一章三話 捨てられたようです
あれから二日が経った。
睡眠学習によって土魔法と火魔法を覚え貯蔵庫の中身はかなり多くなった。もうゾンビウルフの貯蔵庫と大差ないけど。
一応、部屋にだけは松明をつけておいた。要らないけどあるだけで雰囲気出るからね。ここは誰かが住んでいる、みたいな。
外側を刈り取って中身の赤い肉を取り出す。少しとはいえ血もあるのでそれは飲み干し焼いた肉を三体に与える。慣れたものだなぁ、二日でここまでなんとか出来るものか。
洞窟の探索もかなり進んだ。
入口を抜け一本道を通っていくと左右の道に分かれるのだが、左は三体に右は僕が探索している。左側を任せていた三体からは行き止まりであることも教えてもらい、主に右側を今探索している。
左側を全滅させたみたいなので道の片方を土魔法で閉ざした。これで奥に行かれることはないだろう。
ちなみに拠点の前の一本道も氷魔法で閉ざしている。闇魔法も自力で覚えたので氷魔法と連携してミラージュというオリジナル魔法を作ってみた。これによって入口がないように見えている。
ちなみに複合魔法とかいう高等テクニックらしいけどイフの手があれば楽でしたよ。
そして今も右側を探索していた。
僕が攻撃しようとするたびにアイリが攻撃をしてしまうために何も出来ない。レベルが上がったからなのか、アイリの攻撃で一撃だ。
はぁ、全然経験を詰めていないような気がするぞ。
【レベルが上がりました】
……うっ、嬉しくない……。
だって僕、強くなっても強くなっていないし。……やめて、アキ。頬を舐めて慰めないで。これでレベルが9か。……もう少しで二桁だ。
うん? この先にゾンビウルフ以外の気配が三つあるな。奥の崖かな、昨日初めて行った場所だけどゾンビウルフの群れがいる場所だ。
あっ、一人気配が消えた。死んだかなこれは。
「ここの奥に何かいるみたいだから行ってみる?」
「グルゥ!」
三体とも僕が行くって言ったら行くんだもんな。可愛らしいことこの上ない。じゃあ、行きますか。
【これは……人のようですね】
おー、そうなのか。この世界の人を初めて見るなぁ。どちらにせよ、行くのは正解だね。
着いた! うん、崖下で誰か戦っているな。淡い松明の光がかなり下で光っているとはいえ何故か見えるし。……もうすこしだけ覗いているか。
【鑑定を使ってみてはいかがですか? 魔力を目に集めて相手の情報を得ようと思えば見えるはずです】
そうするよ。おっと。
『ドリトル・ルール ♂ 貴族 レベル8』
『ミッチェル ♀ 奴隷 レベル6』
簡易的だけど分かったぞ。それにしてもレベルが低いな。仮にも僕よりも速くここで暮らしていたはずだろ。
ドリトルというのがデブっている汗でテカテカの豚だな。悪徳貴族のイメージぴったりだ。ミッチェルはあの可愛らしい少女のことだろう。遠目で詳しくは分からなかったけど。
【貴族はあまり強くないですよ。戦って強くなるのは貴族の務めですが、まだ彼は若いみたいですし】
となれば足元に転がっている人は従者かな。
『ルクス ♂ 従者 レベル24』
あれ? レベル高くないか?
【どうやらゾンビウルフに噛まれたようですね。ゾンビウルフが高い理由はその味だけではなく討伐レベルも高いからですし。それに滅多に見ることが出来ませんから】
戦い方、ねぇ。牙に呪属性の攻撃を宿してダメージを与える、だっけ。それで呪耐性を得たわけだし。
もしかして呪属性ってすごく強いのか?
【人が使うことは出来ません。そのため耐性を持つ者も少ないですし定期的にダメージを与えます。マスターが知っているような言葉であれば回復をすることが出来ない毒のようなものです。聖属性の魔法でなければ回復出来ませんから】
聖も持っている人が少ないから仕方ないか。って、あの貴族奴隷を置いて逃げ始めたぞ!
【貴族やお金持ちが奴隷を買う理由がいくつかあります。それは戦力強化などもありますが自分の身代わりにすることです。夜枷にする人も少なくないですね】
「チッ、あんなちっちゃい子が死なれたら寝られねえよ。アイシクルウォール」
ミッチェルを中心に高い壁を起こす。
その周囲にアイリ、アキを放ち、アミを壁の近くにいるように命じた。僕が倒しても三体に経験値が入らないから三体に任せた方がいい。僕には経験値が入ってくるし。
一体だけ大きなゾンビウルフがいるな。さすがに三体には荷が重いかぁ。
『アイリ ♀ レベル5』
『アキ ♀ レベル4』
『アミ ♀ レベル4』
アイリがメインで敵を倒しているからレベルが一つだけ高い。だから勝てそうだなと思うけど、相手を見たらそうも言ってられなくなる。
『ゾンビウルフ ♂ レベル8 称号、群れの長』
レベルもさることながら称号があること自体、少し不安要素が多いからね。ステータスを見る限りでは僕の方が圧倒的に高いし。
「みんな下がって」
氷の階段を作りみんなを上がらせて僕は降りていく。あっ、こいつも上がってこようとしているな。
「アイシクルレイン!」
これの良さは上からだけではなく僕の前から出させることが出来ることだ。上ろうとしていたゾンビウルフの顔に数十もの氷が突き刺さる。うわ、痛そう。
蹴りを入れて階段から落とし魔力の構成を解き溶かしていく。ワルサーを片手に氷剣を作成。準備は整った。
「って、早い早い! 準備中だって、ば!」
攻撃してきても躱せる僕も大概だな。
反ってそのまま腹に下から切り込みを入れる。魔力が元なのでダメージは大きいはず。魔力の高さが攻撃にプラスされるからね。
「アイシクルランス」
三本の氷の槍が傷ついた腹に突き刺さる。これで倒せたはず。
うん、倒れた。これでオーケー。
【それでは貯蔵庫に飛ばしておきますね】
僕が倒した魔物は空間魔法で拠点の貯蔵庫に飛ばしている。これは適正は普通だったので魔力のゴリ押しで覚えられた。レベルアップはまだしていないけどね。
スキルレベルが上がったのは氷だけ。火、水、土、闇、氷、聖、呪、空間は覚えたけど氷でさえFの上、つまりはEで止まっているし他はFのままだ。本当にスキルレベルって上げづらい。
ただでさえ、スキルレベルなんてF〜Sと振り幅が大きいというのに……。
とりあえずルクスとかいう従者の遺体も貯蔵庫に送っておく。人の血も食事として飲めるらしいし持っていて損はないはず。
長が倒れたことで皆逃げたようだ。あぁ、僕の経験値……。
氷の壁を壊して中を覗いてみる。
あっ、気絶しているな。丁度いいからアイリに運んでもらおう。
◇◇◇
「……あっ、グッ……」
「だっ、大丈夫かい?」
運んで二時間ほど。
ミッチェルが目を覚ました。これは嬉しいな。でも練度が低いせいであまり回復出来なかったみたいだ。
致命傷は回復したんだけどなぁ。細かいのはさすがに無理だったよ。ついでに首についていた首輪も取っておいたけど。
「……? あなたは……?」
「えっと、僕はギド。ここに住んでいるんだ。探索している時に変な気配を感じてね」
首を傾げる姿、とっても可愛いです。
いや、そうじゃない。心を乱すな。さすがにこれでは童貞とモロバレではないか。
「君はどうしてここにいたんだい?」
知ってるけどね。聞いておいた方が構えられることはないでしょ。
「……主に……連れてこられた。奴隷の中で一番強かったから。……でも、ルクス様が死んでから……私を置いて逃げていった」
「あっ、あの人がルクスかな?」
首を縦に振った。
簡易ステータスで知ってたけどね。
「……おかしい。私は呪い状態に陥っていたはず。……それに氷の壁が現れてから記憶がない……」
「両方とも僕がやったよ。ここにいるせいでいろんなことを覚えてね。これも外しておいた」
首輪には『隷属の首輪』と書かれていたし外して問題がないはず。
「……そんな……それは外せないはず……」
「呪属性を回復した僕がそんなことも出来ないと思う?」
ちょっと回路が複雑で聖属性の魔法をどう使えば分からなかったけどイフがやってくれたし。イフは僕のスキルだから僕の力だ、えっへん。
「……ありがとうございます。それで……要求は何でしょうか? ……元の主からしたら私は死んだも同然……お金は取れないと思いますよ?」
お金かぁ。要らないなぁ。
だってこの山を売ればそんなの簡単に手に入るし。空間魔法の応用で手元に転移させればいいだけだしね。いわゆる宝の山っていうやつさ。
「君って帰る場所はあるの?」
「……ない……です。……孤児院が……経営難で売られましたし」
おっ、重い……。でも、そっか。
「なら、ここにいる? もう少ししたら外に出るけど一緒に来るなら来てもいいし」
「……何か裏がある……としか思えません」
ありゃりゃ、僕信用ないなぁ。
「いや、来なくてもいいし。ただ目の前で死なれたら困るから助けただけだし。死ぬならどうぞ、ご勝手に」
本心本心、嘘言っても意味ないからね。
あっ、顔を引きつらせた。僕がいなかったら誰も助けてくれないもんね。
「外に出たいなら連れていくよ? どちらにせよ、出口が分からなくて探していたわけだし、目的は一緒だよ?」
今日のことで崖下の奥に出口があることが分かったからね。後は僕と三体を光に強くさせないと、色んな意味で。
それにさ、僕わりと限界なんだよね。聖魔法でミッチェルを回復させたのはいいけど、僕の天敵である魔法だよ? 怪我しないと思う?
指の爪が欠けているんだ。早く寝て回復したいよ。
「……それなら……お願いしたいです。……でも利はないですよ?」
「あー、可愛い子といられたら幸せなおじさんの気持ち分かってよ」
笑ってくれた。笑顔が良く似合う可愛い子だな。頭撫でたい。
「……私と変わらない年齢に見えるのに……しっかりしています。……なのに、おじさんみたいなこと言うんですね」
「僕は欲望に忠実なの。助けるなら助けるし助けないなら助けない。約束は違えたくないしね。だから出るまでは仲間ってことで」
ミッチェルの笑顔が大きく咲いた。
本当に可愛らしいな。
「えっ……」
「……あっ、ごめん!」
あれ? 僕何した?
抱きついた? ヤバい……セクハラだ……。
「離れなくても……いいですよ……どうせ、私は奴隷ですから……」
「そういうことは言っちゃいけないよ。これからは奴隷じゃなくて自由なんだから」
うん、簡易ステータスでも奴隷から平民に変わっているし大丈夫なはずだ。頭を撫でながら僕はぎゅっと抱きしめ続けた。
仕方ないだろ? 人恋しかったんだから。
「そういえば仲間を紹介するね。アイリとアキ、アミだよ!」
その後にミッチェルの悲鳴が上がったのは言うまでもない。早く休みたいのだけど、これじゃあ無理っぽいなぁ。
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以下作者より
次は十八時の投稿です。
早く追いつけるようにします。
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