第3話 失いたくない恋人
2年前、未來が高校3年生だった頃、翔は一足先に慶典大学に入学した。
クールで優しげな翔もこの日ばかりは喜びに満ちた顔をしていた。
だが、それと同時期に高校生の頃から付き合っていた翔の彼女が病気にかかった。症状から見て『奇病』であることは確かだったが、当時世間に広まっていた『奇病』より明らかに症状が重く、翔は愛する人の重病に頭を悩ませた。
自分の唯一の理解者である彼女、
優理を失いたくなかった。
政府から優理を隠すため、翔は大学生になってから優理と同棲を始めた。
申し訳なさそうにしていても、どんな理由であれ2人はお互いに一緒にいれる時間が増えたことに喜びも覚えていた。
翔が学校へ行っている間、優理は家で留守番をしている。外出禁止をくらっている優理は家事担当だった。
それから3ヶ月ほど、2人は一緒に過ごした。ある日のニュースで、政府の人間にまで奇病が広まったと聞いた。
うかつに優理を外に出せない翔は必死に奇病を治す手立てを探した。
すると、横のベッドで寝ていた優理が静かに翔に言った。
「あのね、翔。」
「うん?どうしたんだ優理?」
「私ね…もうすぐ死んじゃうかもしれない…」
「…それでも…1日でも長く君を生かしたい。」
唇を噛む翔の手を、優理は優しく握った。
「あのね…翔が毎日私のために寝る間も惜しんで、本当は楽しいはずの大学生活も楽しまずに私のために日々頭を悩ましてくれること、本当に感謝してるんだ。
でも、もういいの。私は翔に出会えて幸せだったし、こんな私を『彼女』として何年も付き合ってくれた、それだけでもう十分なの。
だから、もう大丈夫だよ。
私は十分この世界を楽しめたし、翔と出会えて良かった。」
翔は優理の手を振りほどき、優理を強く抱き締めた。
「…そんなこと言わせない。
僕と優理はこの先もずっと生きて…」
翔の目から涙がこぼれ落ちた。
「今まで…ありがとう。」
微笑む優理の唇に、翔はそっとキスを落とした。
その翌日、優理はベッドの中であっさりと死んでしまった。
葬儀がどう行われたかなどの優理死後の出来事は翔はもう覚えていない。
その後、翔は呆然とした無彩色の毎日を送りながら、とある記事を見つけた。
『願いの叶う林檎の話』
それは子供用に作られたお伽噺のようであったが、『奇病』という非現実的なものが現実化している今となっては、この話だって嘘とは言いきれない。空想とは考えられなかった。
それは、アダムとイヴの林檎の話から始まり、それはそれは詳しく掘り下げて考察しており、内容を読み終わったあとなら、これは子供用の話ではない事がはっきり分かった。
(なぜ…優理が死ぬ前に気づかなかったんだ…)
これを使えば優理を助けられたかもしれないと、翔は再び涙を零した。
だが、次の瞬間翔は気付いてしまった。
この林檎を使えば、優理を取り戻せるかもしれないと。
その時、翔の目に何かが見えた。
それは必死に家で、慶典大学の赤本を解く1人の女子高生。
彼女がやっているのは『生物』だろうか。
その光景が消えてから、翔は一瞬固まり、ため息をついて呟いた。
「僕も…奇病にかかったか。」
先程の光景は奇病のせい。
でも、優理を取り戻せるならば、このくらい何て事なかった。
翔は法学部。将来弁護士を目指していた彼にとって、推理のようなものは慣れていた。
『願いの叶う林檎』と『先程の女子高生』。
(何か…関連があるはずだ。)
翔は唇を噛み、ただ一点を見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。