第18話 林檎に触れたものは
「な……その傷…十夜くんまさか!!」
「違う!俺がこんなことするわけないだろ!とにかく未來だけでも中に入れてくれ!」
「わ…分かったわよ。事情知ってそうだから十夜くんも入って。」
とりあえず、ソファに未來を寝かせる。
「幸い…血は止まってるみたい。」
大事に至らなかったことに天乃は安心しつつ、十夜に何があったのかを聞いた。
「通り魔だったんだ。俺は最初から未來と一緒にいたわけじゃない。」
「…あなたは誰といたの?」
十夜はその名前を答えようとして声を詰まらせた。
(誰だっけ……?)
ずっと誰かといたはずなのにその名前が出てこない。
「…私は人に夢を見せる能力。
翔くんは人の心や行動を知ることが出来る能力。未來さんは……」
そこで言葉を切らすと、天乃は十夜に何かを伝えたそうに目を細めた。
「…貴方の羽は天使の羽。
天使は悪に堕ちれば堕天使になる。誰かが何かの目的であなたを堕天使にしようとしたみたいだけど、あなた自身の何らかの抗体がそれを跳ね返した。だから…あなたの羽は白いままなんだと思う。」
「…何が言いたいんだ?」
「……十夜くんは未來さんが好き?」
「当たりめぇだろ!!じゃなきゃあんなに決死に助けねぇよ!」
十夜は即座に叫んだ。
「それはなんで?」
だがその語気に少しも動じず天乃は質問を続ける。
「未來は、俺に優しくしてくれた。いつも笑顔で頑張っていて…」
十夜の目から涙が溢れてくる。それは未來への愛情なのか、はたまた既に記憶にない女性への嘆きなのか。それは一目瞭然。
「…包帯とか…消毒液とか買ってくる。それくらいならまだ売ってるはずだ。」
「ええ。よろしくね。」
天乃はそれを見透かしていたようにニコリと笑う。
「…何だか心と体が軽くなってるんだ。まるで…鎖が外れたように。」
間際に十夜が言った言葉に、天乃はただ「行ってらっしゃい」とだけ返した。
再び静まりかえる部屋、ふと天乃は未來から生える見たことのない植物を見つけた。
「これは…林檎?」
刹那、天乃はずっと探していた『願いの叶う林檎』を思い出す。
「まさか…!」
天乃は戸惑いながらも未來の林檎に恐る恐る手を伸ばす。
林檎に触れた時、天乃の目は黄色に光り、天乃は未來の中へと吸い込まれて行った。
「…ここは?」
目覚めた場所は辺り一面の銀世界。静かに粉雪が降っている。
だが不思議と寒さは感じない。
「未來さん…!!?」
天乃は訳も分からず辺りを見回す。
「…水原天乃。名高い外科医水原夫妻の長女であり、数年前に弟を亡くしている女性。」
突如聞こえた声に振り返るとそこには見知らぬ女性が立っていた。
「こんにちは、水原さん。」
「貴方は誰?ここはどこなの?」
「私の名は…まあエレスとでも言おう。ここは…桜樹未來の過去の中。」
「…どういうこと。」
今更、非現実的なことに驚きはしない。だが、突如現れたエレスといい、ここまで来た経緯といい、天乃は随分と気になっていた。
「あなたが持つのは夢関係の能力。ここは今現在の桜樹未來が見ている世界でもあるわ。
彼女…気絶しているんでしょう?
そしてあなたは桜樹さんの林檎を採ろうとしている。あなたが願うのは…」
「それ以上言わないで!」
天乃の叫び声が静かな世界に響く。その声に一瞬エレスは驚いた顔をし、気分を害したように溜息をつき天乃を自身の方に引き寄せた。
「…それなら見せてあげるわ。」
その時、天乃の脳裏には息もできないほどの速さで未來の記憶が流れ込んできた。
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