叶わない恋

 聡一が勝手に着いて来て早数分。彼は一向に離れてくれる気配がない。


「ねえ?いいでしょ?俺も連れって行ってよ。

 一生のお願いだからさ!」

 聡一はわたし達に両手を合わせると縋り着くような目で見つめてくる。


「「「「断る。」」」」

 4人が素っ気なく聡一を拗ね退けた。聡一は不満気な顔で一言。

「兄ちゃん達のケチッ!!」

 それから聡一はいたずらっ子のような笑を浮かべて

「連れて行ってくれなきゃ兄ちゃん達の好きな人をバラすけどいいの?」

 と4人を脅す。4人って好きな人居たんだ…。誰なんだろうな気になるという気持ち半分、聡一を何とかしなきゃと思う気持ち半分で自分でもどうすれば良いのか分からない。


 好きな人をバラすと言われたからには流石の4人も動じないはずが無いらしくその表情には僅かに焦りの色が浮かんでいる。

「お前、言ったらタダじゃおかないからな!」

「言ったら貴様のそっ首撥ねてやる。」

 裕太と季長が聡一を脅すが聡一は涼しそうな顔で一蹴。

「歳下を脅すだなんて裕太兄ちゃんとすえ兄ちゃんも落ちに落ちたもんだなあ〜。」


 そんな彼らの様子を見てわたしは密かにため息をついた。

 聡一をどうやって説得するか、どうやって安全に避難所へ送り届けるのか。


 確かに聡一は生意気でいたずらっ子で口が悪いけれど、だけれども根は優しくて…。

 そんな彼がこのパンデミックに巻き込まれて死んでしまうだなんて絶対に嫌だ。

 聡一だってわたしの大切な人のうちなのだから。











 その頃、4人は好きな人の事を思い浮かべていた。


 好きな人かあ…。


 思い出すのは丁度2年前のこと。


「俺たち恨みっこはなしだからな!」

 裕太が一翔、義経、季長を見つめながら真剣な口調で言った。


 事の発端はと言えば好きな人を語るって話をしていたところ、お互いに好きな人の名前を言おうという事になってしまい、勇気を振り絞って言ってみた所、4人共好きな人が同じだったのだ。


「俺たち恨みっこはなしだから。あいつが例えば自分以外の誰かを好きだとしても。」

「うん、分かってるよ。あの子が僕の事を好きじゃなくても、3人のうちの誰かを好きだとしても恨まないから。」

「「ああ。分かっておる。」」


 そんな約束をしてから暫く経った時にきがついてしまった。

 あの子の心は裕太は疎か、義経、季長、一翔にすら無いということに。

 彼女は、自分達以外の男を好きになっていたのだ。


 彼女が彼と話している表情は自分達と話している時よりもずっとずっと輝いて見えるし、自分達には話してくれないような事も彼には平気で話していた。


 あの子はこれから自分達何かよりも素敵な男性に出会うはずだろう。

 きっといつか自分達の事なんか記憶の片隅だけの存在になってしまうのだろう。


 もしも彼女が他の人と一緒になって幸せになれるのならば自分達はそれを祝ってやれるのだろうか?


 いくら嫌いな素振りをしたって、何とも思っていないように装ったって、彼女の前では笑えなくても…。


 俺は、僕は、我は、某は、あなたの事が好きだから。

 これからもこの先もきっと。この命がどんな形で尽きようともこの気持ちは変わりはしないいや、変えられはしないだろう。


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