(元)魔法少女は激怒する。

宇部 松清

第1話 (元)魔法少女は語り出す。

 私の名前は花園(旧姓)すみれ。(元)魔法少女プリティピースのプリティバイオレットやってました!


 (昔の)趣味は押し花とドライフラワー作りなんだけど、(ざっと30年くらい前の)ある日、道端に咲いていた虹色のクロッカスを押し花にしたら、た~いへんっ! 何とそれはフラワー王国の妖精クロちゃんだったってわけ!


 (30年……いや、29年くらい前かな?)フラワー王国は花と緑の溢れる美しい国だったんだけど、何とそこにカレサセル帝国がやって来て、花や草木は枯れてしまったの。けれど、フラワー姫様が自らの命と引き換えに最後の砦であるフラワー城をバリアで守り、カレサセル帝国に立ち向かえる戦士を集めるため、クロちゃんを地球に派遣したってわけ。


 クロちゃんに選ばれた私達4人(残りのメンバーは色々あっていまは散り散りになってしまったけど)は力を合わせて、カレサセル帝国皇帝カレサルを封印し、王国に平和と緑を取り戻したわ。死んでしまったと思っていたフラワー姫様も、最後の対決の際にホログラム的な演出で出て来てくれて、実はフラワー王国に伝わる宝『プレシャスフラワー』の中でお眠りになっていただけだったみたい。

 フラワー姫様も無事お目覚めになられ、王国に平和が戻り、めでたしめでたし……ではあったんだけど――、


 問題がひとつ、あったのよね。


 それは、私とクロちゃんの関係。

 

 激しい戦いの中で、私とクロちゃんには変身ヒロインとそのマスコット、という垣根を超えて、愛が芽生えてしまったの。

  

 ――え? 花の妖精だろって? マスコットなんだろって?


 ええそうよ。その通り。

 普段のクロちゃんはパッと見はただの薄紫色のモグラのぬいぐるみ。頭にクロッカスが咲いててとっても可愛いの。だけどね、それは地球での仮の姿。

 本当のクロちゃん――いいえ、クロッカス王子ってば、その辺の俳優とかモデルとかが束になっても勝てないくらいのスーパーイケメン。長身のイケメン。その上一国の王子。長身イケメン、性格完璧、家柄完璧。はっきり言って、これで恋に落ちない方がどうかしてるわ。もちろん他のメンバーもご多聞に漏れずよね。要所要所で御機嫌とってみたり、手作りクッキー差し入れしたり、ラッキースケベ仕掛けて来たりと結構露骨にアプローチしてたみたいだけど、最初にスカウトされたものの特権ていうのかしら、クロちゃん、私の部屋に住んでたしね。それに最初に声をかけられたってことは、それだけ長く一緒にいるわけだし。これは結構なアドバンテージなの。だってこういう場合、最初に出会った女の子を好きになるのがセオリーなんだから。


 そんなわけで、私達は少しずつ距離を詰め、いざ最終決戦、というその直前にお互いの気持ちを確認し合ったってわけ。

 ガッツポーズ決めたよね。

 もう何なら皇帝カレサルとかマジどうでも良い。

 でもまさかそんなわけにもいかないから。

 だって勝利が前提のお付き合いなんだから。

 こりゃあもうやるしかない。やるしかないっていうか、るしかない。


 だけど。

 ああ、だけど。


 地球人はフラワー王国で暮らすことは出来ないんですって。

 来賓として数日滞在する程度なら良いみたいなんだけど、長期滞在は不可能らしいの。国の決まり、というのももちろんあるんだけど、私達人間がいることによって環境が汚染されてしまうっていうのが一番のネックみたい。何よ、息吸って吐いてるだけでしょ、私が何をどう汚すっていうのよ、って姫様の喉笛に噛みついてやろうかと思ったけど、さすがに止めたわ。だいたいの場合、何らかの特別措置みたいな感じで「だけどあなたなら良いわよ」って展開になるんでしょう?


 と思ってたのに覆らない。

 もう本当にごめんなさいね、ってただそれだけ。

 もうほんとびっくりするほど覆らないの。

 その代わりに何かしらの報酬とかもなし。

 何なら、思い出にって、良くわからない押し花の栞くらいはもらったけど。そういうの、私達の世界では報酬って言わないからね?


「だったら、僕が君のところに行くよ!」


 王子はそう言ってくれたけれど、私は所詮庶民。王子と結ばれるなんておこがましいわ。


 ……と、とりあえずしおらしい態度をとってみて出方をうかがってみたのよね。王子って肩書なしにしても、あまりあるほどのイケメンなんですもの。彼と一緒になれるんだったら、どんな汚い仕事をしたって養ってみせる。ていうか、何なら、彼がそばにいるだけで色んなものが舞い込んで来そう。具体的に何が舞い込んでくるかとかはちょっと濁しておくけど。

 まぁ、そんな気持ちでいたわけ。もう一声! もう一声お願いします! ってね。


 だけど、彼の答えは――、


「わかった。君がそこまで言うのなら」


 ――は? マジで?

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