変革のとき 後編

 INITの本部と戦闘の最前線である基地とは距離がある。滑走路が街から離れて作られているためだ。街の中心にある本部で戦闘の指示を行うのは非効率だ。だから、飛行場の周りに基地が作られ、本部の機能が一部移転した。

 今、ミサキたちエンジニアやパイロットたちはこの基地で暮らしていた。しかし、本部と行き来をする必要が全くないかと言えば答えはノーである。データになってはいない資料や本部に残っている技術部とのやりとりなどではその部署のスタッフが行ったり来たりしなくてはならない。雑務の場合は手が空いていて若い者が行くのが常である。

 ミサキは本部に部品を届け、基地まで戻ってきた。SSチームのドッグはこの通路を曲がった奥にある。

「こっちに曲がると、HSチームよね」

 そうは思うが向こうもこちらも忙しい身。視線を外して角を曲がる。その拍子に誰かにぶつかった。

 鼻をさすりながら顔を上げると目の前にいたのはタース。お互いに驚いて、向かい合ったまま見つめ合う。

「タースくん」

 こういう時の常でミサキの方が口火を切った。驚いたまま言った。

「久しぶりだね」

「このところ忙しかったからな」

「うん。無理してない?」

「ああ」

 タースが笑いミサキも笑顔を見せる。手を伸ばして彼の服の裾を掴んだ。

「仲がいいことだな」

 別の声が割り込んできたのはそんな時だ。

 振り返るといつの間に現れたのか、そこにはタリムがいた。彼の後ろには数人の警備と秘書らしき女性がいる。

 タースが小さく舌打ちした。

「何でここに」

「視察だよ。長官が視察に来た。何か問題でも?」

 息子の呟きにタリムは答えを返す。その視線がゆっくりとミサキに移った。

「仲がいいのは結構だが、『元』婚約者同士があまりベタベタしているのは感心せんな」

「タリム長官……」

 『元』婚約者。そんなことはわかっている。ミサキは反論が欲しくてタースを見た。しかし、タースはタリムを睨んでいるだけで口を開く様子はない。

「君はもうHS-1のエンジニアじゃないんだよ。わかるね、ミサキくん。タースにもう関わらないでくれ」

 ゆっくりとした足取りでタリムは近づいてきた。ミサキは少し身を引いて、しかしタースの服を握る手に力をこめる。タリムの目がすっと細くなった。

「お兄さんたちがお父さんのようになってもいいのかな?」

 すれ違いざま、ミサキの耳元でタリムはそう囁いた。

「え……?」

 お父さんのように? 父親は事故で亡くなった。事故の責任を問われそうになった自分たち家族を助けてくれたのが他ならぬ、このタリム長官だ。

 しかし。

「その言い方はまるで」

 あの事故はタリム長官が仕組んだようではないですか。

 そう続けられずミサキはただタリムの顔を見た。タリムは口の端を少し上げる。

 パタリ、と手が落ちた。タースの服を掴んでいた手が落ちた。

「わかったようだな。まあ、今日のところは見逃そう」

 警備と秘書を引き連れてタリムは歩いていった。ミサキは彼らが角を曲がるまで呆然としていた。

 タリム長官のあの言葉は本当なのか? そんな馬鹿なこと。けれど、タリム長官のあの笑みは。

「お兄ちゃん……」

 小さい頃から自分を守ってくれた二人の兄。自分のせいで二人に何かあったら。ミサキはぞっとして自分の身を抱いた。

「ミサキ、どうした?」

 ビクリと身を震わせてミサキはタースを見た。

 タリムの言葉が本当なら、ルエ家はサイロン家に嵌められたのだとしたら。

 そばにいて欲しいとタースは言った。あの言葉に嘘はない。けれど、けれど……。

 ミサキは目を伏せタースの横をすり抜けた。

「ごめん」

「ミサキ?」

 足早にミサキは歩き出した。タースが何かを言っている。振り返れば足が止まる。だからそのまま歩を進める。

 タースは追いかけてはこなかった。




「ミサキさん?」

 声をかけるも彼女はこちらに気づきもせずに歩いていく。その顔は青白くいつもの明るさはない。

 セカンは首をかしげた。戦闘後恒例のボディチェックを終えてミーティングルームへ戻る途中である。彼女の行く先には医療施設しかないはずだ。

「具合でも悪いのか?」

 角を曲がった彼女の姿は見えなくなった。疑問を残したままセカンはミーティングルームの方へ歩き出す。

 連日連夜の出動の中、よいことが一つだけある。戦闘終了ごとに行われていたボディチェックが週に一度になったのだ。ツクミ博士と二人きりになる回数が減るのは嬉しい。これでもう一週間は会わなくてすむ。

 前向きに考えよう、と思う。連日連夜、HSチームの出動要請があるお陰で自分はまだ役に立つとみなされている。フォスが恐れ、自分も内心では怖くて仕方がない『廃棄』の二文字は遠い。前向きに、考えよう。

『最近は、戦闘機の設計をやってるんだ。INITに言われてね。今回の仕事は、僕は聞いたとき正直驚いた』

『何をやるんだ?』

『企業秘密。だけど兄さんには関係のあることだからこっそり教えておくよ。誰にも言わないで』

 月基地にやってきた弟のフォスは言った。


『HS機を地球で戦えるように作り直す。その図面を僕が描いてるのさ』


 すべては予定通り。INITが予測していた出来事。

 ただ一つの誤算は時期が早かったことだ。月基地の放棄。それは、基地の人間が撤退し、全チームの機体が地球用に改良されてから行われるはずだったのだ。そして、この誤算よってSGチームは……。

 セカンは息を吐いた。苦しんでいるチームメイトに何もしてやれないのは自分が普通の人間ではないからなのだろうか。

 ミーティングルームの前まで来ると、向こうからタースが歩いてきた。どこかボンヤリしている。珍しい光景にセカンは瞬きする。

「隊長?」

 ボンヤリとしたままタースはこちらを向く。こちらを見て、ああ、と返事をした。

「どうかしたんですか?」

「いや、別に」

「さっきミサキさんに会いましたよ」

 ミーティングルームの扉を開けようとしたタースの手が止まった。

「どこで?」

「医務室に向かう通路です」

 しっかりと整った医療施設も併設されているが一般的によく利用されているのはその手前にある医務室である。セカンがそう答えるとタースは微妙な表情をした。

「ナギサのところへ行ったか」

 なら安心だ。そう続けたタースの表情は曇ったままだ。

「ミサキさんと何かあったんですか?」

「大したことじゃない」

 扉を開けたタースに続いてミーティングルームへ入る。

 何かあったことを認めた隊長にそれ以上をセカンは聞けなかった。ラットやトーカならどんな風に聞き出すのだろうか、そう思った。




 基地の医務室の前でミサキは立ち止まった。三つある医務室。三番の部屋は今は空いている。深呼吸をして扉を開けた。

「ミサキ、どうした?」

 白衣姿の兄のナギサが立ち上がる。今日のこの時間が当番なのだと知っていたからここに来た。

「気分でも悪いのか?」

「聞きたいことがあるの。父さんのこと」

 ナギサの表情が変わった。ちらりと辺りに目を走らせる。

「サクラくん、悪いけどちょっと席外してくれないか。十分ぐらい……休憩ということで」

「あ、はい」

 薬棚を整理していた若い看護師が頷き、上着を羽織って外に出て行った。ドアを閉めたナギサは椅子に座るよう促す。

「それで、何が聞きたい」

「父さんは、父さんのあの事故はタリム長官が仕組んだの?」

 驚いたように目を見開き、ナギサの視線がせわしなく動く。動揺している。どう言おうかと考えている時の癖だ。

「誤魔化さないで、お兄ちゃん」

「タースがそう言ったのか」

 首を横に振って、先ほどの出来事を話す。ミサキが口を閉じた頃にはナギサの顔は真っ青になっていた。

「そうなのね」

「……確証はなかった。オレたちが勝手にいろいろ想像してただけだ」

「お兄ちゃんたちは知ってたんだ」

 キュッと唇を噛んでミサキは俯く。情けなかった。あの事故のときは幼かったにしても、それ以降に気づく機会はいくらでもあったはずなのだ。家族の中で自分だけが知らずにいた。

「ごめん……」

「謝ることない。お前には知って欲しくなかった」

「子ども扱い?」

 ナギサは少しだけ口元を緩めた。ミサキにだってわかっている。タースのことがあったから、ミサキがタースのことを好きだから、だから兄たちは気を使ってくれていたのだ。

 子ども扱いされている。甘やかされている。兄たちに守られている。そのことが心地よくて苦しい。家族を守りたいのは自分だって同じなのだとそう言いたい。

 タリム長官を許せない。しかし、同時に恐ろしかった。長官に睨まれればINITの中で暮らしてはいけない。それが、一番強い権力を持つタリム長官なら尚のことだ。

「このままってわけには、いかないよね」

 自分の気持ちを押し通せば、ミナトにもナギサにも迷惑がかかる。長官の警告には従うしかない。

 タースと別れる。別れようと思った。彼とはもう会わない。

 ああそうだ。ミサキは伏せていた目を上げた。タリムにこちらの意思を伝えるいい方法を思いついた。最初からこうすればよかったのだ。そう、婚約破棄を伝えられた時から。

「ナギサ兄ちゃん」

「ん?」

「あたし、エンジニア辞めるよ」

 驚いたようにナギサが目を見開いた。普段クールぶっているこの兄がここまで驚くのは珍しい。

「いいのか? お前……」

「あたしもう、この『基地』にはいられそうにないから」

 ここにいればまた、タースと出会ってしまう。平静でいられる自信はなかった。たとえ、出会わなくとも機体に触っていれば思い出すのは彼のことばかりで、それには耐えられそうにない。

「しばらくの間養ってよ」

「いいんだぞ」

 ナギサは手を伸ばしてミサキの頬に触れる。いつの間にか流れていた涙を拭ってくれた。

「お前は自分の好きなようにしたらいいんだぞ」

 唇を噛んでミサキは俯いた。ゆっくりと首を横に振る。

 タースのことが一番で、彼に近づきたくてここまでやってきた。けれどそれは、兄たちが守ってきてくれたからだ。その兄たちを苦しめるようなことはどうしてもできなかった。

 そばにいて欲しいとタースは言ってくれたのに。




 ミーティングルームへ戻る途中、ラットはふと立ち止まった。基地の中庭にあるベンチに見覚えのある人影。

「サクラ、非番か?」

 近づいてそう声をかけると看護師の服を着た真ん中の妹は顔を上げた。

「先生に来客があって休憩中なの。ラット兄ちゃんは?」

「うちはお呼びがかかるまですることねえよ」

「ミーティングルームにいなくていいの?」

「息がつまるもん。何かオレ気ぃ使われちゃっててさあ」

 サクラは顔をしかめた。

「わたし、そういう自虐的な言い方嫌い」

 ラットは小さく口の端を上げ、隣に腰を下ろした。

「リーネの様子は?」

「大丈夫。お姉ちゃんは強いもん。リオスもアマネも傍にいるし」

「そっか」

 視線を向けずに手を伸ばし、ラットはサクラの頭を撫でた。サクラは黙ってそれを受ける。

「大きくなって」

「当たり前じゃない」

「昔っから、お前はサロンと仲良かったな」

 名前に反応してサクラがビクリと体を震わせる。ラットは気づかない振りをする。

「……兄ちゃんが気にするのはお門違いだよ」

 ラットはゆっくりとサクラを見た。サクラも強い瞳で見返す。

「自分の未来ぐらい自分で決めれるの。サロン兄ちゃんはそうしたのよ。ラット兄ちゃんのせいじゃないって、何でわかんないの」

 ラットは目を伏せた。サクラは立ち上がって言う。

「サロン兄ちゃんのこと思うんだったら、ウジウジしてるんじゃないわよ」

 足音が遠ざかっていく。ラットは地面を見つめたままその音を聞いた。

 音が変わる。入れ違いに別の足音が近づいてきた。

 その人物はラットの前で立ち止まった。見覚えのある足先に顔を上げると、パチンと音がして頬に痛みを感じる。目の前の人物が平手でラットを打ったのだ。

「あの女の子に何をしたの? あの子、泣いてたわよ」

 彼女を見上げる。見上げていると、ふっと小さな笑みがもれた。

「今の平手、嫉妬だったらすげえ嬉しい」

「何を馬鹿なことを言ってんのよ、あんたは」

 シュリは仁王立ちしたまま呆れたように首を傾ける。ラットは笑みを崩さぬまま言った。

「妹だよ。ちょっと喋ってただけ」

「……そう」

 少し考えてからシュリはラットの隣に腰を下ろす。何だかんだ言っても真面目なシュリがサボるのは珍しい。

「ミーティングルームに戻んなくていいんですか、シュリさん」

「いいんじゃない。何か起こってるわけじゃないし。隊長も別に気にしてなさそうだったし」

「シュリは、オレを探しにきたの?」

 隣を向くとシュリもラットのほうを向いていた。彼女は向かい合ったままゆっくりと口を開く。

「そうよ」

 ラットはゆっくりと視線を外した。

「あんた最近……変よ。そんなことじゃ、駄目だと思う」

 言葉を選ぶ彼女にまた笑みが漏れる。

「シュリは一人っ子だっけ?」

「そうよ」

「オレは長男なんだよ」

「六人兄弟だっけ」

「そう。小さい頃は大変だったよ。両親がいなかったし、何するにもカツカツでさあ」

 大きく息を吐いてラットは目を閉じた。

「小さい頃からサロンはいっつも、兄ちゃんみたいになりたいって言ってたんだ」

 目の奥にはあの頃の弟妹たちの顔がある。耳の奥には声が残っている。

 穏やかな風が髪を揺らす。サロンが最初に配属されたのがSGチームだった。この空もこの風も、二度と見れぬまま弟は月基地と運命を共にした。

「なあ、オレ変だよ。まだ信じられないんだ。一ヶ月も経ってるのに、月基地へ戻ったらSGチームがいるような気がしてるんだ。『お前ら休み過ぎ』ってキョウ隊長に怒られるかも、サロンに会って『リーネたち元気だったぞ』って伝えなきゃいけない、なんてそんなこと考えてるんだ」

 シュリは何も言わない。ラットはゆっくりと目を開ける。

「なんてな」

 笑って立ち上がった。彼女の方を向いて言う。

「じゃあ、戻ろうぜ。これ以上サボってたら隊長に怒られ……」

「変じゃないわよ」

 ぐいと腕を掴んで引き戻される。ベンチに腰を落としたラットは間近でシュリの顔を見た。恐ろしいほど真剣な顔をした彼女の顔を見た。

「泣きたいんなら泣きなさいよ」

 ラットはゆるく首を振る。泣けと言われて簡単にできるわけがなく逆に笑ってみせる。

 前触れもなしに平手が飛んできた。バチッ。よけられずに受ける。さっきのものよりも痛い。

「シュリさん?」

「痛かった?」

「痛かった」

「じゃあ涙出るでしょ。泣きなさいよ」

 目を瞬かせて考えて、ラットは思わず噴出した。久しぶりに声を上げて笑う。

「そういう問題じゃないだろ。あ―でも、お前のそういうところすげえ好き」

 くつくつと笑いながらシュリの肩に手を置く。その上に頭をのせて笑った。

 次第に、声が嗚咽に変わる。シュリは身じろぎもせず何も言わない。そんな彼女がありがたかった。何も言わないで肩を貸してくれる彼女がたまらなくありがたかった。




「しっかりしなくちゃね」

 呟きをセカンの耳は捕らえていた。今、ミーティングルームには自分とトーカしかいない。思わす彼女の顔を見ると、トーカは首を傾げて笑った。

「何? セカン」

「……別に。たまたま向いただけ」

「そう」

 言いながらトーカはコーヒーカップを片付ける。気が利く彼女が入れてくれるお茶は美味しいのでHSチームの給湯はトーカに頼りきりである。

「疲れてる?」

 尋ねると彼女は少し意外そうな顔をした。

「それなりには疲れてるわ。毎日気が抜けないもの」

 SPチームが出撃できるようだから楽になるはずよ、とトーカは先ほど隊長の言葉を繰り返す。

「セカンは?」

「おれは別に」

「若いのね」

 冗談のように言って笑う。関係あるのは年じゃない。そう思ってこちらは眉をしかめた。

「私のことは気にしなくても大丈夫。普通の人よりは体力があるつもりよ。小さい頃は森の中を駆け回ってたしね」

 驚いてセカンはトーカの横顔をまじまじと見た。彼女は集めたカップを持って給湯室に向かってしまった。その様子は普段と何も変わらない。自分が何を口にしたのかも気づいてはいないようだ。月基地にいた頃は絶対口にしなかった小さい頃の話。

 トーカがリバイアルだということを彼女自身の口から聞いてはいなかった。また、セカンたちもあえて彼女にそれを知っていると伝えていない。トーカは自身がリバイアルの民であるとセカンたちが知っていることは知らないのだ。だからこそ彼女はリバイアルに繋がるような話、例えば小さい頃は森にいたという話を決して口にはしなかった。

「トーカらしくないな」

 やっぱり疲れているんだろうか。暗澹たる気分でセカンは思った。ラットに隊長、そしてトーカ。月の基地にいた頃とは何かが変わってきている。




 本部からの帰り道、横を通った車が速度を落として止まった。中から顔をのぞかせたのは双子の弟である。

「何じゃ、ナギサ」

「帰るんだろ、乗れよ」

 同じ所に帰るのだから遠慮する必要はない。車高が低い弟の車に頭をぶつけそうになりながらミナトは車に乗り込んだ。

 ヒクリ、と鼻が動く。タバコの臭いが車の中に充満していた。

「珍しいの」

「タバコ臭い医者は嫌がられる。癖になるから普段は吸わないだけだ」

「珍しいの。えらく饒舌じゃな、ナギサ」

「ミサキがエンジニアを辞める」

 車をゆっくりと発進させながら弟が言った。

「……ミサキがそう言ったんか?」

「そうだ。表向きは体調不良だが、原因はサイロンの馬鹿親子だ」

「診断書はナギサが書くんか?」

「ああ」

「身内が書くな。長官が絡んでるなら尚のことじゃ。トキヤ先生に頼め。あの人なら適当に理由をでっち上げれば書いてくれるわ」

 ナギサはミラー越しにミナトを見た。

「そういうことには、お前は本当に頭が回るな。羨ましいよ」

「で、何があったんじゃ?」

 ミサキから聞かされたタリム長官の言葉をナギサは繰り返した。聞き終わったミナトは思わず鼻で笑い、そして黙った。

「……どうする?」

「ミサキのことはミサキが決める」

「オレが聞きたいのはサイロンの方だ」

「このままでいれば、わしらには手を出してこんじゃろうよ。ルエ家はサイロン家に歯向かう力はないからの。所詮『ルエ』の名前はわしらの代で消える運命じゃ」

「大人しくしてるしかないのか」

「ミサキが身を引いたんじゃ。わしらが今とやかく言うことはなかろ」

 ナギサが舌打ちをして減速する。本部に程近い我が家に着いたのだ。

 車から降りたミナトは隣の家を見上げ不敵な笑みを浮かべた。隣接するのはサイロン家。INIT内で一番権力を持つタリム長官の家。

「今に、見とれよ」

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