第11話 喧嘩
「…
シュルシュルッと葉をつけたツタが伸び、カーテンレールに巻き付き半人工的なグリーンカーテンができる。
(十夜くん…本当に私の事好きでいてくれてるのかな…)
未來はやはり不安だった。
翔から聞いた話のせいでもあったがあの日、勢いでOKしてしまった部分もあった。
それに、未來の名前に「イヴ」という名がつく由来や部分がない。
(きっと…十夜くんが好きなのは私じゃなくてイヴさんなんだ。)
「話って?」
数日後未來は十夜を呼び出した。
「あのね、十夜くん。私と別れてください。」
その言葉に十夜の目が見開く。
「えっ、ちょ…なんで!?」
戸惑いを隠せない十夜に、未來は告げた。
「…十夜くんが好きなのはイヴさんでしょ?私じゃ…なくて。」
未來の目が涙ぐむ。
まだ十夜のことが好きだったから。
「……それは…」
言葉に困る十夜を見て、未來は走り去った。
大学も違う、住む街も違う。
(…もう…会うことは無い……。)
人目のつかないところで未來は泣き崩れた。
人生初の部類の幸せを見て、人生初の失恋を体験した。
「…未來……」
1人残された十夜はその場に立ち尽くしていた。
確かに未來は優しかった。話していて楽しかった。
それでもなお、顔も微かにしか思い出せないイヴに執着するのはなんなのだろう。
(追いかけなきゃ…)
十夜は走り出し、背中から羽を出して空へ飛び上がった。
翼で空を飛ぶことが出来るこれこそが、十夜の奇病能力だった。
「……がはっ…」
まだ未完成な能力だからか、長い距離を飛ぶと十夜は吐血してしまうようになった。
(それでも俺は…未來のあの言葉を否定できなかった…。)
フラフラし始め、十夜は飛び続けることが困難になったため1度人気のない場所に降り立った。
(ここからは歩いて行くか。)
「あれ?天霧くん。」
未來が住んでいるであろう街に着いた時、聞き覚えのある声に十夜がふりかえるとそこには翔が立っていた。
「未來は!!」
十夜は翔に掴みかかった。
「え?なんのこと…」
そこまで言うと、翔は黙りジッと十夜を見つめた。
翔の目が紫色に光る。
「君は…本当に異常者だね。
桜樹さんと何があったかは僕にはお見通しだよ。フラれたんでしょ?」
その呆れて見下すような言葉に十夜は翔の胸ぐらを掴む力を強める。
「君の言うイヴは多分優里のことなんだろうけど。
…僕は君に同情したりはしないよ。互いに愛する人を失った気持ちは分からなくもないけどね。
だが、優里は僕の彼女だったんだ。いくら幼馴染と言っても君に手を出されたくはないね。
優里の葬儀にも来なかった裏切り者が。」
言い終えると同時に、翔は腕を伸ばし、十夜の肩を押した。
「うわっ!」
慌てて十夜は飛び退いた。
翔の手先からは何本かの水晶が突き出していた。
「君を殺すつもりは無いけど、少しわからせないといけないな。
優里のことを今更どうこう言うわけじゃないが、僕の大切な後輩も傷つけたんだ。その報いは受けてもらうよ。」
その言葉に十夜も背中から羽を出し、翔を睨みつけた。
「
先手必勝と言わんばかりに、十夜は翔の腹めがけて硬化した羽を飛ばす。当たれば切り傷は免れない。
だが翔は水晶の壁で攻撃を受け流した。
「君は、僕を殺す気なんだね。」
翔は先程とはケタ違いの水晶を生やし、十夜を囲った。
「翼のある俺にこんな攻撃が効くかよ。」
十夜は空へ飛び上がった。
翔に飛行能力がないせいで、翔は十夜に追いつくことが出来ない。
十夜を悔しげに睨みつける翔。
「でも…少し誤算が過ぎたようだね。」
刹那、十夜の翼を翔の水晶が貫いた。
「ぐはっ…!」
能力の使いすぎと、攻撃をモロに食らったせいで十夜の口から血がこぼれる。
「残念だが、僕の方が少し勝っていたようだな…。」
肩で息をしながら翔は十夜をそのまま地面に落とした。
「ひがし…みや…」
十夜は血を流しながら、翔を睨みつけた。
「…医者がいない今、致命傷なんて与えた日には僕も流石に罪悪感が沸く。
致命傷は与えてない。急所は外したさ。…少し頭を冷やすんだな、天霧くん。」
そう吐き捨てて翔が去ろうとした時だった。
「死して、罪を償え。」
聞いたことの無いような声が響き、十夜と翔は淡い光に包まれた。
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