第23話 それでも彼女は生きた
「この通りです。」
女医は静かに孝を見つめた。
「今は延命装置をつけてますが、もう今までと同じく生きることはできないでしょう。脳死に加え、傷が酷く…。」
「…そうですか。」
「延命装置をこれ以上つけるか否かはお任せします。どうしますか?」
「そんなの…外す以外に選択肢なんてないじゃないですか!!」
未來はそう叫んで、傍らにあった証明書に乱暴にサインを書き殴り、病室を出た。テレビや映画でこういう場面に出くわしていたものを何回か見た事がある。でも、いつも他人事だった。それがいざ自分に降りかかるとなるとこんなに取り乱すものなのだろうか。
「お父さん…ごめんなさい…。」
呟くように吐いたその言葉に、気付いたように虎太郎と男性がやってきた。
「未來さん…。孝さんは…」
その言葉に未來は首を横に振った。
虎太郎は唇を噛み締め、未來の頭をただ撫で続けた。
そこに看護師さんが走ってきた。
「ああ、桜樹さん…!お父様が先程ご臨終なされました…。遺体を確認する為にも一度病室に戻ってきてくれませんか?」
「未來さん…。」
「…白夜さんもついてきてくれませんか…?1人じゃ…怖くて。」
その願いに、「未來さんさえ良ければ。」と虎太郎はいい後をついてきた。
未來が倒れない様に支えつつ、虎太郎も既に亡骸になっている孝を見て目を抑えながら泣いているように見えた、
「お父さん…助けられなくてごめんなさい…。」
未來は冷たくなった孝を布団の上から抱き締めた。
葬儀は淡々と行われていった。
虎太郎自身も「親だけでなく、僕も小さい頃からお世話になっていたからね。」という理由で葬儀の準備などを手伝ってくれた。
「可哀そうにねぇ…。」
「まだ高校生だというのに…。」
「こんな短期間で両親を2人とも亡くしてしまうなんて…。」
葬儀の場で哀れみの目を向ける人もいた。検察官の母と優秀な研究員の娘だったからかその環境に嫉妬して「ざまぁみろ」というような顔、どこか他人事の目を向ける人もいた。
「大丈夫。僕は未來さんの味方だから。あんな奴ら…どうして葬儀に顔を出せるのか…。」と呆れたようにも未來を精神的にも支えてくれた虎太郎のおかげで、未來は気を保つことが出来ていた。
その帰り際、虎太郎は未來に連絡先を手渡した。
「僕がお世話になった人の娘なら助けることを厭わない。両親も許してくれるさ。何かあったら連絡して。」
「ありがとうございます…白夜さん。」
週明けから、未來はまた高校に通うようになった。虎太郎はたまにご飯の差し入れや、使わなくなった参考書、誕生日にはプレゼントまでくれ、未來が1人の女子高生として成り立つように最大限の手助けをした。
その末に未來は高倍率である慶典大学を目指すことを決めた。
そこは孝の母校。その場で自分も立派な生物学者になることが最善の道だと思ったからだった。
虎太郎はそれを聞いて、ただ「そっか、頑張ってね。」と優しく応援をした。
まるで本当の兄妹の様に。
虎太郎も忙しかったからなのか、幸か不幸か未來が大学を受験するころにはもう虎太郎は未來の家にはあまり来なくなってしまい、連絡は途絶えてしまった。
合格後、最後に未來は「ありがとうございました。」とメールだけ送り、スマホを変えてしまってからは一切虎太郎とは他人になった。
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