一章八話 久しぶりの日光は目に害です

「うわっ、眩しい!」

「確かに……久しぶりの光は目に毒ですね」


 僕にとってはそれだけが理由ではないのだけど。まあ、いいか。ステータスは十分の一だ。ただしHPとMPはそれに含まれないようだけど。


 ワルサーの引き金を引いてみる。


 ありがたい事に心器の火力には影響がないようだ。ただ動きづらいのはなぁ。


【慣れるしかありませんね。日光に強くなるためには何かしらの手立てが必要かと思います】


 進化しかないかなぁ。後は血を飲むとか。


 どちらにせよ、現実的ではないな。まだまだ時間がかかりそうだし、ミッチェルに正体を見せることになるから。


「……どうかしたんですか?」

「ああ、少しだけ試したいことがあったんだ。ほら、暗い中だと目が追いつかないと思って試し撃ちを、ね?」


 咄嗟に出た言い訳としては充分だと思う。

 というか、よく出てきたなと自画自賛したい。


 蒸しかえるような暑さ。

 炎天下の中で僕は元いた世界を思い出した。異常気象だとかで例年以上の暑さを誇っていたために、僕は家にいることをやめた。だって妹がいたし僕だけクーラーや扇風機を禁止されていたから。


 本当に嫌な思い出だ。


 はぁ、ここに来てもこれを体験するのか。まだ森の中だからか少し涼しくてありがたいけど。っと、


「来るぞ!」


 現れたのはよくRPGに出てくる定番魔物、ゴブリン。小さな体躯とそれに見合った角を持つ小鬼だけど……弱すぎないか?


 ステータス5って、ゾンビウルフより低いじゃないか。いや、いいんだよ。これで貴族君とかのレベルが低い理由は分かったから。


 でもさ、せめて格上だとか気づかないのかな。これって弱体している僕でも楽勝だよ?


【いえ、私が強化魔法をかければ並大抵の魔物には負けません】


 だそうです。

 じゃあミッチェルは? ミッチェルは全ステータス百ちょっとですよ? これでも楽勝ですよ?


【その前にマスターの呪魔法が決まって即死ですね】


 なるほどね、じゃない!

 いや、なんか弱い敵が出てきて嬉しい反面、こんなに馬鹿なんだなと呆れてしまう。


「あれ? 一撃……?」


 いや、ですよね!

 ミッチェルでさえ、ゾンビウルフ戦には細心の注意、そしてどのタイミングで攻撃するかが鍛えられたのに守ることすら出来ずに即死ですよ。


「……これが普通だとは思わないでくれ」

「でっ、ですよね! こんなに弱いのは裏を返せばゾンビウルフが強かっただけですもんね!」


 ステータスはクソ雑魚でも呪属性がキツいからなぁ。現に高レベルのルクス君はその毒牙にかかって死んでしまったし。


 あっ、そうそう。


「ミラージュ……これで完了、と」


 入口を塞いでおかないとね。


 いつ中に入られて素材を奪われるか分からないし、これを破れると言ったら僕より格上なのは確実。それなら奪われても仕方ないし。


 後は……嫌だけどアイリ、アキ、アミだなぁ。……無性に離れるのが嫌になってきた。やっぱり召喚士の方が良かったんじゃないのか?


 でもなぁ、それだと強くなれないから夜にしか活動出来ないし……うーん、悩むなぁ。


 いや、我慢だ我慢。そのうち帰ってくると思うし、このままだと子離れ出来ない親と変わらない。


「それじゃあアイリ、アキ、アミ、頑張って強くなってくれよ?」


 だから辛く突き放すしかない。


 僕はミッチェルと共に右へと進みゾンビウルフ達は反対方向へと進んだ。大丈夫、話が出来ないわけではないのだから。


「……ここからは私が前衛を担当します」

「うん、危なかったら言ってね。死んでしまったら元も子もないから」


 少しだけ複雑そうな顔をしているミッチェル。僕はなんとなく想像がついていたけど何も言わなかった。ここからは僕でさえも命を落とすかもしれない未知の領域。


 ミッチェルを、僕自身を守るために戦わなくてはいけないのだから。ぶっちゃけ守りきれるかどうかは僕でも分からない。


 まあ、ミッチェルを守りながら頑張ろう。

 と、そう考えていた時期もありました。でも今の状況を見ればその考えを改めさせられる。


「……弱いですね」


 ミッチェルは淡々と二足歩行の大きな豚、オークの首を刈り取りしみじみと見つめていた。


 いえいえ、一応は格上相手なのですけど。あっ、涎を垂らしたぞ。


「ステータスではオークの方が上だったんだけどなぁ。素早さが遅かったからなんとかなったね」


 ステータスの画面には速度という言葉はない。これはステータス以前に個人差があるからだろうけど……よく分からないな。ステータスが全てではないと教えられたし。


 一応はゾンビウルフの方がきついんだろうな。一発で僕がいないと死が確定している戦いだから、オークのように数発受けても、といった余裕はないはずだ。

 いや、やられたなら普通に助けるけどね。


「ギドさん、お願いします」

「はいはい、もう少しで職業を就けられそうだから、何重視にするか考えておいてね」


 イフのおかげで他人の職業を持てるレベルも分かるようになっている。まあ、ミッチェルもそうだけど普通ならおかしい事だけどね。


「……楽しみにしています。奴隷の時ならこんな楽しみもなかったんですね。……いや、ギドさんが主なら……あるいは……」

「そういうのはなしだよ。近くにいたいなら別に突き放しはしない。その文知りたくないことも知るだろうし、僕の嫌なところも知るだろうけどね」


 そうなったら勝手にいなくなるだろう。


【……ミッチェルなら多分、いなくなりはしませんよ。元々、奴隷として蔑まれていたのでそんな偏見はないようですし】


 それでも僕が許さない。


 確定で裏切らないとしてもミッチェルはミッチェルであり、僕は僕だから。人の見たくないところなんていくらでもあるでしょ?


 僕だって元カノの嫌なところを見て一瞬で冷める時があったから。実際は男女の恋愛に対する感じ方の違いなんだろうけど。


 それにこのステータスなら……、


「……ちょっと待ってて」


 一本の牙を取り出す。

 見慣れたゾンビウルフの牙だ。


 こんなことなら生産系のスキルを得ておくべきだったな、と今更になって後悔する。仕方ない仕方ない。


 ゾンビウルフの牙は思いの外長い。見た目サーベルタイガーに似ていたから作れるとは思うんだけどなぁ。


 一番大きな、そうミッチェルを助けた時に倒した高レベルのゾンビウルフの牙であるものを作る予定だ。うーん、街に行ったら生産系にも手を伸ばしてみるかな。働くのは夜でもいいわけだし。


 男の肘から指先までの長さくらいはある太い牙を氷の剣で削っていく。何度も欠けてしまったり折れてしまうのは素材の良さだからだろう。


【……効率化させます。ステータスの低さも関係していますから】


 頼むよ。ちょっとステータス減少がここに来て仇になるとは。死にそうなときではなくてよかったけど。


 約三分間、イフの助けの元で牙を削った。

 そしてそれは完成した。


【これでいいでしょう】


 持ち手に取れる量が少ないゾンビウルフの皮を使う。爛れた部分ばかりで本当に取れる場所が少ないのだ。その分、耐火性とかにも優れるけどね。


 硬さは自身が削ることで体験済み、切れ味も近場の木に太刀筋を入れてみたが三分の一まで切れ込みを入れた。ただ一つ失敗したことがある。


 チート過ぎるのだ。

 付与能力に呪と氷がついた。


 いや、呪は分かるんだけどね。ゾンビウルフの属性だから。でも氷って……僕のスキルじゃないのか?


 ミッチェルが強くなるのなら別にいいけどさ。でもこれだけ強くなるのなら僕専用の武器を作るのも手かもしれない。


 アイシクルソードだってMPや魔攻依存だから質の高い武器も持っていた方が楽になる。魔剣とか欲しいから色々と物色してみようかな。


【魔剣は数少ないドワーフや勇者の仲間が作れるものなんですけどね……】


 ……聞かなかったことにしよう。


 最悪は呪われた武器とかでもいいし。持っているだけで呪耐性強化になるから割とありがたい。あっ、そうだ。


 イフ、もしかしてだけどさ……って、出来るかな?


【薄くならばそこまではMPの消費は少ないと思います。それにしてもよく考えつきましたね。これなら怪我の心配もありませんし私を有効活用出来ると思います。良かったです、暇だったもので】


 最後は本音ですか。

 あんまり構ってあげられなくてすいませんでした。


 と、MPが減っていく実感とともに皮膚の毛がピリつく。これがそれをやっている証明なのかな。


【はい、操作は私にお任せ下さい】


 イフにそう言われたのでミッチェルの元へと戻る。うーん、この武器は氷呪剣とでもするかな。氷呪剣、高校生の僕にとっては嫌な響きだ。


 友達の中で「高校受験楽しいわー」とか言う人がいたけど、絶対にドMだと思う。僕なんて勉強して半月で妹の襲撃によって断念しましたから。今となってはいい思い出……ではないなぁ。


 ミッチェルの方へ戻っていく。

 少し時間を使いすぎたな。レディを待たせるのはうんたらかんたらって誰かが言っていたから謝ろう。


「あっ、ギドさん。時間がかかっていましたけど何をしていたんですか?」


 僕に気がついたからか、ミッチェルはその手に持つものを地面に叩きつけて駆け寄ってきた。べチャリと音が鳴って少し気持ちが悪い。


 というかさ。なんで数分間にゴブリンの死体の山を築いているのだろうか。これが幸運かな。じゃあ、なんで発動した? 本当に謎だわ。


「ああ、まずはこいつらを飛ばしておくね。っと、後はこれ。今作ってきたんだ」

「これは……短剣ですか? それにしても少し青みがかっていて綺麗な、片手剣に近いような短剣ですね」


 まじまじと僕作の氷呪剣を眺めているミッチェル。なぜかすごく恥ずかしいな。変なところはなかったかな……。


 あれ? なんか抱き抱え始めたぞ……。


「……ありがとうございます。贈り物なんて初めてだったので……」

「そこまで喜んでくれるなら作った甲斐があったよ」


 なんか目の色が変わった。

 うん? なんか神聖なものを見る目をされていないか? えっ? 普通に怖いんですけど。


「これを短時間で作るなんて……さすがです。すごく手に馴染みます」

「一応はゾンビウルフの牙で作ったから呪属性、僕が作ったからか氷属性が備わっているんだ。硬さは作った僕のお墨付きだよ」


 うんうん、喜ばれるとやっぱり嬉しいな。って、うおっ。


 タックルとも抱きつきとも思えるミッチェルの攻撃に僕は押し倒されていた。それに気がついたのは目の前まで迫ったミッチェルの顔があったからで……恥ずかしい。


 キスとかはしたことがあるけど、心底にあるものは童貞。本当にキツいです。これがラッキースケベ……なわけないよね。


「……どうしたの?」

「何でもないですよ」


 立ち上がってくれたけど頬を染めていた。

 何か確かめたいことでもあったのかな。いや、知らないけどさ。


【……お取り込み中申し訳ありませんがこの近くで魔物に襲われている馬車があるようです。どうしますか?】


 なんで知っているのかは聞かない。


 どうせナビゲーションと言うよりも何でもわかるスキルとしか思えなくなってくるし。そんな考え方したくないしなぁ。


 って、そうじゃない。襲われているのか。助ける義理もないしなぁ。


 ここはミッチェルに……は駄目だな。多分、僕が行かないって言ったら前言撤回するだろうし。となれば行きたくはないけど行くしかないよね。


 知ってて助けに行かないのは虐められている子を助けずに傍観しているようなものだし、そんなことをすれば僕は最低な人と変わらないもんね。


 出来ればミッチェルの幸運がうまく発動しますように……。





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