ホワイトロード
香月 詠凪
chapter1
一目惚れというのだろうか。
それは夏の終わりに感じる寂しさに似ていた。
でも、どこか幸せで切ない。
そんな色とりどりの感情が一気に溢れだす。
気がついた時には既に私の手が彼女の肩に触れていた。
もう、後には引けなかった。
「わ、私と友達になってください!」
私は何を言っているのだろう。
きょとんとした瞳で彼女が見つめ返してくる。
少し遅れて彼女が笑い出す。
私はそこでやっと安心して、春の空気を吸いこんだ。
午前四時のアラームで目を覚ます。
そのままシャワーに向かい、真新しい高校の制服を着て家を出る。
時刻は五時にもなっていない。
私はそのままもう一つの家に向かう。
もう誰も「お帰り」とは言ってくれないあの家に。
鍵を開けて家に入り、一直線にピアノに向かう。
鍵盤を撫でるたびに、私とピアノがひとつになっていく感じがする。これが堪らなく好きだった。
ここだけが私の居場所な気がする。
今日が高校の入学式ということも忘れ夢中で弾き続けた。
そこで電話が掛かってきた。弟の
「今どこ?、なんで先に行くんだよ」
「朝野の方の家にいるよ」
「
「あ、ちょっとまずいかも」
ここから学校まで40分はかかるのに、入学式が始まるまであと30分になっていた。
走れば何とかなるだろうか、ならなそう。
「ありがとう直、とりあえず急いでいく」
「車、気をつけろよ」
「うん」
鞄を持って家を出る。
どうせ遅刻なら走っても意味がないと思い、早足で行くことにした。
あんなに早く家を出たのに結局遅刻なんて私らしいやと半ば呆れて空を仰いだ。
このままサボってしまおうか。
入学式なんてやる事が決まっているし、別に出なくても死ぬわけじゃないし。
そうやってひとつをサボると次々とサボりたくなるのも私の悪い癖なのだけれど。どうしても直せない。
身体が自然に学校の反対方向に向く。
適当にどこか歩いてみよう、そう思うと足取りがさっきよりも軽くなった気がした。
少し歩くと桜のトンネルがあり、ソメイヨシノが詰め込まれていた。
綺麗というよりかは窮屈そう。
「かわいそう」
突然後ろから声がした。
けれど周りを見渡しても誰もいない。
一瞬、桜が喋ったのではないのかと言う、馬鹿な考えが頭をよぎったがそんな訳もなく、少し離れた所に一人の少女が立っていた。
ゆっくりと少女が振り返り、私と目が合った。
そして私の息は止まった。
初めて感じる感覚だった。
心臓が破裂しそうなほど鳴っている。
なんて美しい人だろう。
いや、どちらかと言うと顔はかわいい系なのだが纏っている空気が美しく透き通っていた。
私がそのまま動けないでいると、少女は少しのお辞儀を私にして歩いていってしまった。
このまま追わなければこの少女とは二度と会えないかもしれない。
それだけは絶対に嫌だった。
だから私は走る。
何を言うかなんて何も考えてはいないけど、見失ってしまう前に行かなければ一生後悔する。
そんな予感がした。
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