第5話 出会いは突然に

(…だから、東宮くんは私のことを覚えていない。)

それが幸と出るのか不幸と出るのか。未來にはそれが分からないままだった。

あれから、未來も奇病能力を自分でコントロールできるようになった。


だからかろうじて大学では隠していられる。

(なんで…あの時襲われたんだろう。私なにかしたかなぁ…?)

未來はあの日傷つけられた腕を握って俯いた。


その時。未來のスマホが「ウィンウィン!」と音を立てた。政府からの『奇病』を始めとしたニュースについての速報を設定してる音だ。

スマホには『政府終了のお知らせ』というネットで流れてそうな、一見ふざけた題名が映っている。


[この度、政府の人間全員が重度の奇病にかかりこの国の業務を担えなくなりました。

つきましては、我々医者どもが誠心誠意を持って業務遂行を成し遂げたいと存じます。]


「…どういうこと…」

未來は驚きを隠せなかった。

国会議員、更には内閣総理大臣までもが奇病にかかってしまったという。

政府全員辞職、医者の肩書きが今日から『医者 兼 〇〇』になる。

信じられないその知らせに未來はただただ驚いていた。


未來は大通りを通って家に帰る。

大通りの大きなデジタル画面。そこに映し出されたのは今日から総理大臣役を担い始めた医者の1人。


「今、皆様もご存知のように、日々重度の奇病が広まっている。

我々は最善を尽くしてきたが、それももう最後だ。

感染性のある奇病が発見されつつある今、我々はワクチンを開発した!」

その高らかな宣言の後、他の医者たちが何やら意見をぶつけている。


その時、トンと肩がぶつかり、未來の服にコーヒーがかかった。

「あ、ごめんなさい!」

「こちらこそすまない、前を見ていなかった。熱くないか?」

「いえ、大丈夫です!あの、コーヒー弁償したいので…よかったらそこのカフェ入りませんか?」


言われるがままに青年と未來はカフェに入る。向かい合うように座り、未來はコーヒーを買ってきて再び座り直した。


「ありがとう。俺の名は天霧 十夜。

扇城大学 経済学部の3年だ。

さっきの速報…まさかここまで奇病が広まっているとは…。」

十夜は自らの唇を噛む。


(そういえば、この子…イヴに似ているな。イヴは今どうしているんだろうか…)

十夜は幼馴染のイヴ(優理)が死んだことを知らなかった。

そして、目の前にいる未來は無性にイヴに似ている気がした。

十夜とイヴが最後に会ったのはもう10年前の事だが、十夜は当時抱いた片想いの心を10年間忘れられずにいた。

「本当に…困りましたね。」

ため息をつく未來。

「それに、あの様子だと医者はもう奇病患者を治さない。

あのワクチンはとても高価なもので一般人の社畜共は買えないだろうな。」

少し口が悪い十夜は吐き捨てるように呟いた。

それに対して、未來は悲しそうな顔をする。

「…あの、良かったらアドレス交換しませんか?私、天霧くんとはもっと話してみたいんです。」

その言葉に当たり前のように十夜は頷いた。

「こちらこそ、頼む。」

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