第20話 喜びと悲劇

「う…受かってる…!」

「良かったじゃない、未來!よく頑張ったわね!!」

未來は母と2人で合格発表の掲示板の前で飛び跳ねた。

未來はすぐに塾へ走り、虎太郎を探した。

「白夜先輩!」

「あ、桜樹さん。どうしたの?まさか…」

「受かってました!」

「そうなんだ!おめでとう!!」

思わず虎太郎は未來を抱き締めた。未來の鼻に虎太郎の服についた香水の匂いがフワッと香る。

「桜樹さんなら受かると思ってたけど…こう改めて聞くと嬉しいものだね。

そうだ…これ、合格祝い。」

そう言って虎太郎が差し出してきたのは赤と白のビーズで作られた林檎のストラップだった。

「わぁっ…!ありがとうございます!」

「いえいえ、さて…次は僕が受験する番だね。頑張るよ。桜樹さんが頑張ったみたいに(笑)」

「無理しすぎない様にしてくださいね。」

「大丈夫だよ。桜樹さんさえ良ければ、またもう1度改めて会いたいね。」

「そうですね、是非。」

未來はそういうと、先生たちにも挨拶をし、今まで長年通っていた塾を出た。

もうこの塾に来ることはないだろう。ウキウキ気分で家に帰った。


入学式の日はあっという間に来た。なんだかんだ言っていた母も父も未來の入学を心から喜び、誇りに思ってくれていた。

「写真お願いします。」と父が後ろにいる人にカメラを託し、未來と母と3人で門の前で写真を撮る。いい天気だった。

高校も楽しかった。初めての共学高校だったが、男子とも割と普通に話すことが出来る。これも去年1年間虎太郎と過ごしたからだろうと未來は思った。

未來の部屋のコルクボードに貼られる写真はどんどん増えた。両親と入学式の日に撮った写真から始まり、友達とカラオケに行った写真、お揃いの洋服で撮ったプリクラ、期間限定のケーキを並んで食べた時の写真・・・・。


未來が虎太郎と会って1年が経とうとしているある日の事だった。

「ただいま~…誰もいないの?」

不自然に暗い家の中。未來は鍵を閉め、そっとリビングの方に向かった。

「お…お母さん!!」

鼻を突く血の嫌な臭い。床に広がる血だまり。未來はその場で力が抜け座り込んでしまった。目の前にいる母は血まみれでもう息をしていない。

「そ…そうだ。警察!!」

震える手でスマホを操作する。

「あ…あのっ、母が…お母さんがぁッ…!!」

消え入りそうな声で叫ぶ。

「だずげでぐださい!!母が…殺されてる・・・っ・・・」

「落ち着いてください。住所を教えていただけ…いえ、逆探知で今すぐ向かいます。最後に一つだけ確認させてください。今、まだ犯人はその家の中にいる感じがしますか?」

「じ…じりまぜん、わかんない、怖くて…どごがにがぐれでるがも…お父さんも…しごどで…いない…っ・・・・ヴぉえええええっ」

未來はその場で吐いた。スカートが未來の吐しゃ物にまみれる。

その後すぐに警察が来た。未來はただただ震えていた。警察からの連絡ですぐに父も家に帰ってきた。血まみれで絶命している妻と、吐しゃ物まみれで精神崩壊を起こしている娘を見て気が気じゃなかったが何とか気を保って警察に受け答えをしていた。

「あがっ…おかぁ…ざん…」と震え、痙攣する未來は婦警に着替えさせてもらい、後から来た救急車に乗せられて病院へと運ばれた。

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