一章二話 ここを我が拠点とする

「……知らない天井だ……」

【マスターお目覚めですか】


 固有スキルらしくテンプレートなことを言ったのにスルーだ。イフめぇ、もう少し察してほしい。


 それにしても特に体に変化はないな。明らかに不調で倒れたはずなのに、何事もなかったかのように僕の体はピンピンである。


【今現在、三体のゾンビウルフが戦闘を行っています。狩った数は十三体でその全てがここに送られています。マスターを含めゾンビウルフのレベルも上昇しているので、いかが致しましょうか?】


 状況説明ありがとう。


 レベルが上がっているのか……これがヒモメンの気持ち! 悪くないと思う僕は最低なのかもしれない。


 少し戦ってみるか? いやいや怖いですよ。でもいつかは戦うんだよなぁ。ゾンビウルフは格下だと分かっているのだから慣らさなくてはいけない。最悪ゾンビウルフに守ってもらえばいい。


【それでは戦闘をするのですね。アイリ、アキ、アミの三体を帰還させます】


 はっ? アイリ、アキ、アミ? ゾンビウルフの名前か?


【その通りです。固有名がないのはいささか不便でしたので、身勝手ながらマスターのMPを使い名付けました。それによって三体は配下となっております】


 配下? 魅了とは違うんだろうな。


 ってか、三体とも女だったのか。名前的に男ではないよな。いやいやいや、その前に名前が……。


【マスターの記憶にある関係のあった人ですね。アイリとアキは友人、アミは元カ】


 やめてー! わかりましたから!


 友人の名前をした三人を配下にするとかどんな鬼畜だ……。一層の事殺して……。と、こんなところでいいか。くよくよしても仕方ない。


 とりあえずアミをメインに働かせよう。恨みとかではないよ? なんとなくだよ?


【それなら妹の名前をとってココなんていえのは】


 結構です! あんな傲慢な妹は妹ではありません!


 それよりも名前か。僕も名前なし、つまりネームレスなんだよな。なんか付けておくか。


【あっ……すいません。寝てる間に私が付けました】


 え?


【……マスターの見た目からカッコいい名前を、と思ったのですが】


 ちょっと待ってくれ! 今確認するから!


 ……本当だ。ギドという名前が付いている。ってギド?


「そんな要素……ないやん……」


 僕は顔で褒められることはあるけど、それはカッコいいという方向ではなく可愛いという意味でだ。ギドという名前は僕には合わない。


【気付いていないのですか? 転移によって身長が高くなっているのですよ。それに……私はカッコイイと思います】


 何も言えない。


 そっか、それならいいや。どちらにせよ、変えることは出来ないだろうし。それに変な名前じゃないから全然構わないよ。


 と、おっ?


「グルゥ……」


 ゾンビウルフが僕に突撃してきた。


 不思議と体当たりを食らったけど痛くはないな。それに爛れているはずの皮膚も薄くなり毛もいくらか生えている。


「……アイリかな?」

「ガウッ!」


 正解だったみたいだ。うんうん、女性の名前を覚えるのは男子として普通のことだよね。


 喉元を撫でながら胡座をかき頭を乗せる。よくラノベの描写とかで撫でると目を細めるとかあるけど、本当に起こるんだな。動物の本能か、子供だからかよく分からないけど。


【よく名前が分かりましたね】


 それは簡単だよ。三人の特徴的にアイリっていう友人の特徴に似ていたから。僕のように行動がうるさい所とかね!


【洞察力があるのかないのか、よく分かりません。ですがそれがマスターのいい所では?】


 嬉しいことを言ってくれる。実体があれば頭を撫でていたところだ。


【……それは……残念です】


 本気で残念がられた。少し反省。


 それで今来た二体がアキとアミかな。うーん、アキが少し大きめの方だろうな。姉御感があるし。アミは目が大きい子かな。普通に可愛い子でしたし。


 イフから正解だと返答があった。


 この三体が僕の配下か。名前に難はあるけど。


 まずはここを拠点にするとして、その後どうするか。吸血鬼の本来の力なのか、周囲の状態はいくらか分かる。それこそゾンビウルフの気配なら十メートル四方で分かるのだけど。


 ここを拠点にする理由は割と広い中で入口が一つしかないこと。それだけで入ってくる存在は迎撃しやすいからね。


 あっ、僕ここで倒れていないよな。もっと何もない通路のはずだし。


【それは私がアキに頼んで運んでもらいました】


 そっか、ありがとう。それならほかの事だ。


 戦うにしても僕は後衛向きだしな。獲物はワルサー、使えるのは魔法系統の魔眼。前衛ならばすぐにやられてしまう。


【それは少し違いますね。成長限界までステータスの上昇率を上げていますし、真祖自体がステータスの上昇率が高いです。配下のおかげでレベルも上がっているので素手で戦っても簡単に倒せます。倒したゾンビウルフはこの拠点の端に置かれていますし】


 あっ、本当だ。レベルが3になっているのにステータスはほぼ二倍。それにゾンビウルフを食べれば日光に対抗出来るらしいし……。


 そういえばゾンビウルフのステータスってどれ位なの? 後は外にいる人族の平均ステータスとか。


【ゾンビウルフは攻撃が15で他は10です。人族は個人で違いますが平民であれば平均30ほどがふつうでしょう。そもそも平民は戦いませんからレベルも低いですし。洞窟近くの街の冒険者ともなれば平均500ほどですね】


 全然足りないじゃん。ステータスが高くなってて調子に乗っていた!


 まだまだ戦わないと駄目かぁ。もう少し籠らないといけないかな。


【そうですね。最低限の魔法などを覚えてから外へ出るのが安心出来る手段かと。加護のおかげで全魔法に適正がありますし】


 ここに来てもチート能力を発揮するのか! 魔神の加護よ!


 でも、覚えられないよりはありがたいよな。感謝感謝、なんで僕にくれたかは分からないですけど。


「あっ、誰か来た」


 僕の気配を探る網? のようなものに二体のゾンビウルフが引っかかった。多分こちらに向かってきているのだろう。迎え撃つか。


「三体は休んでていい。少し動いてみる。駄目だったら助けを呼ぶね」


 なんとヘタレなことか。自分で言っていて恥ずかしい。こういう人ってプロポーズの言葉も「これからもずっと僕を守ってください」とかだろ。うわー嫌だー。


 って、そうじゃなくて。ゾンビウルフを倒してみよう。今回は逃げないで、だ。イフからゾンビウルフは弱いと聞いているし倒せるはず。怖くない怖くない。


「グルルゥ!」


 ……怖くないけど……キモいです。


「イヤァァァ!」


 悲鳴と共に三発の銃弾がゾンビウルフに当たる。脳天と首、そしてもう片方のゾンビウルフの鼻にだ。


 二発当たった方は倒れた。後はもう片方だけ……って、あれ?


 もう片方も倒れていた。さっきは一発では倒れなかったのに。となればどういうことだろう。心の器と書くくらいだから自分のステータスに合った威力を持つのかな。そして場所によってダメージは違えどHPがゼロになれば即死とか。それなら納得出来るな。


【お見事ですね。これなら洞窟内を殲滅するのも時間の問題でしょうか】


 それならそれでいいや。


 これだけの火力があればゾンビウルフは怖くないな。うーん、それで次に必要なことだけど……やっぱり魔法かな。拠点と決めたからにはここを整備したいし。


 土魔法の中には地面を柔らかくすることが出来る魔法もある。ゴツゴツした場所には寝たくないしね。それとゾンビウルフを焼いて食べれば見た目をあまり気にせずにいいだろ。保存するために水魔法も覚えたいな。


【少しだけ訂正させて頂きます。まず魔法は 通常属性、上級属性、合致しないものと三つに分かれます。通常属性は、火・風・土・水・光・闇・無で比較的使える人が多いです。上級属性は、炎・雷・木・氷・聖・呪で通常属性の組み合わせによって覚えられる人がいます。合致しないものは、空間・精霊で大概は覚えている人がいません。特に空間魔法は持っているだけで賢者ともてはやされるでしょうね】


 なるほど、水魔法ではなく氷魔法が必要なのか。そして空間魔法……どうすれば手に入るの?


【MPが足りないので空間魔法は獲得出来ません。元々マスターと相性の良かった氷と聖は簡単に手に入ります。吸血鬼元来の相性で闇と呪、無も大丈夫ですね。少し時間がかかりますが火も簡単に得られます。土が一番時間がかかりそうです。どうしますか?】


 待て待て待て、氷と聖と相性が良い?


 ……人間性の問題かな。それにしても聖属性とかカッコいいな。ゾンビウルフによく効きそうだし。


【ただしマスター自身にもダメージがある諸刃の剣です。そこは日光や聖属性を持つ道具で自傷して耐性をつけるしかないです】


 嫌だけどそれしかないのかぁ。


 まあ、やりますよ。死にたくないので。弱点のない吸血鬼とかもカッコいいので構いませんとも。


 それなら氷かな。そこから始めよう。


【了解しました。三体には狩りを続けるように命令します。取りづらそうな火と土は睡眠中に私が魔力操作で獲得させておきますね。なので今回は氷とスキルである魔力操作を獲得してください】


 了解。とはいえ魔力の大まかな概要は分かった。前の魔眼を使っている時に感じることが出来たから。


 表現にするのは難しいけど僕の場合、魔力は血液に多くあるみたいだ。心臓から血液が放出されるのをパイプを通して外に放出させる。それをイメージによって何かに変化させる。そんな感じかな。


 繋がっているからイフのイメージも僕に入ってくる。魅了の時には目から放出される不可視の魔力を相手にまとわせる感じだ。その層が厚ければ成功しやすい。その分だけギリギリで上手くいかせることも、格上にも効かないことも理解出来る。


 それで今回使おうとしているのは氷の槍。簡単な魔法として『〜ランス』と『〜ウォール』、『〜ウェーブ』、『〜ボール』の四つがあるみたいだ。これ以上のはイメージの問題。


 簡単なのはランス系とボール系なのでランスを作ってみる。ゲームでよくある槍のデザイン。それを氷で覆う感じだ。


 ……意外に難しい。けど出来なくはない。


「アイシクルランス!」


 総計四本の氷の槍が飛んだ。


 これは成功でいいんだよな。となれば他のも試してみよう。


「アイシクルウォール!」


 僕の周りに大きな壁が反り立つ。氷で出来ているために少し寒いけど硬く簡単には壊れない。


 一部分を削り取り外へ出る。


 反り立つ氷の壁に向かって新しく魔法を撃ち込んだ。


「アイシクルウェーブ!」


 氷の波、それ以外の表現が出来ない。それなのにマグマのように、海の波のようにゆっくりと相手に向かっていく。


 激突、氷の壁にいくつかの小さな穴を開けた。威力と硬さは理解した。最後だ。


「アイシクルボール!」


 バスケットボールほどの氷の玉を五つ作り出しぶち当てる。槍よりもイメージがしやすくて一つ多く作れたみたいだ。


 それによってようやく氷の壁を全壊させることに成功した。


 前みたいに倒れそう、とかはないな。具合もいいし。まだまだ撃てるくらいには元気だ。


【さすがはマスターですね。普通はボールにしても二週間ほどかけてようやく作れるようになるんですけど……。それにこれらはスキルレベルが上がって覚える魔法ですし】


 そこは元の世界の影響かな。ほら在り来りな技だったから。それにそこは加護の影響とかでしょ?


【……そのようですね。本当に常識が通用しないお方です……】


 そうじゃないとイフのようなレベルの高いスキルを持っている存在とは言えないでしょ。仮にも固有スキルがたくさんあるんだから。


 それにしてもこれならアレンジも出来そうだ。例えば……。


「アイシクルレイン!」


 氷柱の雨を降らすことが出来た。


 範囲指定すれば僕にダメージはないし楽だなぁ。遠距離攻撃も上手くいくようだし、それなら。


「アイシクルソード」


 心器であるワルサーに氷の刀身を作る。


 イメージはソードと言っているけど刀だね。少しだけ反らせてみたけど微妙だな。


 あっ、折れた。やっぱり反りは職人が頑張って感覚で掴むみたいだし仕方ないか。それでも近距離武器に変えられるみたいだから良しとしよう。


 いいこと思いついた。


「だっ、と」


 出来た。普通の氷剣から小さなアイシクルランスを制作して飛ばす。割と魔力の消費は少ないから扱いやすいな。


 倒した二体のゾンビウルフを集めている場所に置き氷の膜を張る。これはアイシクルウォールの応用だね。


 まだ元気があるので探索をしようと思う。この洞窟内にはゾンビウルフがまだまだいるからね。倒せるのなら経験値として欲しいし戦闘経験も積んでおきたい。良くも悪くも戦えることは理解したから。


 本心で言えば戦いたくないよ? 気持ち悪いゾンビと戦いたい人なんて滅多にいないでしょ。



____________________

以下作者より


 良くない部分やミスなども自由に指摘して貰えると助かります。もちろん、良い点やフォローなどをされると書く気力が湧くのでどうぞよろしくお願いします。

____________________

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る