chapter2
「友達になってください」
なんて言われたのは何年ぶりだろう。
真新しい制服に身を包んだ女の子から突然あんな事を言われるとは。
少し驚いたけれど不思議と嫌な感じはしなかった。
あの子の名前は朝野 海と言うらしい。
素敵な名前だからきっと一生忘れないだろう。
でも、きっともう会うことはないだろうなと思う。
彼女から電話番号を渡されたけれど
登録するつもりも無ければ電話する気もない。
見ず知らずの16歳の女の子と友達になったとしても私はどうしたらいいのか分からない。
それに何故いきなり友達申請されたのかもよく分からない。
つまり分からないことだらけで怖かった。
そういう時は関わらないのが一番だと思っている。
ぐっと背伸びをして、鞄から大学の課題を取り出した。
3回生になってから授業の数は減ったけれど課題がとても増えた。
今は余計なことは考えず目の前の事をやるべきだと自分を叱咤する。
いい所に就職出来るようにと親に勧められて入った学校だ。自分の意思なんて昔から捨てていた。
でも、それで良かった。
別にやりたい事なんて何も無いし、人に流されるのも嫌じゃない。
それにどちらかと言うと、親に全て決めてもらうのは楽だった。
両親は二人とも学校の教員でとても真面目な人達だ。
二人は私にも教員になって欲しいと考えているらしい。
決められた将来はとても安定している。
それが幸せかどうかは別として。
寝具に入ると、またあの子の事を思い出した。
あまりにも非日常的な出来事だったのでついつい考えてしまうらしい。
目を閉じて今朝のことを思い出す。
大学に向かう途中の桜並木を眺めていた。
規則的にならぶ桜たちを自分と重ねて、私は桜をなぜか可哀想だと思った。
もっと自由に咲けるはずなのにと。
そんな時だ、あの子に声をかけられたのは。
不思議な子だった。
私も彼女も初めは凄く緊張して話していた気がするのに、少し時間が経つと自然体になっていた。
初めて出会うタイプで興味が湧いたのは事実だった。
連絡はしないけれど、またどこかで会えたらいいなと思う。
偶然とはもはや必然なのかもしれない。
彼女と再会したのはあれから1ヶ月も経たない頃だった。
私が教員体験に行った学校に彼女はいた。
出席番号1番の朝野 海。
少しの気まずさと少しの喜び。
なんとも複雑な感情になる。
思わぬ再会を喜ぶべきなのだろうが、連絡しなかった罪悪感がそれを阻んだ。
「先生、ちょっといいですか?」
海に手を引かれて人気のない教室に連れ込まれた。
「驚きました、まさかこんな形でまた会えるなんて」
「私も驚いた。ごめんなさい連絡しないで」
「いえ、突然はなし掛けられて連絡先渡されたら普通誰でも無視しますよ」
どうらや彼女は連絡しなかったことを怒っていないらしい。
良かったと、少し安堵した。
ホワイトロード 香月 詠凪 @SORA111
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