貴女が望む未来を 1

 画面を見つめタースはため息をついた。毎日のように来ていたミサキからの私用通信がこない。妙な別れ方をしてもう三日。あの時追いかけて問いただすべきだったのだとタースはもう一度息を吐いた。後悔。最近馴染み深いその言葉が浮かぶ。

「あいつサボってんじゃねえのか」

 悪態をつきながらラットがミーティングルームに戻ってきた。ガシガシと頭をかきながらこちらにやって来るのでタースは私用の画面を消す。

「あー、隊長。後で追って連絡が入るそうですが、HS-2は機体の不調のため二日間のメンテが必要だそうです」

「そうか、わかった」

「以上です。ったく、あの馬鹿エンジニア」

 ぶつぶつ言いながらラットは円卓の方へ向かっていく。

「調子が戻ってきたのはいいけど、チーフエンジニアとの信頼関係が築けていないのは駄目ですね」

「そうだな」

 セカンの言葉に返事をすると、彼はちょっと意外そうな顔をした。

「隊長……あの、何かありました?」

 おずおずと問われタースは首を傾げる。質問の意図がよくわからない。

「最近、変じゃないですか? 何か気になることでも」

「特に問題はない」

「ならいいですけど」

 不審の色を隠さずにセカンはこちらを見ている。タースはため息をつき立ち上がった。

「ちょっと出てくる。何かあったら連絡をくれ」

「珍しいですね、何か用事ですか?」

 トーカの言葉には答えずに部屋を後にする。向かう先はSSチームのドックだ。

 馬鹿なことをしていると自分でも思う。わざわざ会いに行ってどうするつもりなのか。連絡をくれと実際会って催促する自分はかなり間が抜けている。

 しかし、そんな心配は杞憂だった。ミサキとつい最近まで仕事をしていたというルドルフに告げられたのは予想外の言葉。

「エンジニアを、辞めた?」

「最近多いんですよ、過労で体調崩す人。ミサキちゃんが体壊してたなんて、昨日うちのチーフエンジニアから聞かされるまで全然気づかなかったんですけどね」

 調子悪いの隠してたのかなあ、とルドルフは頭をかいた。

「そうか、ありがとう」

 あのミサキがエンジニアを辞めた。SSチームのドッグを後にしてタースは歩きながら考える。体調不良で職を辞すならば医者の診断書が必要になる。そう考えて医務室へ足を向けた。

「タース」

 医務室へ続く通路の端で、まさに今訪ねようとしていた人物が立っていた。タースは相手の名を呼ぶ。

「ナギサ」

 白衣を着た彼は硬い表情でこちらを見る。

「ミサキはお前ともう会わない」

 唐突に言われた言葉を頭の中で反芻する。意味がよくわからなかった。もう会わない?

「それは、ミサキの意志なのか」

「そうだ」

「どうして?」

「それを聞くか? だからオレは昔っからお前が嫌いなんだよ。……もうオレたちには関わるな」

「それはどういう……」

 詰め寄ろうとしたその時。

 胸元の通信機がスクランブル・コールを鳴らした。ちらりとそちらに目をやり、タースは再びナギサを見た。

「行けよ、HS-1」

 何か言おうと思ったが何も言葉にならなかった。息を吐いて胸元の音を消し、踵を返して走り出す。

『あたしはタースくんが好きだよ』

 以前、ミサキはそう言った。

『タースくんが好きだから。あたしはそれでいい』

 ちらりと振り返った先では、ナギサが腕を組んでこちらを見送っていた。




 HSチームの四機が空を駆ける。何でこんな時にと悔しがったHS-2は司令室で戦闘の様子を見ているはずだ。

『張り切りすぎてたからよ。いい気味』

 通信越しのシュリの言葉にトーカはくすりと笑う。久々に休めてよかったと、彼女はその一言がどうしても言えない。ラットはこの数日で本来の調子を取り戻しつつあった。機体と一緒に体も休めれば、完全に復活するだろう。

 後ろには今日もSSチームが続いている。隊長のミイネと副隊長のミコトが同時に飛んでいる。SSチームの人間がまた一人過労で倒れたと聞いたので、どちらかがその代わりなのであろう。古巣の負担の大きさを知って思わずため息が漏れる。

「大変そうね」

 残りの二機のうちの一機、友人のアカネに声をかける。

『トーカが戻ってきてくれればいいのよ』

「それは無理よ。うちもカツカツだもの」 

 ミイネから全機に連絡が入った。敵は無人機が三十数機。やれやれと思う。最初に連絡を受けたときは有人機が十機ほどいたはずなのだが。これならば、SPチームの腕ならしにちょうど良かった。SPチームは全機がスタンバイしているが、まだ不慣れであるとして有人機相手では発進許可が下りない。

『無人機でも気を抜くな。今日はラットがいない』

「……はい」

 眉をひそめ、それが悟られないような声で返事をする。戦闘中は機体名で呼ぶ。その規則を徹底している真面目な隊長が珍しいこともあるものだ。

『敵機を補足』

 ミコトの声だ。標準並みの精度になってしまったHS-5のレーダーにはまだ何も映らない。

『撃ってきます!』

「な……」

 瞬間、光が走った。ビクリとしたが自動回避システムに助けられる。SUB側の無人機が射程のかなり外から撃ってきた。あたればもうけもの、ということだろうが嫌な感じだ。

『全機、状況は?』

 タースの言葉に問題なしと返事をする。各機から同じ返事。

「SS-1、敵機位置データの転送をお願いします」

 隊長であるタースが言い出さないので代わりにトーカが口を出す。

「それでいいですね、HS-1」

『ああ。HSチーム行くぞ』

『了解』

 声をハモらせ敵機に向かって加速する。HS-4が早速一機を打ち落とし、トーカもミサイルを放つ。無人機の装甲は以前と違いがないらしく、同じようにあっさりと落ちた。先ほどの無謀な長距離射撃以外に違いはなさそうだ。

「ラットがいないし、これはシュリの独壇場ね」

 そう呟く間にもHS-4は景気よく敵機を落としていた。右、左。真っ二つに折れた敵機が重力にしたがって落ちる。HS-5もそれに続くべく、旋回しようと操縦桿を握る手に力をこめる。

「えっ……?」

 方向が変わらない。意思通りに動かない。つ、と冷や汗が流れる。目の前にはシュリの落とした敵機がある。

「どうして……?」

 トーカは操縦桿を引いた。船首は上がらない。盤に目を走らせる。当然マニュアルモードになっている。オートで動くはずがない。

 二つに割れた敵機の姿がぐんぐん近づいてくる。回避することも止まることもできない。グゥゥゥゥゥゥン。今度は常に聞こえているはずの音が止まった。それがHS-5のエンジン音であると気づきトーカの全身から血の気が下がる。

 刹那。

 ボンッ!!!!

 世界から音が消えた。前のめりになったトーカの体はシートベルトによって引き戻され座席に叩きつけられる。

「………かっ……!」

 肺の空気が一気に抜ける。同時に気の遠くなるようなG。

「……はっ……くっ……」

 落ちている。意識を無理やりつなぎとめ、重力に震える手を叱咤して脱出レバーに手を伸ばす。緊急時にはパイロットがコックピットを脱出できる。

 レバーを引く。

 何も起こらない。

「………っ……!」

 激しい衝撃に悲鳴が喉の奥で弾ける。そのまま、世界が暗転した。




 信じられない思いで、ラットは画面に映る光景を眺めていた。

 HS-5が敵機ともつれ合うように落ちていく。

「トーカ……?」

 まさか、と呟く。HS-4が打ち落とした敵機にHS-5がぶつかった。そんなこと、ありえない。もっと危険な状況であっても常に動ずることなくにHSチームの頭脳として動いてきた彼女が、味方の撃ち落とした機にあたるなどありえない。

『HSチーム! タース! しっかりしなさい!』

 声に我に返る。あれは、SSチームのミイネ隊長。

 送られてくるHSチームの動きは明らかにおかしかった。画面を見つめたまま固まっている通信オペレータのマイクをひったくる。

「仲間がやられても前を見ろ!!」

 呆然としているのだろう三人に激を飛ばす。彼らはまだ戦闘の中にいる。二次被害は避けたい。どうしても。

『本部、指示を! 本部! 応答願います!』

 ミイネの声が悲鳴のようだ。誰も声を発しない。ラットは振り返った。司令室にいる誰もが動けないでいる。

 HS機が落ちた。そのことに皆、我を忘れている。

『本部! HS-5の救助指示を!』

 救助指示。ラットはマイクを投げ捨て机を飛び越える。一段高い場所で呆然としているイブキの胸倉をつかんで揺さぶる。

「長官! 早く救助指示を! あんたはトーカを殺したいのか!」

 ビクリと体を震わせたイブキがラットを見る。焦点の合わない目が次第に意思を帯び始め、ラットは手を離す。イブキは手近にあるマイクのスイッチを入れた。

「司令本部よりSS-1へ。現状は?」

 ラットはホッと息を吐いた。初代HS-2は正気を取り戻したようだ。後はイブキ長官が何とかしてくれる。ラットは振り返りレーダーで各機の動きを見、ドキリとした。HS-4がおかしい。慌てて駆け戻りオペレーターのマイクを拾う。HS-4の通信回線を開いた。

「シュリ!」

『どうして……?』

 魂が抜けたようなシュリの声。ラットは舌打ちする。

 SPチームを出動させろ。後ろからイブキの声が聞こえる。ゾルツ隊長のチーム。百戦錬磨のゾルツ隊長ならばこの程度の状況でひるむはずはない。

「トーカは大丈夫だ」

 シュリに言う。半分は自分に言い聞かせている。胸の奥がキリリと痛んだ。あれだけの高度から落下して無事ですむわけがない。

『ラット……』

「シュリ、しっかりしろ。目の前の敵を片づけることだけを考えろ」

『うん……』

 何でこんな時にHS-2はメンテ中なのだ。内心でラットは毒づいた。

 レーダーに目をやればHS-4は敵機の攻撃をかわしていた。しかし、しばらくして妙な事に気づいた。敵機が減らない。無人機であるはずの敵機が減らないのだ。

「シュリ?」

『ラット……どうしよう………』

 声をかけると返ってきたのは震える声。

『あたし、撃てない』

 ドクッとラットの心臓が嫌な音を立てる。

『……撃てないよ』




 吸い込まれるように落ちていった機体は地面に激突し、炎上した。

 HS-5。無敗を誇るHS機が。

『トーカぁ!』

 通信機からの声にミイネは我に返った。レーダーで味方の機を確認する。呆然。HSチームからはそんな様子が伺える。しかし今はそんな状況ではない。

「HSチーム! タース! しっかりしなさい!」

 リーダーであるHS-1はまだ若い。HSチームは未だに敗北を経験していない。それは取りも直さず隊長であるタースに味方を失った経験がないということ。HS-1からの返事はない。ミイネは盛大に舌打ちした。

『仲間がやられても前を見ろ!!』

 更に言い募ろうとした横から、割り込むように新しい声が聞こえた。この声はHS-2。HSチームのことは彼に任せ、ミイネは本部との回線を開いた。

「本部、指示を! 本部! 応答願います!」

 通信は繋がっている。しかし、返事はない。

「本部! HS-5の救助指示を!」

 二次被害を避けるために、パイロットの救助は本部の判断で指示が出る。地上に戻って変わったシステムだ。

 しかし。指示を要請して気づいた。トーカの救助? HS-5の脱出ポッドは作動していただろうか。眼下には炎。燃え盛るHS-5の機体。あの中にいたままではもう……。

 視界の隅に捕らえていたレーダーに動きが見えた。持ち場を離れていく僚機が一機。

「SS-7、アカネ!」

 単独行動。そんなことをする子ではない。しかし、無理もない。あの二人は仲がよかった。じっとしていられない気持ちは痛いほどわかる。

『隊長、消火活動に入らなくては火が!』

 ミコトの声。冷静なつもりで動揺していた自分に気がついた。落ち着け。ミイネは自分に言い聞かせる。自分がしっかりしなくては。

「SS-2、SS-4と消火にあたって」

『了解』

「アカネ、戻りなさい。消火を手伝って」

『嫌です』

「救助指示はまだ出てないの。あのまま中にいる可能性が……」

『脱出できてたらどうするんですか! 早く、行かないと』

『隊長、アカネの言う通りです』

 SS-2、ミコトの声が割り込んできた。

『トーカはまだ、きっと、生きてます』

 掠れた声。面倒見のいい副隊長はトーカを可愛がっていた。

 落ちたのはHS-5。昔うちのチームにいた元SS-9のトーカ。生きているのならば早く行かなくては。けれど、もし脱出できていなければ無駄足、それも手痛い無駄足となる。

 一度目をぎゅっと閉じてから開き、ミイネは言った。

『アカネ、HS-5の脱出ポッドを探査して」

『了解』

 腹は決まった。責任は自分がとればいい。それが隊長というもの。

『司令本部よりSS-1へ。現状は?』

 待ち望んだ声にミイネは叫ぶ。

「イブキ長官! 応援を要請します。SSチームの増援を! それから、SPチームを援護に出してください」

『わかった』

 もうすぐ援軍は来る。しかし火災は徐々に広がっている。まずい。

 ヒュっとミサイルが視界の隅で落下した。地表近くで小さな爆発を起こす。

「全員無事!?」

『SS-2異常なし。SS-4も同様。位置が離れてます』

『SS-7も異常ありません。隊長、今の爆発でまた火が……』

 ぞくり、とした。戦闘はまだ続いている。消火にかまけていては流れ弾でこちらがやられる危険がある。レーダー上のHSチームはまだふらふらとしている。何をやっているんだと舌打ちがもれた。

「ゾルツ、早く……」

 呟きをかき消すように本部からの通信が入った。

『SS-1、何があった? 現状の報告を』

「現状を報告します。HS-5炎上につき森林火災が発生。その他、ミサイルによる小規模な火災が1件。戦闘は継続中につき被害の拡大が予想されます」

『ト……HS-5のパイロットは?』

 言葉に詰まる。本部からの救助指示は出ていない。脱出ポッドを使用したかさえわからないのだ。

『隊長! 脱出ポット発見しました!』

 アカネの声が割り込んできた。思わずホッと息が漏れる。よかった。HS-5機から脱出できていたのだ。

「ポッドの回収はできそう?」

『あの……地面に……』

 言いにくそうなアカネの返事。ああそうだ、と思わず自分に舌打ちした。宇宙にいた頃の癖が出た。地上には重力がある。宇宙空間に漂うポッドを回収するのとはわけが違うのだ。

「ごめんなさい。位置を教えて」

『HS-5機落下地点より、1.5キロ南東の森林の中に』

「司令本部、HS-5のポッドを確認しました」

『わかった。救助を頼む』

「了解。SS-2、火災の状況を報告して」

『機体墜落による火災が森に燃え移ってます。規模が大きく鎮火の見通しが立ちません』

『隊長、火が……トーカの方に』

 瞬時に頭を巡らせる。

 地上での組織の再編で、SSチームには医療従事者が新たに加えられたが、今回のメンバーの中にはいない。HSチームの戦闘において、救助が必要になるようなことはありえないと判断されていたからだ。先ほど要請した援軍に連れられてやってくるだろうが、流石にもう少し時間がかかる。

 どうすればいい? 悠長なことは言っていられない。SSチームに元々いた人間も応急処置法は習得済みだが実践で使ったことはない。それはもちろん、隊長である自分もそうだ。

 火災の起こっている森に下りるのだ。戦闘もまだ続いている。危険だ。それならば。

「ミコト、指揮権を全て委ねるわ。増援が来るから消火活動を最優先させて。SP-1の指示を聞きなさい」

『了解……隊長、お気をつけて』

 全権委任が示す所をSS-2は気づいたらしい。自らを鼓舞させるようにミイネは言う。

「私が降りてトーカを救出するわ。アカネ、あなたは私とトーカを守るのよ。いいわね」




 敵機から身をかわしミサイルを放つ。しっかりしろ、と自分に言い聞かせる。HS-1。HSチームのリーダー機。自分がやらずにどうするのだ。

 ガクンと機体が揺れた。右翼に被弾。計器をざっと確認するがどうやら大したことはない。無人機相手に被弾。落ち着け、と自らに言い聞かせた。

 ふっと、タースの背後にいた敵機の反応が消えた。レーダーをよく見るといつの間にか味方を示す光点が増えている。

『なぁにやってんだ、タース』

 通信が入った。この声、この口調。

「……ゾルツ隊長」

 苦い思いでその名を呼んだ。SPチームが援護に来た。HSチームの援護にSPチームが。

『機体名で呼べって教えただろうが。ってか、HSチーム、お前ら邪魔だわ、どけ』

「なっ……」

 言葉に詰まる。邪魔? HSチームが。

『おい、ミイネ応答しろ。お前んとこの援軍もつれてきてやったぞ』

『SP-1、こちらSS-2です。SS-1は現在、HS-5救出のため、その、船外に……』

『はぁ? あいつ何馬鹿やってんだ。おい、どけっつてんだろHSチーム。フラフラしてると当てっぞ』

『SS-2、こちらSP-2です。SSチームはそちらにお渡しします。HS-5とSS-1の救助はそちらに一任します』

『SS-2、了解しました。SS-8、9はSS-7と合流して救助に向かって。要救助者が一名。他は消火に』

『了解です』

 ミイネ隊長が船外に? 状況についていけずにタースは戸惑う。要救助者一名。それはつまり、トーカは助かったということか。

『HS-1、こちらSP-2です。ここはSPチームに任せて引いてください』

 SP-2の硬質な声音。背筋が伸びるのを感じながらもタースは戸惑う。

「しかし……」

『お前らがモタモタしてっと流れ弾がミイネに当たんだよ。どけ、タース』

『隊長、ここはSPチームに任せてください』

 ラットの通信が割り込んでくる。

『シュリがそろそろ限界です。セカンも。頼みます、隊長』

 セカンとシュリが限界? ラットに言われて初めて二人のことを思い出す。無人機の数はあれからほとんど減っていない。二人がどうしていたのかタースの記憶にはなかった。

「俺は……」

 何をしていたのだろう。それすらも思い出せない。

「くそっ……」

 吐き捨てて操縦桿を握り直す。ギリリと歯を鳴らし言葉を搾り出す。

「HSチーム、退避する」

『よっしゃ! SPチーム、思う存分暴れてこいや!』




 アルスが司令室のドアが開けると、常ならぬ慌しい空気が部屋中に満ちていた。不快なものではなく、喜びの慌しさ。

「どうした?」

 手近にいた若者に尋ねると彼は興奮冷めやらぬ様子で答えた。

「マザー・スターへ進撃したカレロさまが、HSシリーズを撃墜したとのことです」

「HSシリーズを?」

 通信係が叫んだ。

「確認できました。カレロ大尉の指揮する隊がHS-5を撃墜!」

 歓声があがる。


 蘇るのは青い空と一人の女性。


 アルスの手から書類が滑り落ちた。驚いたクロイツが慌ててそれを拾う。

 報告にガウルは満足げに頷いた。カレロはガウルの取り巻きの一人だ。無理もない。

「よくやった」

「アルス異母兄さまが倒せなかった相手と聞いていたのでどれほどのものかと思えば、意外に大したことなかったみたいですね」

 リウスが口の端を上げて笑いながらこちらを振り返る。

 そんな異母弟を無視するようにアルスは踵を返し、歓喜に沸く通信係に近寄って低い声で尋ねた。

「パイロットは? HS-5のパイロットはどうなった?」

 初期攻略部隊の生き残りでもあるその通信係は小さく首をひねってから答える。

「正確なところはわかりませんが、機体が大破したとのことなのでおそらく無事ではいないはずです」

「……そうか」

「水を差すつもりか、アルス」

 ガウルの言葉に振り返りはするが、父親に対して言うべき言葉を何も思いつかなかった。

「いえ、アルス様はHSチームのフォーメーションを気にしておられましたので、その……」

 とりなすようなクロイツの言葉にガウルは厳しい視線を送る。

「お前に聞いているわけではない」

「申し訳ありません」

 そんな騒動を感情のこもらぬ目でアルスはただ見る。リウスが近づき異母兄の顔を覗き込んだ。

「大丈夫ですか、異母兄さん。ずいぶんとお顔の色が悪い」

 間近に迫ったリウスの顔。

 アルスの瞳に感情が戻る。ふっとリウスに笑いかけた。

「大丈夫だ」

 異母弟を軽く押しのけるようにしてアルスは父親へ近づく。厳しい顔のガウルに笑いかけた。

「おめでとうございます、父上。今がINIT攻め落とす好機かと」

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