第10話 その愛は美しい

「えと…」

話しかけたはいいが、そのあとの言葉を詰まらせる優里。

ひたすらに赤面し、あたふたとする優里に翔が口を開いた。

「同じクラス…だよね?何か用?」

「いや…その…肌!肌綺麗だね!」

咄嗟に目に付いた優里の翔に対する第一印象を述べた。それは女同士が言うような言葉で翔も一瞬ポカンとしていた。

「本当に、この肌…綺麗だと思うのか?」

「綺麗だよ?なんで?」

「いや…ありがとう。」


翔は世にも珍しいアルビノの1人だった。生まれつき色素が薄いおかげで肌は物語に出てくるように白い。ただ、その分視力が弱くてメガネが手放せないのだが。

翔は今までその容姿のせいでいじめに遭っていた。翔自体は歳の割にそんなに荒っぽい性格ではなかった為にいつも被害者だったのだ。

「僕は…いつもこの容姿のせいでいじめられてたから。綺麗なんて言ってくれてありがとう。」

改めて翔は優里に言い直す。


それから何ヶ月かたった頃。

同じクラスだったせいか、割と時間もかからず、会う度に何か会話を交わすようになった2人。

ある時、優里は再び翔に打ち明けた。

「東宮くん、あのね。私、昔は貴方と逆の立場のいじめる側だったの。」

翔はどんな反応を示すだろうか。

もし、出会うのがもう少し早かったなら2人は『敵同士』だった。

「へぇ…。でもそうだとしても僕は…優里さんが好きだよ。」

「え?」

受け入れてくれたのはさておき、その『好き』はどっちなのだろう。優里は顔を上げて翔を見つめた。

「それは…どういうこと?」

「だから、僕は優里さんが好きだってこと。…もし良ければだけど…僕と付き合ってください。」


一瞬、時が止まった気がした。

「えと…あの。私でいいの?」

優里も翔と付き合いたいとは思ったが、いざこの場面が来ると躊躇いがある。

「うん。」

そう頷いて優しく微笑む翔。

2人は付き合い始めた。


だが、人生初彼氏が出来て浮かれすぎていたのだろう。

優里はまたもや体調を崩した。

だが今度は、何かがおかしかった。死ぬような症状はないのに、ときたま意識が朦朧とする。

(イヴ……)

優里はふと呟いた。

「呼んだ??」

「え?」

あのころと違って自作自演の会話などではない。

ベッドからはね起きた優里の目の前にはもう1人の優里がいた。

「あなたのおかげで実体化できるようになっちゃった。」

「イヴ…なの?」

「そうだよ?」

そうケラケラと笑うイヴ。

声や容姿は優里の生き写し。

ただ、仕草だけが優里よりも、若干イヴの方が荒めだった。

「なんで?こんなことありえないのに…」

そう言って戸惑う優里の肩をイヴは掴み、グイッと顔を近づける。

「私は貴方。貴方は私。信じられないって顔してるけど、私は貴方を助けるためにここに来たの。」

心配そうな顔をして優里の頭を撫でるイヴ。

もはや優里にイヴに対する怖さは無かった。むしろ、やっと自分を褒めて認めてくれる人が現れたのだ。それが嬉しくてたまらなかった。

「イヴは…魔法使いなの?」

「違うよ。でも、貴方の病気がなんかのかは分かる。」

「どこに行っても医者も治してくれなくて…これは何なの?」

「…貴方の病気は『奇病』の一種。まだ世界的に表立ってかかる人が少ないせいで知らない医者も沢山いるのよ。」

「そんな…非現実的なことがあるの?」

そうイヴに問いかける優里の声には希望がこもっていた。

小学生の頃からかなり辛い『現実』に巻き込まれていた優里は『非現実』を求めていたからだ。

「優里。貴方の奇病能力は『雫命希』。私は貴方がこの能力によって作り出された貴方の魂の半分。

二重人格になることはないけど、何かあった時に代わりの体を残してあるから、また生きることが出来る。まあ…ゲームでいう残機ってところかな。」


イヴは一息つくと、優里を抱きしめた。

「大丈夫。私は味方だよ。」

その優しげな声に優里の目から涙が零れ落ちる。


優里はこの日、この世で初めての奇病能力者になったのだ。

何故こうなったのかは分からない。でも、この能力は優里のボロボロな心と体を助けてくれたのだ。


その日から優里の体調は良好になった。心が半分になった故に心の負担が少ない。

(奇病は流石にバレるとまずい。)

優里は翔にすら、イヴのこと、奇病能力のことを伝えなかった。

「私は、大学行かないよ。体弱いし。」

「そっか、僕は法学部を目指すことにしたんだ。優里は頭が良いから大抵のところは受ければ確実に入れるのに…。」

進路の話をした時、翔は少し悲しそうだった。

丁度、互いが高校2年生中盤の頃奇病が、一気に世界に広まった。

それに合わせて優里の様子もおかしくなっていった。

(イヴが…危険なのかな…)

心が半分になれば、体も半分になる。優里の体への負担は2倍になっていた。

流石の翔も奇病のことを知ったみたいで、実験体になりうる優里を匿うために同棲を提案した。

もちろん優里に断る理由など無かった。


翔と同棲するのは楽しかった。

それでも幸せな日々は刻一刻と優里の心身を蝕み、優里は背が伸びた眠る翔の、頬を撫でた。


「ごめんね、翔。

私を彼女にしてくれてありがとう。」



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