第25話 乗り込む戦士
「ここが…医者会。」
未來の家からは随分と遠かった。天乃は医者会の門を前に肩で息をする。
「ここから先は…敵だらけね。」
息を整え、裏口を探す。表の門から堂々と入って太刀打ちできるわけがない。
(とりあえず…父と母を見つけて張り倒さないと気が済まないわ。)
昔、まだここが普通に医者たちが集まる集会所だったころ、
天乃は純也と共にここへ連れてきてもらった事があった。
綺麗な内装、中庭には美しい植物が色とりどりに咲き誇り、最新式の機械、
清潔で真っ白な白衣に身を包んだ医者たち、青みがかった涼し気な制服を着た研究員たち…。その記憶はどれもキラキラしていた。
裏口は長く使われていないからか、苔が生えている。扉も錆び付いていてなかなか開かない。
「くっ…うぅっ…」
努力の甲斐あって、少し扉がギギッと音を立てて動いた。その時だった。
「誰かいるのか?」
その声に天乃は隠れるように中へ入ってしまった。
足音が遠ざかるのを待つ。やがて何も聞こえなくなり、胸をなでおろした。
「気付いてないとでも思ったか?」
「あっ…!!」
刹那、左頬に走る鋭い痛み。「な…なんで…」と怯える天乃に目の前に立つ青年はだんだんとこちらへ近づいてくる。
「…ここに貴様が入ってきたことは既に知っていた。怖いもの知らずの可愛げある子供かと思ったが、裏口の
「貴方…朱雀ね。四天王の1人の…。」
「おお、これは光栄だな。俺の事を知っているなんて。でも、それがどうしたっていうんだ?」
そこまで言うと、朱雀は天乃に切りつけた方と同じ側の自分の頬を指さし、意地悪そうに笑うと、「Blood Lumea」と呟いた。
「…あが…っ…!!」
その瞬間天乃はうめき声をあげた。頬の傷が尋常じゃない熱を持ちやけどした様な痛みが襲ってくる。
「貴様らの事はこの協会でも少々話題に上っている。いい実験材料として役に立ってもらうよ。」
うずくまる天乃に延ばされた朱雀の手をすんでのところで天乃はかわした。
(逃げなきゃ…まともに戦ったら勝てない!)
「
天乃は朱雀のいた方向に能力を放つと走り出した。時間稼ぎにしかならないが、天乃はそれでも必死に走った。
(どうするか…。大学生女子の足の速さなんてたかが知れてる…。いちかばちか…!)
「逃がすか…!」
朱雀は天乃の鼻った能力による霧で視界を遮られながらも追いかけ始める。
ただ、朱雀にかけられた霧はなかなか晴れない。進んでも進んでも視界はモヤモヤとした白い霧にクリーム色の煙が混ざった様な視界は変わらない。
分かれ道に差し掛かり、辺りを見回していると不意に何かが朱雀の足に当たった。
「…なんだこれ?」
よく見ると、それは倒れている医者会の研究員たち。朱雀はチッと舌打ちをし、血走った目でその研究員たちを見つめた。
「…!!」
不意にその朱雀の目が大きく見開く。息が止まり体の中で何かが暴れる感じがし、朱雀はその場で倒れこんだ。
狂った世界は林檎に溺れ あんぶれら @Summer_mikan
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