第15話 四天王
医者が逃げて半年経とうとしている。何ヶ月前かに未來たちは進級して、本来ならば真新しい気持ちで1年を始めるのだろう。
だが、無論未來たちはそんな晴れ晴れとした気持ちにはなれない。また、日々の絶望感の中で天乃は家にいたくなくなり、未來の家へ泊めてもらうことにした。
「いつでも大歓迎だよ。私も今はもう…」
天乃はその後の言葉を聞いていない。
「未來さんの家からなら私の大学にも通いやすい。…とはいってももう大学なんて行けないんだけどね。」
「そうだよね…」
天乃の医学部は全滅。遂この前まで友だった絢香と乃々華も忽然と姿を消していた。
「連絡先なんて…持ってないんだよ。」
涙がこぼれないように窓の外を見上げる天乃。
「…私に出来る事や家事はやっておく。未來さんには大学に通い続けてほしい。…何かわかるかもしれないし…助けたいから。」
未來は辛辣な様子の天乃を見つめただ「ありがとう」と返し、大学へ向かった。
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「これから第30回 医者カンファレンスを行う。」
かつて国会議事堂だった場所には何人もの医師が並んでいる。
皆が見つめる先には4人の人間。
髪を結いながらガムを噛む女性、忙しく手を動かし絵を描いている男性、寝言を言いながら眠る男性、船漕ぎをしながら退屈そうにしている男性の4人。
「そこ。真面目にやりなさい。」
「うっせーよ。俺らを誰だと思ってんの?」
船漕ぎをする男性がチッと舌打ちをする。
「青蘭、白夜、武蔵、朱雀。」
冷たい声が響き、武蔵以外の3人の顔が引き攣る。
青蘭がガムを捨て、白夜が手を止め、朱雀が武蔵の足を蹴って起こした。
「お前らは四天王なんだ。医者の名に恥じるようなことするな!」
しばらくその場の全員が黙り込んだ。
「ま…まあ…気をつけるように。
では、白夜公。例の件について説明を。」
「はい。僕、白夜 虎太郎は先日そちらにいる水原夫妻の娘、水原天乃を追いました。以前の会議でもお伝えした通り、彼女は医学生。
それも、名門城華大学のね。そして彼女は奇病能力者。今までは単なる奇病患者を殺すだけで我々も目をつぶっていたのだが…」
そこまで言うと、隣にいた朱雀が立ち上がって言った。
「その女は新しい奇病能力者と接触したみたいだ!
こいつらはあの女と違って我々に敵意を持っているように見える!」
会場中がざわめく。
「君、僕のセリフを取らないでおくれよ。」
「うっせーよ、白夜。」
「…静粛に!」
皆の視線が声の主に集まる。青蘭だ。
「まだ4人の詳しい情報については分かってないわ…でも。1人だけなら私は知っている。…桜樹未來。彼女は何年か前に街で車に轢かれそうになっていた水原夫妻の長男を助けたわ。その時、彼女の手からは植物が伸びていた。あれは間違いなく奇病よ。きっと、桜樹さんは天乃さんと接触した奇病能力者。」
そこまで言って息をつくと、再び白夜が立ち上がった。
「もう1つ。僕が感じたことがある。水原夫妻の娘は何かを3人に話していた。そして、その話を聞いたであろう後に4人でチームのようなものが出来上がったように見えた…。だから…!「俺らがその水原夫妻の娘とやらを排除せねばならない!」
再びセリフを被せた朱雀の宣戦布告に「うおおおお!!!」と湧き上がる会場中の医者。
彼らは全員、奇病抵抗ワクチンNB-500を打っている。奇病にかかる恐怖などもはや無いのだ。
唖然として何も言えない白夜、楽しそうに笑う朱雀、水原夫妻を見つめる青蘭、武蔵は静かに目をつぶって再び突っ伏した。
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「未來さんは今、大学3年生?」
「そうだよ。天霧くんと東宮くんは4年生だから卒業研究とかあるのかなぁ?大変そうだよね。」
「そうだね…。」
夜、未來と天乃はホットミルクを飲みながらお話しをしていた。
「そういえば未來さん。『願いの叶う林檎の話』って知ってる?」
「なにそれ?絵本?」
「私もそう思うんだけど、奇病関連の事を調べてると、かなーり下の方だけど検索にhitするのよ。」
「ふ~ん…」
未來は相槌を打ちながらふと考えた。
(私は植物系の能力者…もしかして…願いの叶う林檎って…。)
「未來さん?」
「え?あ、なに?」
「どうかしたの?」
心配そうに顔を覗き込む天乃。
「なんでもないよ。」
未來は微笑んだ。
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