第21話 医者の助手

病院のベッドで未來は目を覚ました。何日間寝ていたのだろう。ぼーっとする視界の中で白い病室の天井だけが視界に入る。

(お母さん・・・!!)

目覚めて意識がはっきりしてくるとまたあのとてつもないショックが精神をむしばんでくる。怖さと自分の惨めさに未來の心は既におかしくなっていた。

すると、病室のドアが開いてお父さんが入ってきた。

「未來、起きていたのか、調子はどうだ…?」

「…わかんない。」

消え入りそうな未來の返事を聞くと、お父さんは未來の頭を撫でて言った。

「まあ…無理もないさ。父さんだって…愛する人を亡くした立場だからな…気持ちはわかる。」

お父さんの顔は見れなかった。どこか悲しそうで、こんな状況で娘のために必死にいい父親を演じているお父さんの声は涙が混じっていた。

「・・・私…お母さんに何もしてあげられなかった。」

「…そんなことはない。未來が生まれた瞬間から僕と妻は沢山の笑顔と幸せを分けてもらったんだ。きっと…妻は…お母さんは未來の事を誇りに思っている。」

「…うん。」

また目から涙が溢れる。

「…桜樹さん。体調はいかがですか?」

また病室のドアが開いて、男の先生が入ってきた。

「…どなた?」

「おっと、すみません。私、桜樹さんがここに運ばれてきた際、診察や検査をした主治医の助手を務めさせていただいてます、青木谷と申します。

先生から桜樹さんの体調を伺ってくるように申し付けられたのでこちらに。」

「あ…はい。大丈夫ですが…やはりまだ母が死んだトラウマが消えなくて…。」

「なるほど…。」

そういうと、青木谷は一度病室を離れ、主治医を連れてきた状況を説明した。

主治医は聞き終わると頷いて、

「そうなのですね。桜樹さんが昏睡状態だった際、心臓の鼓動や脳の状態を測る機械をつけさせていただいていました。その数値を見ると…あとは退院なさってカウンセリングに通うような方向性でいいと思いますよ。明日の朝退院しましょうか。」と言った。

再び病室にお父さん、未來、青木谷だけとなったとき、青木谷は去り際に「良かったね。」と未來に告げ、お父さんに「では、失礼します。」と言って病室を出ていった。お父さんと向き合ったとき、密かに目が笑っていなかったのを誰が気付いたであろうか。


「じゃあ、僕はそろそろ失礼するよ。」

時計を見るともう面会時間ギリギリだった。

未來は1人になった病室で再び眠りの世界へと落ちていった。


夢の中で未來は懐かしい母親と父親に手を引かれて遊園地で遊んでいる夢を見た。


「誰か!!誰か!!早く来てください!人が…ひき逃げされました!!」

その僅か30分後、病院から少し離れたところで未來のお父さんが何者かに轢き逃げされた。妻は故人、娘は入院中という事で電話はある1人の人物にされることとなった、


「はい、白夜です。」





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