ep.2 出逢いのきっかけ

「黒木さん。マジでやんなきゃいけないっすか?」

「当たり前だろ、男に二言はねぇ」

「えー…」


中学二年生の時、ここが人生の一番の汚点だったかもしれない。それは、とあるゲームの罰。

当時バスケ部に所属していた俺は部活内で注目されていた美女マネージャーに告白するという罰ゲームをやらされる事になった。

勿論、先輩達も成功するなんて思っていなかっただろう。それぐらい、容姿端麗で頭脳明晰で品行方正な人だったから。


「桜田さん。俺と付き合って下さい!」

「え……うん!いいよ!私も好きだよ、菊野君」


その時の俺はヤバいぐらいに騒いだ。まさか、付き合えるなんて夢にも思っていなかったのだから。

舞い上がった俺は「美少女マネージャーの彼氏」と皆に流布し、自慢げに語っていた。

それが、現在の彼女・桜田小春である。


「アキ君!一緒にご飯食べよ」

「友達と食うわ」

「何で?私と食べた方が100倍美味しいよ?」

「いや、たまにはさ」

「駄目!アキ君は私と食べるの」


何故、こんなに冷めたのだろうか。理由は明白。

小春は狂愛……つまりヤンデレだからだ。

最初の頃は小春に愛され、有頂天だったのだが次第に鬱陶しく感じるようになり、今に至る。


「ねぇ…あーんして♡」

「やめろよ、恥ずかしい」


だが、俺は目元が潤んできた小春を見て、仕方なく口を開く事にした。

すると、嬉しそうにハンバーグを俺の口に入れた。


「どう?美味しい?」

「美味しい」

「良かったぁ……一生懸命作ったんだよ」


喜々しながらも「あーん」をした恥ずかしさに頬を赤らめる小春。傍から見ればかなりの美女だ。

ヤンデレぐらい我慢しろ、とか、贅沢言うな、とか友達に何回も叱責された。

だが、やはり俺との相性は良くない。俺はウザい奴が非常に嫌いなので小春は絶望的に終わっている。


「今日泊まりに行っちゃダメ?」

「母さん居るしな……。また、今度な」

「そっかぁ……いつなら行けるかな?」

「わかんね。まぁ、連絡するよ」


母さんが居るとは嘘である。俺が幼い頃に父親が死んだ為、朝から晩まで働きに出掛けている母親だから、自宅に居る事は滅多に少ない。

でも、小春と一緒に家に居るのは何とか避けたい。

前に襲われそうになった経験がある……。


「早く帰るぞ」

「あ……うん!手繋いで帰ろっ」


時間は午後4時半を回り、放課後になった。

俺と小春は常に一緒といないと駄目な為、小春のクラスまで行って待たなければならない。たまに、小春が待ってくれている時もあるが、そっちのクラスの担任は話が異常に長い……だから、大体俺が待機。

今日も10分位廊下に座って待っていると綺麗な黒髪をたなびかせながら小春が抱き着いてきた訳だ。


「大好きだよ♡」

「あ、……うん」


時が経つというのは怖い事だ。あんなにもキュンキュンしていた言葉に俺は薄い反応しか出来ない。

だが、別に好意を持たれるのが嫌な訳じゃない。好きだからという理由でベタベタしてくるのが、堪らなくウザいのだ。


「お、秋仁。また、ラブラブしてんなぁ」


丁度、下駄箱で靴を履き替え、正面玄関を出ようと した際に後ろから声を掛けられた。

学校指定のYシャツに黒いアンダーを着ており、背丈は187cmの長身を誇る同級生の次見大智だ。


「うるせー、それより今日部活は?」

「無くなった。顧問に急な用事ができて」


大智の入っている部活はバレーボール部。俺の高校の県立 綾光りんこう学園はバレーが盛ん。

ベスト8まで登り詰めた好成績を持ち、その部の主将を2年生ながらにも努めるのが大智な訳だ。


「ねぇ……アキ君。早く行こ」

「お、おう」


小春は俺を強引に引っ張り、校外に連れ出した。

同性と話すのも嫌らしい。困ったもんだ。


帰路をつき、小春の然程面白くない話を聞き、事情聴取みたいに質問されまくり、自宅に着いた。


「はぁ…疲れた」

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