとんどがミックがその曲の下地を生み出していますが、当時からキースは、地下での音楽よりもよほど楽しい音楽を、簡単に生み出していました。
キースが高校に進学をしてからも、僕はキースと仲が良く、ミックとも仲良くしていました。しかし二人は、たまに僕の家で顔を合わす程度で、互いに連絡を取り合ったりはしていませんでした。ブライアンとミックはまだ、出会ってもいませんでした。
その後僕は、キースともミックとも別の高校に進むことになりました。
「お前がどうしてあんな高校に進んだのか、俺には理解出来ないね。ミックはバカだから仕方がねぇけど、俺は当然、後を追いかけてくると思っていたよ。見栄なんかはりやがって、らしくねぇんだよ」
僕は高校進学に、その街で一番の高校を選びました。理由はただ、いい大学に行きたかったからです。当時は浪人法という法律があり、大学受験に失敗をすると、監察人の元、翌年の受験に向けての勉強をしなければなりませんでした。浪人生の街が存在し、そこに軟禁状態になるとの噂も流れていました。
僕にはどうしても行きたい大学がありました。その大学に行くためには、レベルの高い高校で勉強をするのが近道です。僕が目指した大学は、当時ではかなりの有名校でした。毎年多くの生徒が受験に失敗していました。僕はその大学で、文学の勉強をしたいと考えていたのです。色々とありましたが、その願いは無事に叶い、なんとか卒業をし、こうして今のような仕事をしています。
「高校なんてどうでもよかった。大学だってそうだ。なんの意味があるというんだ? 俺はいつでもそうだ。家から一番近くを選んでいただけだ。ミックを誘ってはみたけど、あいつの頭では俺の通う高校にも大学にも受からなかったんだ。ミックは決してバカじゃない。けれど、勉強は下手クソだ」
僕が高校に進学をした頃、僕はキースに、そろそろバンドを始めてはどうかと言いました。当時は本気だったわけではなく、なんとなくその場のノリで言っただけでした。しかしキースは、僕の言葉を本気にしたのです。
「あれこそが人生で最大の衝撃だった。ビートルズの音楽以上に、心に響いた。お前がああ言わなければ、俺にはあんな発想は浮かばなかった。当時は誰もがそうだよ。自分たちでバンドを組もうなんて、馬鹿げた話だったんだ」
僕はその言葉を、キースがミックにも伝えると考えていました。僕が言わずとも、本気になったキースならば、当然そうすると考えていたのです。僕は初めから、バンドを組むのなら、二人が一緒にやるべきだと考えていました。しかしキースは、ブライアンだけを誘いました。
「ブライアンとの息は最高だった。正直いって、ミックのことは忘れていたよ。たまにお前の家で顔を合わせてはいたけど、ビートルズの話をするくらいだった。ミックのギターは聞く機会がなかったんだ」
しかし運命は、二人を結びつけました。
「俺にとってバンドは、当然の発想だったよ。ただ、俺が考えていたのは、お前のとは違っていた。俺は地下での音楽活動しか頭になかった。高校生になってすぐ、バンドに入ったんだ。知り合いの紹介で、つまらないバンドだったよ。けれど人前で演奏をするのはいい気分だった。俺は当時、それだけで満足をしていたんだ。だけどな、お前の言葉で、目が覚めた。お前は、音楽で世界を変えると言ったんだ。俺やキースにはその力があると意気込んでいた。そんなことを言い出したお前がバンドメンバーとして参加していないのは不思議だったけどな。キースと一緒にバンドを始めていると思っていたよ」
僕はミックに、キースと一緒にバンドを組んで欲しいと誘いをかけました。しかしミックは、即座に断りを入れました。
「直接キースから言われた訳じゃない。俺にだってプライドがあるんだよ。キースとバンドが組めたらとは考えたことがあったよ。けれど俺から誘うつもりはなかった。特に、お前に言われてミックに頼むなんてことは出来るはずがない」
キースとミックは、しばらく別のバンドで活動をしていました。ミックは父親の友達が続けていたバンドに入り、地下での活動をしていました。キースはブライアンとバンドを組み、学校内での活動を始めました。
「あのアイディアは新鮮だった。学校でバンドを組み、文化祭で披露する。最高だよ。放課後に練習することもできる。他校を周るなんて、ぶっ飛んでいたな」
それは古い雑誌で読んだ記事を真似したものでした。失われた歴史以前のバンドはよく、文化祭などのフェスティバルに参加をしていたそうなのです。そこでのライブは貴重な経験になり、ファンを掴むきっかけにもなっていました。その効果は、抜群でした。
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