第17話 切り傷
何日か経った日の放課後。
十夜は校門に見覚えのあるようでないような影を見つけた。
それはこちらに気付くと走って近づいてくる。
「十夜!久しぶり!」
「お前…誰だ??」
その女性は膨れっ面をして、十夜に抱きつきながら言った。
「私だよ!イヴだよ!今日暇だったから逢いに来ちゃった(笑)」
それを聞いた途端、今まで警戒心丸出しだった十夜の顔が変わった。
「本当に…イヴなのか?」
「嘘だと思うならGPSアプリ見てみなよ?」
言われるがままに十夜が2人で使っているGPSアプリを見ると、イヴと自分は同じ場所にいる。
「イヴ!」
十夜はイヴを強く抱き締めた。
「ちょっ、十夜~、ここじゃ恥ずかしいよ~!」
恥ずかしがりながらもイヴも嬉しそうにしていた。
とりあえず帰り道だったこともあり、2人はカフェに入った。
以前、十夜と未來が2人で入ったカフェだ。
「それで、今イヴはどんな生活してるんだ?」
「私は今、絵の専門学校に通ってるんだ~。相変わらず実家暮らしだから、この街にもあまり馴染みがなくて(笑)だから、十夜とまた再会出来て良かった。」
ニコニコと笑うイヴを前に自然と十夜の顔も綻ぶ。
「本当は前々からこの街にはたま~に遊びに来てたりしたんだけど、十夜忙しそうだったから笑」
「ごめんな、なかなか会えなくて。」
「ううん、大丈夫!結果的にこうして会えたんだし!」
何にしても笑顔を絶やさないイヴ。カフェを出たあと、2人は十夜の家に行った。
「…私、蒼って名前にしたの。前の名前…色々あって。」
さして十夜は違和感を覚えなかった。
「そっか、じゃあ蒼。」
振り向いた蒼に十夜は唇を重ねる。蒼は顔を赤くしながらも嬉しそうに「…いいよ、して?」と言った。一瞬十夜の顔に迷いが生じた。だが、言われるがままに十夜は蒼と一夜を過ごした。
十夜の目が覚めると蒼は既にいなかった。テーブルには十夜の分のご飯と『ごめんなさい、大学に遅れちゃうので…。』の書置きメモ。時計はPM12:30を指していた。
(今日は…自主休講だな。)
十夜は諦めるような顔をして、昨晩のことを思い出して微笑んだ。
『また、明日会わない?昨日行った街、もっと案内して欲しい♪』
『もちろん。』
『じゃあ、明日の13時に。』
大学4年にして、すごくドキドキする感覚。十夜は上機嫌だった。
奇病に人生を狂わされて、大学生活なんて楽しむ間もなかったから。それでも…
『でも…俺奇病持ってるんだけど…』
十夜は打ち明けた。傷つけたくなかったから。
『大丈夫だよ!気にしないで!』
(優しいな…。)と十夜は思う。
「じゃあ、私出かけてくるね。」
家から出れない天乃がせめて私の身代わりを連れて行ってと可愛いことをいうものだから、
未來は天乃が着ている服で全身コーデをし、髪型も天乃に似せた状態で出かけた。
「気をつけてねー!」と後ろから天乃の声が聞こえてくる。
街に着いて少し歩くと、見覚えのある人が女の子を連れて歩いている。
「……あ…。」
未來の口が開く。目の前にいるのは仲良く腕を組んだ十夜と蒼。
(あの人…十夜くんの新しい彼女かなぁ…?まさか…あの人がイヴさん…?)
もう諦めたはずなのにモヤモヤとした感情が湧き上がる。
「ねえねえ、十夜~次はあそこ行こ!」
はしゃぎながら蒼は十夜に腕を絡ませた。
「よっしゃ!ここは、俺と……」
そこまで言って十夜は言葉に詰まる。目の前のショーウィンドウには以前、綺麗な林檎の髪飾りが飾ってあったが、そこには『sold out』の文字。
(この髪飾り…未來が欲しがってたやつじゃねーか…。)
俯く十夜を蒼はのぞき込む。
「どうしたの?十夜?まさか…」
蒼が言いかけたと同時に、広場の方から悲鳴が上がった。
2人が近づいていくと、そこには未來が顔を抑えていた。
「誰か!!誰か…!!」と未來のことを介抱しながら知らない女性が叫んでいる。
それを見た途端、十夜は「未來!!!」と叫び蒼の手を離した。
「あっ…ちょ……っ…!」
戸惑う蒼を置いて、十夜は我を忘れたように未來を抱きしめた。
顔を抑える指の間からは血が滴り落ちている。
ガチャン!
その時、時計の針が動くような音が響いた。
そして、それに合わせて十夜の心臓がビクンッと大きく波打った。
「な…なんだ…!?…いや、それより、未來、大丈夫か!何があった!?」
「うっ…ぐっ…十夜…くん…」
「ごめんな…。」
そっと、未來の手をどかすと、未來の顔には左のこめかみから頬を通り、顎まで斜めに切り傷があった。あと少し横にズレていたら目の失明や耳の損失は免れなかったかもしれない。
(とにかく…!)
「
十夜は未來を抱き抱え、空に飛び上がった。
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