第12話 夢を失った女性
カタカタカタと無機質なタイプ音が響く未來の部屋。
未來はひたすら医者の現状や今の社会情勢を把握しようと片っ端から調べあげていた。
傍らに置いてあったココアを飲み、ため息を着く。
そのとき、未來のスマホが音を立てた。
(あれ?先輩からだ。なんだろ?)
未來は首をかしげながらスマホに手を伸ばす。
いつもなら一つのことについてより詳しく書いてくれる翔。
だが、今回だけは[たすけて]と4文字だけ売ってあるメールが届いた。
(先輩……?)
未來はなんだか胸騒ぎがした。
急いで翔へ電話をかける。
「先輩!何かあったんですか!?」
「た…ず…け…」
翔の声は途切れ途切れでよく聞こえない。
「今…どこに!」
「街…商店……路地…」
そこまでしか聞き取れないまま電話は切れてしまった。
未來は迷いもなく家を飛び出し自転車にまたがった。
いつもの坂も、少し危ない交差点も気にせずに走り続ける。
未來の中で思い当たる場所につくと、未來は自転車を止めて走り出した。
「先輩!!……え?」
目の前には血を流しながら倒れている十夜と、虚ろな目をして横たわっている翔。
そして、その前に見覚えがない女性が立っていた。
「十夜くん…先輩…」
すぐさま駆け寄り、2人を揺する。首の温かさから幸い、死んではいないようだった。
(良かった…)とホッとしながらも未來は顔を上げ、目の前の女性を見た。
「あなたは誰ですか?」
「あなたも奇病能力者なの?」
2人に見向きもせず、未來をまっすぐに見つめる女性。
ふと、下に目をやると十夜が微かに首を横に振っているように感じられた。
「どうなの?」
再び聞き返してくる女性。
「…違いますよ。」
未來が呟くように返すと、その女性は急に未來へ抱きついてきた。
「良かった…」
「あの…ありがたいですが、早く友達と先輩を助けてください。」
未來は少しも動じずに、その女性に告げた。
「……嫌だ。私は奇病患者が大嫌い。」
「…そうですか。でも、この2人について何も弁解しないってことはあなたがやったんですよね?」
未來は淡々とした表情で問いかけながら、女性の横を通り過ぎ、振り向いてから続けた。
「…やっぱり嘘です。」
刹那、未來の腕からイバラが伸び、女性の肩をかすめる。
「くっ……」
不意をつかれ痛みに顔を歪ませながら女性はバランスを崩した。
その間に、未來は翔のことを揺さぶった。
気を失っている十夜と違い、翔は目を虚ろにしてボーッとしているだけに見える。揺すれば反応しそうだった。
「先輩!!」
「さ…くらき…さん?」
何でここにと言いたげな顔を向ける翔に未來は告げた。
「十夜くんを連れて逃げてください。あの人は私がくい止めます。」
その言葉の語気から翔はとてつもない威厳を感じ、ヨロヨロとしながらも立ち上がり、十夜を担ぎあげた。
「とにかく…安全なところに。」
そう言うと未來は再び女性に向き直った。
「奇病患者なんて…死んでしまえ……」
(どうして…そこまで?)
呟くように、そして呻くように言った女性の言葉に、これまでの行動に未來は疑問を浮かべた。
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