第24話 目覚めた瞬間

未來の長く苦しい記憶が止まった瞬間、エレスは天乃を突き放した。

天乃はそのままヨロヨロト白い地面に座り込んだ。

刹那、力が入らない天乃を目がけて林檎が飛んできた。

「痛っ…!!」

「持っていきなさいよ。己の欲望を果たしたいんでしょう?」

天乃は何かを言い返そうとしたが、それすらエレスは阻む様に

「失った弟、純也のためにもね…?」

天乃の目が一瞬見開き、次の瞬間、天乃は現実世界に戻っていた。手には林檎が握られ、未來から生えた植物は跡形もなく消え去っていた。見間違いだったのだろうか。それでも手に収まっている綺麗な赤い林檎が今起きたことを真実だと証明していた。

(私が…責任を取らなくちゃ。純也のためにも…あいつらを…!)

すぐに天乃は立ち上がり、未來の家を出た。家鍵を持っていくのは気が引けたため、ドアの前にプランターや植木鉢を並べて、走り出した。


「あ。天霧君。」

翔の声で十夜は後ろを振り向いた。

「どこ行くの?」という翔に十夜はぶっきらぼうに「別に。ただ散歩してただけ」と答える。

「じゃあ、その包帯や消毒液は何?誰か怪我したのかい?」

翔は最初から予想をつけていたのかもしれなかった。

言葉に詰まる十夜だったが、何故かもう翔に対して強がる必要性も、敵対する必要性もないように感じた。

「未來が…怪我したんだ。誰かは分からないけど何者かの手によって…。」

「…そうなのか…。」

あまりの出来事に翔も言葉を失いかけている。だが、すぐに何を思い立ったのか十夜のほうを向いて「透結晶《マッドスケープ》」と呟いた。

「ちょっ…おい!!」

「黙ってて。天霧君。」

「・・・・」

睨むように翔を見つめる十夜に翔は不思議そうな顔をして言った。

「天霧君の脳内にあったが消えてる。

まあ、僕のこの能力は今考えてる事や頭のどこかで思っていることしか見えないからいろんな理由が考えられるけど…不思議だな。」

「…確かに俺も…何だか体が軽くなった気がするんだ。みたいな…。」

十夜のこんな不思議そうな顔を見るのは翔にとって初めてだった。

いつもどこか荒々しい性格で、どこか強がっている部分もある十夜の不思議そうに首をかしげる姿はギャップ萌えさえ覚える。

「…とにかく。桜樹さんが危ないんだろ?早く行こう。」

翔と十夜は再び未來の家へと急いだ。


「あっ…十夜君、先輩…!どうしてここに…?」

目を覚ました未來は2人を見つめる。

「動かないで。桜樹さん。」

翔は十夜から包帯や消毒液を受け取り、傷口を治療し始めた。

「未來…突然の事でびっくりしたけど…無事でよかった。」

包帯を巻き終わった未來を十夜は抱き締める。

「私…っ。歩いてたら急に刃物を持った人が来て…それでっ…!」

「いいから…。それ以上言うな。」

ポロポロと涙を流す未來の頭を撫でながら、十夜は翔に聞いた。

「未來の記憶…お前の能力で見れねぇのか?」

「流石に…それは無理だね。」

翔は日が沈んだ空を窓から眺めながら悲しそうにつぶやいた。

「…天乃ちゃんは…?」

「そういえば…見てないな…!」

焦った様に翔が立ち上がる。

「私…探しに行く。天乃ちゃんだけを危ない目には合わせたくない!」

「無茶言うな、未來!まだ怪我が…!」

「…僕は行く。天乃さんを1人にはできないし、行き場所なら心当たりがあるんだ。」

そういうと、翔はスマホの写真を見せてきた。

「これは、最近僕の中で警戒している人間たちなんだ。実際、天乃さんと桜樹さんの後をつけていたこともあった。一応証拠写真として撮っておいたんだ。」

「この人たちが…。」

「それで…水原が向かった場所ってどこなんだよ。」

翔は真面目な顔で頷くと、一呼吸おいて言った。


「医者会。」

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