復讐の花

 友里亜は血溜まりに倒れている兵士の屍をただ呆然と見つめていた。

 まさかここまでの実力だとは夢にも思っていなかったから。

 僅か数分で付いてしまった勝敗。兵士達は四人に斬りかかるも次々と斬り倒されていく。

 まるで大人と幼子の争い事であるかのように…。


 裕太は剣道、居合道、兄である一翔は剣道、居合道、弓道、共に有段者であるし、何より兄弟揃って大会では負け知らず。

 まさしく大会の王者に相応しい戦いぶりだ。


 季長に至ってはこの裕太と一翔を圧倒する程の動きで敵を倒していた。

 彼自身、武芸の腕前は当時では平均レベルらしいが、やはり現代だと右に出る者は一人もいないのだろう。


 義経は剣術の腕前は四人の中ではずば抜けているらしく、その動きは裕太、一翔はもちろんの事、季長すらも彼と斬り合った場合はほぼ勝ち目がない程。


 そして一つだけ分かったことがある。夕菜たちは殺傷能力の高い武器を持った兵士達を使って襲ってくるが、残念ながら武器を上手く使いこなす技術を持った兵士が少ないということ。

 恐らく夕菜とリュウ達は優れた武器を持っていれば勝てるだろうと彼らを見くびっているに違いない。


(ここまでの強さを誇る彼らならばあたしの復讐も果たせるのでは…?)

 ふと友里亜の中で魔が差した。彼らの実力を上手く使えば、自分の家族を、親友を、大切な者を尽く奪っていったリュウ達を簡単に倒せるのではないかと。

 憎い奴らに復讐ができるのでは無いかと。


 でも、その考えを友里亜はすぐに打ち消した。

 そんな事をすれば、彼らを自分の復讐の為に、リュウ達に対する憎悪の感情の為に利用した他ならない。

 もしも、そのせいで彼らが死んでしまったら…今度は明日美が悲しむことになる。

 そんな事になってしまうのは友里亜自身が許さなかった。

 大切な者を奪われる悲しさは自分が一番よく分かっているのではないか…と。


 始めは、復讐の為に彼ら彼女らを動員したはずだった。

 ただ単に戦える人を探していただけ。そして結果的に強者ばかりが集まって、「これでやっと復讐が出来る」と喜んでいた自分が居た。

「世界をヤツらから救うため」という大義名分を掲げればみんな戦ってくれるだろうと。

 でも心の奥底では「ついに復讐する事が出来るんだ」とほくそ笑んでいる自分が居て…。

 本当は「ゾンビからこの時代を救いたい」という理由でこの時代へ来た訳ではない。

「この時代を救いたい」という気持ちは少なからずあったものの、真っ先に考えていた事は復讐だったのだから。

 最初こそは明日美も、美晴も、奈央も、里沙も、裕太も一翔も、義経も、季長も、復讐の為の道具だとしか思っていなかった。

 でも、彼ら彼女らと関わっていくうちに気づいてしまったのだ。

 彼ら彼女らは、自分と変わらない人間なのだなと。

 時代が違うからとか何も関係ない。8人とも、まだあどけなさを残した10代の少年少女だ。

 この争いに巻き込むだなんてあまりにも若すぎる。

 その僅かに幼さの残った顔を見る度に申し訳無さで胸が押し潰されそうになる。

 奈央も里沙も、義経の家臣も、裕太や一翔の家族も。明日美の両親も、全部自分のせいで犠牲になった。


 結局、復讐からは何も生まれないのだな…。

 始めて気がついた時はもう何もかもが手遅れになっていた。

 せめて、この5人だけでも救わなければ…。

 リュウと夕菜の手に掛かってはならない。絶対に死なせてはならない。いや、死なせたくはない。


 あまりにも愚かだった自分。自分勝手だった自分。

 あの時に明日美に言ったではないか。「大切なものは失ってから気づくもの」だって。

 リュウ達への復讐したいという醜い感情の為に彼ら彼女らを使った自分がこんな事を言う資格はないなと。

 友里亜は、自分の愚かさをこれでもかと言うくらいに噛み締めていた。


 あの日密かに自分の中で誓ったこと。「復讐は自分一人で果たす」と。

 もう誰も巻き込まない。もう誰にも辛い思いはさせない、そして誰も死なせやしない。

 自分は変わったのだ。復讐に燃えた悪鬼でいる事はもうやめた。

 必ずこの時代を救って見せる。例えそれが自分の命を奪う事になってしまったとしても。何も後悔はしない。寧ろ、嬉しいくらいだ。

 名前なんて載らなくていい。英雄として後世に語り継がれたい訳でもない。ただ、この時代を救いたい、それだけだ。



 未来から来た18歳の少女はそよ風に吹かれながら自分の心に固く誓った……。

「例え自分が死ぬ形になっても救うべきものがある」のだと。

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