一章四話 運も才能のうちだよ

「……それにしてもゾンビウルフを配下にした人なんて初めて聞きました……」

「まあ、仕方ないよ」


 うん、僕は人じゃないからね。


 吸血鬼ならそういうことが出来る者もいるだろう。あれ? 吸血鬼も人じゃないのか?


「撫でてみなよ? アミ、撫でるのを許してくれるかい?」


 アイリは絶対に僕以外に撫でられたくないようだ。名前主とは違う行動で驚いている。まだそういうことを許すアミにしか頼めないんだよな。


「……いいですか?」

「……バウ……」


 頭を下げた。許可した行動だね。


「いいみたい。いいかい、首のあたりを撫でてみるんだ」

「わっ、分かりました」


 下手ではないね。ただちょっと力が入っている。


「違う、こうだよ」

「グルゥ……」


 アミが音符が出そうなほどご機嫌な声を上げる。やっぱり僕の撫でがいいのかぁ。ほうほう、お主も好きものやのぉ。


「こう、ですね?」

「……グゥ……」

「うん、いいと思うよ。あとは慣れだし」


 僕は違いますけどね。


 まあ、これであまり恐怖は抱かないはずだ。僕もなぁ、ミッチェルの立場なら怖いだろうし。泣かないなんて偉いと思う。


 見た目はポニーテールでタレ目の少女だけどとっても小さいし。僕で百七十ちょっとだけど僕の目元あたりまでしかないからなぁ。


 歳は聞かないでおこう。


【それでこの後はどうするつもりですか? あまり言いたくはありませんが彼女は足でまといですよ?】


 そうなんだよなぁ。三体を連れていくのは簡単だけどミッチェルは呪耐性も持っていないし、レベル4だからステータスも低いしね。


 ……強くしないといけないかな。適当に終わらせるのは嫌だし、なにより僕がこの世界で初めて知り合った人だからね。


「ミッチェル! 悪いけどこの後は戦いに参加してもらう! いいかな?」


 あっ、固まった。ちょうどアミの首に手を回していたからチョークスリーパーをかけているようにも見える。


「ガルルゥ……?」

「はっ……えっと、そうですね」


 駄目だ、アミが頬を舐めたから意識を取り戻したけど脳がついていっていない。どうすればいいかな。


「ここを出るためにはミッチェルが強くならなきゃいけないんだ。その手助けはするから戦ってもらいたいんだ。……駄目かな?」

「……嫌です……けど、戦わないと……ここを出られないんですね?」


 首を縦に振る。これに関しては本当のことだからね。


「……分かりました。……手助けをしてくれるのなら……頑張ります」

「まあ、安心して。どっかの主のように見捨てたりしないし、噛まれても治せるから」


 神妙そうに頷く。

 うん、本当に助けるから安心してほしいな。


「……あの? この小指は?」

「僕の出身地では小指を合わせて、指切りげんまんって言うのをやるんだ。これを違えれば針千本飲まされるんだよ?」

「こっ、怖いです……」


 嘘なんだけどね。

 でも違える気はないからこんなことでも必要だと思う。ラノベとかでいう神や妖精に誓う、とかそんな感じなのかなぁ。


 実際、指切りげんまんで指切って万の拳が降ってくるし。えっ、怖くね?


「……どうかな?」


 何も言わずに指を絡ませてきた。


 信用してくれた、わけではないよなぁ。そのうち得られるなら今でなくてもいいけどさ。


「指切りげんまん」

「ゆっ、指切りげんまん……?」


「嘘ついたら針千本のーます」

「針千本のーます……」


「一緒に指切った、だよ? それじゃあ」


 ひと呼吸おいてその指を上げる。


『指切った!』

「これでミッチェルを見捨てることはないよ。さあ、行こう?」

「……はい……」


 大丈夫、誰も殺させない。

 不幸せになんて終わらせないよ。僕にだって誰かを幸せにさせる権利はあるはずだ。


【……マスター、あまり肩入れしてはいけませんよ?】


 分かっている。僕と彼女じゃ種族が違うことが。


【魔法国とはいえ……】


 差別がないとは言えないからね。元の世界と同じでそれだけ差別は人の心底に眠っているものだから。どんな優しい人であれ、そんな心は絶対に持ち合わせている。


 それでも助けるのは自由だろ?


 力を持つということはそういうことだと思う。ただ振りかざすんじゃなくて誰かを助けるための傘になる、手になることが必要だと。


 僕は幸せじゃなかった分だけ、これから出来る家族や仲間達を大切にしたい。




 ◇◇◇




「あっ……」

「アイリ! カバーに入って!」


 初戦にてミッチェルは怪我を負った。


 もちろん、相手はゾンビウルフなので呪い状態にかかっている。命令に反応したアイリがミッチェルを連れてくる。


 大丈夫、浅いからすぐに治る。早く手を治したいけどそれよりも必要なことだ。ミッチェルが強くならない限りは僕もおちおち寝ていられないなぁ。


 やっぱり小さな火球だけでは視界に悪影響があるかな。もう少し大きくするか。


「……すみません」

「えっ? なんで?」


 何言ってるんだこの子は。僕は約束を違えないって何回言えば……。


「……私なんかに聖魔法なんて……」

「いやいや、やらないと宝の持ち腐れでしょ? 僕は君と約束をした。それなら守るのが普通さ」


 チートは使ってこそ意味があるんだ。


 まあ、聖人君主ではないから誰でも助けるわけじゃないけど、僕が助けたいと思うなら助けるのは普通でしょ?


 僕の自由第一で助けられるなら助けるだけ。束縛するなら助けるつもりもない。


 その時に僕にも被害があるだけ。それが本当の親切だよ。能力もないのに見返りを求めてや、能力があるのにもったいないからっていうものは親切じゃない。


「……何もお返しが出来ないです……」

「そうかなぁ。一緒にいてくれるだけで気分はいいけど。なんて言ったってここにはゾンビウルフしかいないからね!」


 その中に可愛い女の子がいたら気分が上がるに決まっている。何もお返しが出来ないです、なんて嘘じゃないか。


「……なんで……そんなことが言えるんですか? 私は奴隷でお金にもならないんですよ?」

「……お金ってそんなに大切かなぁ。僕ね、お金をきちんと貰ったことって少ないんだ。欲しいものはいつ貰えるか分からないお金で。それもそこから教材とかを買っていたから」


 少し不思議そうな顔をしている。

 あっ、教材とかは分からないか。


「簡単に言えば食事も貰えない時があったんだ。そんな中、助けてくれたのは誰だと思う? 自分と同じ人だよ。両親と同じ種族なのに僕を助けてくれたの」


 そう、友人が助けてくれたから心が折れずに生きていくことが出来た。お金に関してはいても困っていたけどね。


「だから、まあ、君が僕みたいに誰かを助ければいいんだよ。それの先行投資みたいなもの」

「でも……私には……才能なんて」

「何言ってるの? あると思うな親と金、ないと思うな運と災難。君が僕と出会えたことが運なんだよ。そして運は才能だ! それにさ、ステータスを見てみなよ」

「えっ……?」


 おっ、確認しているな。

 びっくりしている。なんか可愛い。


「……呪耐性なんて持っている人は少ないよ。それにそのスキルだってさ」

「……幸運?」


 そう、固有スキルの中に幸運っていうものがあるんだよなぁ。ミッチェルが持っているスキルだけど、ぶっちゃけ僕も欲しいや。


 それにこれのおかげで耐性も早く獲得出来たんだろうな。かなりその属性を受けないとつかないらしいし。


「それでも才能ないなんて言う? 固有スキルを持っている人なんて一万人に一人だよ?」


 この世界ではそうらしい。

 イフと話をしている時にポロッとこぼしていた。


「いいかい、やろうと思うなら僕を利用しなよ。その代わりに僕も君を利用している。君といると話し相手に困らないからね。だから安心していい。ミッチェルがいてくれるだけで僕は嬉しいよ?」


 さすがに泣きはしないか。


 でも、嫌な顔もしていない。まだまだだなぁ、親の機嫌をとって人の感情には疎くない、と言うよりも汲み取ることに関しては得意だと思っていたんだけど。


「さあ、何度でもぶつかって怪我をしてきな。僕が全部治すし戦ってくれる。君ならやれるよ」


 武器は錆びた鉄の短剣だ。


 これはドリトルが持たせたものだろう。もう少しいいものを持たせないといけないのにアホじゃないかと思う。人の命をなんだと思っているのか。


 心器を出せる者は少ないらしい。


 それでも僕はミッチェルなら出来るような気がする。その瞬間を見ていたいけど無理だろうね。一週間やそこらで縮まる距離ではないから。


 でも、手助けは出来る。


 錆びているなら何かで覆えばいい。今の今まで気が付かなかった僕も馬鹿だけど。


「アイシクルソード」

「えっ、と。……これは?」

「これならあいつらを簡単に切れるはずだ」


 後は背中を押すだけ。


「戦え、強くなれ。ミッチェルなら出来るよ。君は少ない固有スキル持ちだよ! そして僕がいる!」

「はっ、はい!」


 短剣を持ってゾンビウルフを切る。


 片目の損傷、口にも切れ込みが入った。


 舐めてはいけないよ。僕の魔力が入っているんだ。簡単に治るわけがないだろう?


「ガル? グッ!」


 僕が短剣に付けた能力は切った部分を凍結化させるもの。ゾンビウルフは回復速度が早いから迅速に倒さなくてはいけない。でもミッチェルにはそこまでの火力がない。


 だから僕が手助けをする。あの体躯ではルクスとかいう従者が使っていたバスターソードは使えないだろうし。


「ここ!」

「アキ! ガードして!」


 ゾンビウルフの爪がミッチェルに迫るがアキが爪で抑える。計算通り。相手はまだレベルが低い。


 裏を返せばミッチェルのステータスは弱いゾンビウルフ以下ということだけど。それでも人族はそんなものだから仕方がない。大器晩成型が人族だから。


 吸血鬼は最初っからステータスが上がりやすいよ。その分、弱点があるから気をつけないといけないしね。


「ここ、だ!」

「行け! ミッチェル!」


 そうしてミッチェルはゾンビウルフを倒した。とても誇らしげなミッチェルを見ていると僕も嬉しい。友人達もこんな気持ちだったのかもしれないな。


 狩りは終わらない。されどミッチェルは嫌な顔一つしなかった。何かがはっちゃけたのかもしれないな。倒しては進み倒しては進みを繰り返した。倒したものは全部僕が持ち運んでいる。さすがに多すぎていくつかは目を盗んで拠点に送っているけど。


 一応その日はそれくらいにしておいた。さすがに半数は滅してしまったから全滅も遅くない。ゾンビウルフが全滅するということは僕が外に出なくてはいけない、ということだしね。


 あれ? 僕のレベルがあんまり上がってないような気がするんだけど……? これ、残りを僕が倒したとして外で通用するか?


 あれ? 僕ってただの荷物運びでは? 立場逆転?


【気づくのが遅すぎです】


 そう馬鹿にされた気がする。

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