サキ達の最期〜

 明日美達の元を飛び出してから早2ヶ月。あれからサキはすぐに避難所へと向かった。


 避難所は昔使われていた中学校の校舎だから今までの事を思い出してしまう。

 明日美や美晴が自分のことを許そうとしてくれていたことだけが唯一の救いだった。


 サキには家族が居ない。正確には居たけれどみんな死んでしまったのだ。

 両親はゾンビに殺されて…。兄の玲雄と聡太郎はクラスメートやネットの人達からの激しい誹謗中傷に耐え兼ねて自宅で首を吊って…命を絶っていた。


「お兄ちゃん…お兄ちゃん…!!」

 サキは首に縄を掛けて動かなくなった玲雄と聡太郎に縋り付いた。

 兄二人のスマホには「もう死んだ?」「早く死なないの?」という酷い言葉が未だに届いている。

「なんで…なんで…。」

 少し前までは学校や近所で権威を振るっていた筈なのに今ではこの有り様。


 サキは美晴の騒がしい感じが前々から不愉快だった。

 親友の正美と美香、加奈子も同じ事を思っていたらしく、4人で美晴をいじめることにした。

 サキのグループは学年中から恐れられているからいじめを始めれば、誰もが黙って加担するに違いないだろうから。


 美晴という自分達にとって不愉快な存在が苦しむ姿や泣き叫ぶ姿を見るのは何よりも楽しかった。

 誰もが自分に従い、いじめられたくはないからと己の保身のために美晴を除け者にする。

 それがサキ達にとっては面白くて仕方なかったのだ。


 けれど、同じクラスの明日美と奈央、里沙は違った。一人でいる美晴に声を掛けているのをよく見かける程である。

 それから数日後、明日美と奈央、里沙が美晴をサキ達から直接庇った。

 彼女らが自分達に逆らったという事実が許せなくて。

 サキ達は…明日美と奈央、里沙の陰口を頻繁に言うようになった。

 時には本人にわざと聞こえるように。


 それから学年で一番かっこいいと評判の裕太までもが美晴を庇うようになってしまった。

 おまけに美晴が一翔、義経、季長にサキ達のことを相談。

 彼らまでもが美晴の味方になってしまったのだ。


 それが、サキ達には許せなかった。

 裕太、一翔はかっこいいと評判だから。義経と季長は歴史好きな人ならば仲良くなりたいと思われるような子だから。

 4人共かっこよくて有名人、そんな子たちが美晴の味方になってしまった。

 おまけに裕太達4人は自分達に対してこんなことを言い放ったのだ。「お前みたいな奴は嫌い」だと。


 だから纏めて潰してあげることにした。まずは里沙、裕太、一翔、義経、季長の悪評をでっち上げて学年中にばら撒いたり。

 里沙は男子から、裕太達は女子から人気だから。

 悪評はあっという間に広がった。人気者だった分、悪評は学年どころか、学校中に広まっていく。

 誰もがその悪評をすんなりと信じ、5人はあっという間に攻撃の的となった。

 裕太達と仲良くしている明日美と奈央も勿論例外ではなく、「あんな奴らと仲良くしているから」と。

 二人まで攻撃の的となったのだ。


「死ねばいいのに」

 誰もが事の真偽を確かめようとせずに、明日美、美晴、奈央、里沙、裕太、一翔、義経、季長に醜い言葉のナイフを投げつけていく。


 けれど、明日美と奈央、里沙はどれだけ暴言を吐かれても堂々としている。

 裕太、一翔、義経、季長はいつもの澄ました感じの表情を崩そうとしない。

 サキ達にとってはそれが憎らしくてたまらなかった。


 その憎らしさを思い切り明日美達にぶつけまくった。

 彼ら彼女らの心が完全に壊れるように。

 明日美をトイレに呼び出して4人で暴行したとき。

 奈央と里沙を階段から突き落として暴行したとき。

 美晴の口に雑草を詰めて、その髪の毛を乱暴に切り落としたとき。


 裕太の学ランを切り裂いたときや、一翔、義経、季長を人気のないところに連れ込んで玲雄や聡太郎、正美と美香の兄である咲也や快、和彦の5人で暴行したとき。

 それらをサキ達兄妹は楽しみながら行っていた。


 しかし、その後サキ、正美、美香、加奈子、聡太郎、玲雄、快、和彦、咲也の悪事の全てが尽くバレてしまった。

 里沙、裕太、一翔、義経、季長の悪評が全部サキ達がばら撒いた嘘であるということも。


 それらを知ったクラスメートで学級委員の有希子がサキ達兄妹の悪事を学校中に拡散。

 おまけに有希子の手によって兄達の悪行もSNSで拡散された。兄達のSNSアカウントも晒され、ネットリンチを扇動された。

 今までサキ達に従っていた者たちもみんなして彼女らを攻撃するようになってしまったのだ。


 クラスメート達はサキ達を罵っては痛めつけては、聡太郎達を誹謗中傷しては笑っていた。

 我らが正義だと言わんばかりに。有希子に至っては「これは正義だ。サキ達兄妹が死のうが関係ない」と。


 そして…兄の聡太郎と玲雄の葬儀の後、学校で有希子が放った一言。

「あんな奴、死んだって自業自得でしょ。」

 その一言にサキは心を抉られた。クラスメート達は有希子に同調して聡太郎と玲雄の死を嘲笑っている。


 それから程なくしてのことだった。今度は美香が兄の咲也と共にマンションの6階から飛び降りて亡くなったのは。

 相変わらず有希子は訃報を聞きながら笑っていた。正義が勝ったのだと言わんばかりに。


 未だに有希子やクラスメート達の嘲笑い声が耳の奥に残っているような気がする。

 サキは虚ろな表情で避難所の屋上へと続く階段を登っていった。

 そして4階まで登り切ると、屋上へと続く扉を震える手で開け放つ。

 外から聞こえてくるのはゾンビのうめき声だけだ。

 加奈子と正美は家族と共にゾンビに殺されてしまったと聞いた。

 自分と仲良くしてくれる人はもうこの世には存在しない。


 サキは屋上の柵に吸い寄せられるように近づくと、二メートル近くある柵を登っていく。

 そして柵を登り切り、暫く眼下の街を眺めていた。

 そしてサキは意を決して屋上からー飛び降りた…。

 サキの身体は数十キロのスピードで落下し、十数メートル下の舗装された地面に叩きつけられる。

 サキの意識はそこで途切れ、あとに残ったのは無惨な飛び降り死体のみ。


 彼女のパックリと割れた頭から飛び散った血液は、まるで夜空に咲いた花火のようであった…。





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