第22話 繋がりのあった人

未來は1度家へ帰ることになった。平日の昼時だからか未來と同い年であろう人は誰もいない。家の中は空っぽだった。当たり前だ。本来この時間は未來もお父さんもそれぞれ会社や仕事に行っているのだから。


でも「その日」だけは違った。

1人でお母さんの遺品を片付けている時だった。

ピンポンと呼び鈴が鳴り、未來がドアの覗き穴から外を伺うと、どこか見覚えのある人物が立っていた。正装をして気難しそうか顔で未來が出てくるのを待っていた。

それでも念のため、「…どちら様でしょうか?」とインターホンで聞き返す。

返ってきた答えはどこか予想通りで、どこか予想とは外れていた。

「桜樹さんにはお世話になってました、白夜虎太郎です。」

未來がまだ中学3年生だった時、色々話を聞いてくれた虎太郎だった。

なぜここを知っているのだろう?お父さんとの関係は?と浮かぶ疑問を拭い去り、未來はゆっくりと玄関の扉を開けた。


「桜樹さん…いえ、未來さん。お久しぶりです。」

「白夜さん…どうかしたんですか?なぜ私の家を…」

「何から話せばいいのか分からないが…実は、君のお父様が先日車に轢き逃げされたんだ。搬送先の病院で今昏睡状態だそうで…外に車がある。詳細は車の中で話すから今はただついてきて。」

「い・・・嫌です!!?」

未來は虎太郎の言葉に返すように叫んだ。

「お父さんが死んだ?そんなのあり得ない。大体・・・白夜さんは何でここを知ってるんですか??!」

「僕と君のお父さん、桜樹 孝さんは医者である僕の親と繋がりのある研究室に勤務されてる方だった。もちろん、孝さんの娘が君だったことは数ヶ月に初めて知った。驚きだったよ。

そんな君のお父さんが、昨日事故に合ったんだ。幸いまだ生きてはいる。だから…!…それでも、まだ疑うなら、証拠だって出せる。」

未來は自身の目を一直線に見つめる虎太郎の目が嘘をついているようには到底感じられなかった。

「…大丈夫です…。早く…お父さんに…。」

ガクガクと震える未來はそう頷くのが精一杯だった。虎太郎は未來の肩を抱き、外に待たせてある車の方に連れていった。

「何とか正気は保っているようだ。早く出してくれ。」

運転席にいる男性にそう言うと虎太郎は未來をそのまま後ろの席に乗せ、自分もその横に乗った。

しばらく3人とも黙ったままだった。

(……?)

未來はふと運転席の男性に目がいった。どこかで見覚えがある気がしたからだ。ただ、未來が口を開こうか迷っている間に車は病院に着いてしまった。

「ここから先、僕らは行かないから。未來さんが1人で行ってきて。」

そう言って虎太郎は、未來の目に浮かぶ涙を拭って送り出してくれた。


その病室は静寂に満ちていた。

「お父さん…?」

そう呟き、未來は寝ているお父さんに近付く。

「っ……!!!」

その体には沢山の管がつけられており、機械の電子音だけが響き続けている。

「お父…さん…」

涙がどんどん溢れてくる。

(何で…!?どうしてお父さんが…!?)

混乱と悲しみが涙と嗚咽となって目から溢れ続けていく。

既にお父さんの顔は生きている人間の顔じゃなかった。包帯に巻かれた、一見誰か分からないような人間。

ただその場で泣き崩れていると、その泣き声を聞き付けたのか、女の先生が入ってきた。


「桜樹さんのご家族の方ですか?」

その問いにも未來はただ泣きながら頷くしかなかった。

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