第19話 青年との出会い
小学校、中学校と続く女子校に未來は通っていた。だから、未來の古い記憶に異性の存在はなかなか無い。
「未來!放課後ゲーセン行こ!」
「3丁目にあるクレープ屋さん美味いんだよ、連れてったる!」
行動はいつも女子と一緒だった。高校受験のためにも途中から塾に通い始めたが、そこでも未來は女子としか話さなかった。
中学3年生の時、あの青年が現れるまでは。
「ここ、隣座っていい?」
キョトンとしながら無表情で頷く未來の隣に座った青年。
見る限り未來より何歳か年上に見えた。
「あ、初めまして。僕の名は白夜 虎太郎。驚かせちゃってごめんね。」
「桜樹です。あの…かなり頭の良い高校通ってらっしゃるんですね。」
虎太郎のブレザーの左胸には偏差値70の有名校である『来栖高校』の校章が光っていた。
「そうかな?でも、桜樹さんが目指してる高校も校風が穏やかでいいと思うんだけどな。」
「…ありがとうございます。」
「僕はたまにしかこの塾に来ないけど…受験って何かと疲れるよね。お母さんとか親御さんと仲悪くなったりしてない?」
「それは…ないですけど、この前志望校の事で少し喧嘩しました。普段はとてもいいお母さんなんです。でも…私ならもっといい所に行けるって言い張ってきて…。私、お母さんが言うほど頭良くないんです。この高校だって・・・まだ合格確率70%ですし…。」
未來が「親バカですよね。」と切なそうに、どこか悔しそうに言うと、虎太郎は笑いながら「親バカ…かぁ。」と言った。
「でも、それって幸せなんじゃない?
僕は親が2人とも医者なんだ。だから僕も医大に入らなきゃいけない。今の高校だって医大への進学率だけを見て半強制的に決められたんだ。進学率以外は見てないからね。部活も校風も制服も何も知らなかったよ。笑」
虎太郎も切なく「でも桜樹さんの気持ちはわかるなぁ」と笑った。
「また話聞くからね。勉強の邪魔しちゃってごめんね、頑張れ!」
帰り道、そう言って手を振りながら帰っていく虎太郎に未來も手を振り返した。
初めてこんなに異性と話した事への高揚と落ち着かない胸を押さえながら、未來は余韻に浸っていた。
虎太郎はたまにしか塾に来なかった。もともとそういうコマ数で組んでるみたいだった。だからこそ、未來は虎太郎の言葉を胸に勉強を続け、たまに塾で会った時は色んな話を聞いてもらったりした。
「もうすぐ入試だね。桜樹さん、体調崩してない?」
「それがクラスで風邪が流行ってるみたいで、最近学校休んでるんです。うつされたら困るんで。」
そういうと虎太郎は笑って、
「中学の頃の僕と同じことしてるなぁ。」と言った。
「応援してるから。頑張れ。」と言い、いつもの帰り道で虎太郎は未來の頭を撫でてくれた。
その後、未來の猛勉強もあり、高校入試は難なく終わった。
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