第2話 (元)魔法少女は就職する。
いやいやいやいや、ちょっと待ってよ。違うでしょうよ。何言ってんの?
言ってないよ? 私そこまで言ってない。あなたがそんな引くほど強くは言ってない。
混乱する私の目の前で王国と地球を繋ぐゲートはさっさと閉まり、私達は、それから一切の関わりも持てなくなってしまった。残されたのは、ぺらっぺらの栞、ただ一枚。
その後、カメリア(神宮寺つばき)は父親の仕事の都合で他県の高校に進学することになり、ロータス(財前蓮美)は高校卒業後、2つ上の先輩とデキ婚し、同じ大学まで進んだアイリス(五所川原あやめ)は自分探しの旅に出ると言って退学しインドへ行ってしまった。
私は、というと、どうにかこの元魔法少女って肩書を活かして上手いこと就職出来ないかしら、なんて思ってた。地球ではないとはいえ、一国を救ったヒロインなわけだから、何かしらの特典があって然るべきじゃない? 結構身を削って頑張ったんだもの。最終決戦辺りになると、もう何度か「これはもう死んだかも」って展開が2秒に1回はあったからね? いや2秒に1回は盛りすぎたけど。
ていうかね、私が魔法少女として戦っていたのは中学2年生から3年生にかけて。
この期間って、その後の人生に大きく影響するなって、いまならわかる。正直この期間をあの良くわからない砂怪人達とのいざこざに費やしてしまったものだから、成績はガタガタ。志望校のランクを下げに下げまくってどうにか高校生活をスタートさせたは良いものの、そこは地元でも有名な馬鹿学校だったってわけ。そんな馬鹿学校から一発逆転出来るわけもなく、順調にFラン私大へと駒を進め――、
はい、立派な就職浪人の出来上がり! ってね!!
駄目、高校受検で失敗すると結構キツイ。
最初こそ大学受験で挽回するんだって真面目にやってたけど、周りがもうウェイウェイ言ってるんだもん。楽しそうなんだもん。ていうか、その中に入らないとハブられるんだもん。結構えぐいのよ? 女の世界って。
もしあの時魔法少女になんてなっていなかったら、私、少なくとももうちょっと良い大学入って、得意の英語を活かした仕事に着いてたはず。
ちょっとマジでどうしてくれんの!?
フラワー王国の皆さーん!?
アンタんトコの救世主がこーんなことになってんですけどぉ?
ちょっとこっちの方に救いの手を差し伸べちゃくれませんかねぇ?
なんて嘆いていても仕方がないの。
もうクロちゃんは来てくれないし、共に戦った仲間達もいない。
カメリアは売れないバンドマンといまだに交際中らしいし、
ロータスは先輩と離婚してシングルマザーになってる。
アイリスに至っては、まだインドにいるのか最早消息不明だ。
じゃあ、どうすれば。
と、バイト生活を送っていた時、私は気付いたの。
そうよ、私には何にも勝る『経験』があるじゃない、って。
私、あの人外共を相手に1年間戦ってきたじゃない、って。
成る程わかった。
私の天職見ーつけた! って。
よし、プロレスラーになろう! って。
で。
とりあえず、プロレスラーにはなれた。
弱小団体だったから、何ならマネージャー感覚で滑り込むことに成功したの。
社長はもちろん、先輩達も「あんたみたいなガリガリが!?」みたいな感じで温かく出迎えてくれたっけ。
でもね、私はプロの世界ってものをそこで初めて知ったの。
甘くない。
全然甘くなかった。
バニラエッセンス舐めた時くらいの衝撃。だけどこれはきっと経験者にしかわからないはず。あれ、あんなに甘い香りするくせに何であんなに苦いの? 罠?
だってね、よくよく考えて見たら、私、戦ってた時って変身してたから。
生身の時なんてキャーキャー言いながらエキストラの一部と化してたから。
だけど。
だけどね。
人間って成長するの。
いまじゃ私も立派な看板レスラー、バイオレットすみれ。
うん、わかってる。
正直、「正気?!」って突っ込みいれたもん、このリングネーム。黙ってられないよね。そうりゃそうよ。だけどね、その時の私はデビューしたてのスーパー下っ端。黒いものも、社長が「これは白やで、すみちゃん」って言えば「おおきに!」って返さなくてはいけない。そんな立場。
だから、社長が「エエの閃いたで! すみちゃん!!」って金歯と頭皮を光らせながら言った時も、本当なら「ふざけんなや、このハゲ男!」ってラリアットの一本でもお見舞いするところだけれど、さすがにその時の私には愛想笑いを浮かべるしか出来なかった。バイオレットって、つまり『すみれ』のことだから。私、『すみれ・すみれ』ってことだから。ゴリラの学名かよ。
しかも口上なんて「この
で、そこからの「バイオレット――――! す――み――れ――――!!!」だから。死ぬわ。恥ずかし死するかと思ったわ。毎回毎回登場だけでギリギリの戦いしてたわ。
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