歪んだ正義の代償
私…深川有希子は一人で避難所へと向かうことにした。
両親はゾンビみたいな化け物に襲われて死んでしまった。
このままじゃ何れ私もゾンビに殺されるだろう。
思い出せば、今までの学校生活は地獄そのものだった。
中学校2年生の頃…学校でいじめが起きた…。
学校内でも素行が悪いと有名なクラスメートのサキ、正美、美香、加奈子が同じクラスの美晴という子をいじめ始めたのが原因だ。
それから、サキ達のターゲットは裕太、明日美、美晴、奈央、里沙にまで及んだ。
ターゲットはそれだけに留まらず、裕太の兄である一翔さん。
平安時代末期や鎌倉時代からタイムスリップしてきたという義経さんや季長さんにまでもがサキ達のターゲットになってしまった。
タイムスリップなんてここ二十年くらい前から日常的に起きるようになったと聞いたので別に珍しくもなかった。
サキ達によるいじめは…あまりにも卑劣で、残酷で。
里沙に裕太、一翔さん、季長さん、義経さんの悪評を片っ端から流して悪者にしたりなど。
あたかも彼ら彼女らがいじめられても仕方がないような子に仕立て上げた。
5人と仲がいい明日美と奈央、美晴も「あんな悪い子と付き合っているから」と攻撃されても仕方ないということにされてしまった。
そうやって8人を悪者にしてサキ達は大勢の味方を従えた。
誰もがサキ達の言いなりとなり、彼ら彼女らは徹底的に排他されてしまったのだ。
私も…最初はサキ達の味方に付いていた。もしもサキ達の語る悪評が事実だとしたら?
それは、明日美達が悪者であるほかならない。
悪者は…罰せなければならない…。思わずそう考えてしまった。
だから、明日美と奈央、里沙、美晴が大人数でリンチされても。
裕太が大勢から暴言を吐かれても、物を投げつけられても、一翔さんと義経さん、季長さんが大勢から悪口をいわれても、サキ、正美、美香の兄達から酷い暴行を受けても。
私は助けてあげなかった。寧ろサキ達と一緒に彼ら彼女らを罵った。
悪者は攻撃されて当然だからと私自身に言い聞かせながら。
あの時に見た、8人の絶望的な表情はきっと忘れることは出来ないのだろう。
そしていじめが始まって3ヶ月が経過した頃、サキ達のやってきた事が全て明るみとなった。
里沙、裕太、一翔さん、義経さん、季長さんの悪評がサキ達のでっち上げた嘘であることも。
つまり、8人は悪者ではなかったのだと、本当の悪はサキ達なのだと。
悪者は必ず罰せなければならない。私はサキ、正美、美香、加奈子の真実を学校中にばら撒いた。
サキの兄である聡太郎、怜雄や、正美の兄である和彦、快。美香の兄である咲也が一翔さんと義経さん、季長さんをリンチしていた事をかなり大袈裟に話を盛ってネット上に拡散してあげた。
これは正義なんだと自分に言い聞かせながら。
幸い、サキ、正美、美香、加奈子の悪行はあっという間に知れ渡り、彼女らは新たないじめのターゲットとなった。
おまけにサキ達の子分的存在だった奈々、奈津、奈絵も例外なくターゲットとなる。
聡太郎、怜雄、和彦、快、咲也の話はあっという間にネット上に広まっていく。
これはしめたと思って私は聡太郎達のSNSのアカウントを不特定多数の人達にばら撒いてあげた。
1日経って除くと、聡太郎達のSNSは大炎上し、何百件、何千件もの誹謗中傷コメントが届いていた。
サキ達の兄達は体格が良いから直接手は下せない。
力で敵わないのならば言葉のナイフで思う存分斬りつけてやればいい。
いくら怖いいじめっ子であるサキ、正美、美香、加奈子が相手だろうと、大勢で攻撃すれば怖くない。
クラスメート達はみんな私に従い、サキ達を痛め付ける。
私が聡太郎達をネットで叩くと、クラスメート達も挙って彼らをネットで叩いた。
地味で真面目な学級委員の私は…気が付くとクラスのリーダー格にまで登り詰めていたのだ。
「これは正義なんだ」という大義名分を掲げながらサキ達兄妹を思う存分懲らしめた。
それから数カ月後、サキの兄である聡太郎と怜雄が…自ら命を絶ってしまう。
その訃報を聞いた瞬間、私もクラスメート達も一斉に喜んだ。
「遂に死んだか。」
「めちゃくちゃ嬉しいんですけど〜」
「本当にざまあだよね〜」
クラスのあちこちからそんな声が聞こえてくる。
その言葉を聞いてサキは凄く悲しそうな表情を浮かべていた。
その日からサキは…ずっと保健室で過ごすようになってしまう。
それから程なくしてのことだった。美香と兄の咲也が自ら命を絶ってしまったのは。
「本当にざまあじゃん。」
「てかアイツらって自業自得じゃね?」
そう言いまくるクラスメート達。皆が皆、美香と咲也の死を喜んでいたのだ…。
サキ達という攻撃対象が居なくなったことで私の学校生活はいつもの平凡なものに戻っていた。
だから今度はSNSで犯罪者を思う存分叩いてあげた。
「○○容疑者が児童虐待の容疑で逮捕」「○○容疑者が動物虐待で逮捕」「○○容疑者が殺人の容疑で逮捕」
そんなニュースがあった日には自らが中心となって容疑者達をネットで叩きまくった。
「これは正義だ」と呪文のように繰り返しながら。
例え、容疑者が獄中で自ら命を絶ったとしても私には関係ない。私は、ただ悪を倒しただけなのだから。
しかしその後、サキ達に対する行いは問題となり、臨時で全校集会が開かれる程になってしまう。
私を含むクラスメートは担任から激しく叱責された。
その日から、私に従っていた者の中の半数は手のひらを返し、反対に私のことを非難するようになった。
「人殺し」「さすがにやり過ぎだ」「偽物の正義を掲げるないじめっ子」
非難の言葉が私に向かって一斉に降り掛かってくる。
みんなあれだけサキ達やその兄達を攻撃しまくっていたのに、犯罪者に散々石を投げていたのに。私だけに責任を擦り付けるとは大した小物だなと思ってしまった。
私が人殺しならば、みんなだって立派な共犯。立派な人殺しなのに。
それに、私は人殺しでも無ければ、いじめっ子でもない。寧ろ、悪者を打ち倒したヒーローなんだと。
それから、私のSNSアカウントが見つかり、ネットでの中傷行為も尽く発覚してしまった。
私の両親はサキ、正美、美香、加奈子の母親に対して何度も土下座で謝罪。
その後両親から
「お前がやった事は正義なんかじゃない!立派ないじめ、人殺しだぞ!」
と怒鳴られたけれど私には何故そこまで怒る必要があるのかが全く理解出来なかった。
悪者を排他するのは当然の事。サキ達とその兄達を放っておいたらまた誰かが標的になるかもしれない。
またサキ、正美、美香、加奈子に騙される人が出るかもしれない。
平気で残虐行為を行う犯罪者が更正なんてする訳が無い。
私はそうなる前に手を打っただけ。これは立派な正当防衛なのだと。
私は…間違ったことなどしていない。これは全て正義なのだから。
聡太郎、怜雄、和彦、美香が死んだのは必要な犠牲だったのだから。そう思いながら私は満面の笑みを浮かべた。
あともう少しで避難所に着く…。そう思ったその時だった。
いきなり背後からゾンビに襲われたのは…。物凄い力で髪の毛を捕まれ、抵抗しようにも出来ない。
そして、ゾンビは私の首筋に思い切り噛み付く。
今までに味わったことのない激しい痛みが全身を駆け抜け、助けを求める間もなく…私の意識はそこで途切れた。
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