第16話 最好で最叶の再会
「互いに目立つことをしてしまったりしているから、なるべく人目につかないように」と未來と天乃は地味な格好をして出かけるようにしていた。
翌日の午後、天乃は買い物に行こうと家を出た。未來の家に来て初めての外出だった。
「あれ?天乃さん。」
視線を前に向けると翔が手を振っているのが見えた。
「桜樹さんから話は聞いてるよ。あの日以来だね。」
天乃が翔と十夜を傷つけた日、あんなに激しく対立しあったのに翔は何事も無かったかのように接してくる。
「あの時はごめんなさい。」
「気にしないで。僕もびっくりしたけど、もう済んだことじゃないか。」
翔は笑いながら「顔を上げて」と天乃を促した。
「そういえば…僕も1人の法学部生として調べてみたんだけど…やはり医者たちの今の行為は違法に近い。ただ、その法律を行使する法律機関も医者達が占拠しちゃってるから意味が無い。最早あの人たちに法は効かないよ。それと…」
翔はそっと天乃に耳打ちをした。
「天乃さんは狙われている。」
「どういうこと…?!」
天乃の顔に恐怖の色が浮かぶ。
「僕の透視能力で見えたことだ。
医者会に四天王がいることは知ってる?」
「知ってる…会ったことはないけど、父と母が昔私と純也に話してくれたのを覚えてる。」
「あの日、君は密かに四天王の1人に監視されていたみたいだ。
まだ名前はわからないが…。」
そこまで言うと翔は口を噤んだ。
「私…もう行くね。」
天乃は立ち上がり、歩き出した。
「…ありがとう。」
振り返り、翔へそう告げて。
(そういえば…純也のお墓作ってなかったな…)
駅前まで歩きながら天乃は考えていた。
(でも…着の身着のままで出てきちゃったから、お金と服とカバン以外何も持ってないんだよね…。
しかも純也の遺骨は医者兼保険調査委員が持ってっちゃったし…)
「もう…捨てられてるかもな。」
仏壇も考えたが流石に未來の家に他人の仏壇を置く訳にもいかなかった。とりあえず一通り済ませ、家へ向かう。刹那、天乃はなんだか背後に寒気を感じた。
(…これが翔くんが言ってた四天王ってやつか。)
不思議とさほど恐怖は感じない。
生きたい気持ちなんてなかったからかもしれなかった。
(それでも……!)
「
そしてそのまま未來の家まで走った。
「あ、おかりなさい。」
「未來さん…ハアハア…ただいま…。」
「…で、お前結局奇病能力にかかっちまったのか。」
「仕方ないだろ。まあ、ワクチン打ってなかったらジ・エンドだった。」
「チッ。あーあ。なんで俺様がお前なんかと行動しなきゃいけないんだよ。」
朱雀は憎まれ口を叩きながら傍らにいる武蔵を軽く小突いた。
「なかなか…あの女性は取っ付き難い。朱雀もやれば分かるさ。」
来た道を戻り始める武蔵の後を朱雀がついていく。
「……プライバシーの侵害。」
小声で呟きながら翔は2人の写真を撮る。不本意だが、撮っておくことが得策な気もしたからだ。
「…そう…そんなことが…。」
天乃から、翔の透視能力で得た情報を聞いた未來も思わず言葉が詰まる。
「まだ夏じゃないけど…」
未來は窓の方に手をかざした。
すると、だんだんと窓の外が植物で覆われていく。
「外に生えてた物を伸ばしただけだけど…気休めにはなるかなって。」
「そうだね…ありがとう。」
天乃の顔に安堵の色が浮かぶ。
その時、天乃のスマホに翔から例の写真が送られてきた。
『多分、これが四天王のうち2人。天乃さんの後ろをストーカーしていたんだと思う。』
「…怖いね。」
その写真を見つめながら呟く未來。
「やっぱり…。私も薄々気配は感じてたの。念のために奇病能力で夢の中に閉じ込めて正解だったわ。」
「天乃ちゃんは、もう迂闊に外に出れないね。」
天乃は何も言わずただ頷いた。
「何かあったら連絡してね」と未來が自分の携帯の連絡先と年間の授業予定表を合わせて天乃に手渡す。
「ありがとう。邪魔にはならないようにするわ。」
天乃もやはり心細かったり不安だったのだろう。未來のそれを受け取ると安心したように微笑んだ。
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一方、大学4年生になった十夜は先輩として新入生の1年生を始めた後輩達にモテていた。まだ4年になって少ししか経ってないが、2週間に1度は呼び出され、告白をされる。
だが、返事はいつも「ごめん。俺好きな人がいるから。」
あの一件以来も、十夜は相変わらずイヴを愛していた。
『天乃さんがストーカーされてるみたいなんだ。』
その翔のメールも既読無視。
なぜ?十夜はイヴと連絡を再開したからだ。十数年ぶりかにとる好きな人との連絡。
『私のこと忘れないでくれてありがとう。私、十夜のこと好き!』
『俺も愛してる。』
大学3年の最後くらいから今まで、2人は付き合っている。
互いに大学4年生で卒業研究があるからなかなか予定が合わず会ってはいない。でもそれも仕方なかった。2人の大学は距離が遠すぎる。
「私…十夜に会えて幸せだなぁ。」
数少ないデートの中で、ある日そう言ったイヴに十夜は強く彼女を抱きしめた。
「大好き。」と2人の吐息が混じりあった。
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「…天霧くん、とうとうイヴに会ったのか…!?でも…イヴは…」
たまにお得意の『
(…桜樹さん……)
今もまだ未來の気持ちを知っていた翔は、未來にこの事は伝えてはならないと考えた。
心身的に成長してきた今の翔にとって、今自分が関わる人達は皆大切な人だった。
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