意外な再会
リュウはわたし達の目の前でまるで煙のように消えてしまった。
どうなったのだろうか?腕を切り落とされた上にあの出血量だと間違いなく致命傷になっている筈だ。
それに此処にはリュウが流した鮮血が生々しく残っており、地面の土と落ち葉を赤黒く濡らしていた。
もしも義経に助けられていなかったら、わたしは間違いなく撃たれて死んでいただろう。
それに裕太、一翔、季長も無事では済まされない。
そしてリュウは死んだのだろうか?あの出血量だから失血死していてもおかしくはない。
例え死んでなかったとしても戦うことはできない体になっているに違いない。
わたし達を襲う者はもういない…のだろうか?
いや、仮にリュウが戦えない体になってしまったとしても夕菜がわたし達を襲う事は確実だ。
何故ならわたし達は夕菜達からすれば計画を邪魔する厄介者なのだから。
きっとわたし達の命を奪おうとこれからも場所を特定しては兵を送るだろう。
この騒ぎが収まったら、全て終わったら、みんなでお花見したいな…。
奈央も里沙もお父さんもお母さんも、忠信も継信も義盛も弁慶も…美晴ちゃんも。
みんなでお花見がしたいな、したかったな。
でも、まだ死んだとは確定していない、だからきっとみんな何処かで生きている筈だ。
だからみんなでお花見できる日を楽しみにして待とう。
「ねえ、あの時の約束覚えてる?」
わたしは思わず4人にそんなことを聞いていた。
「ひょっとしてお花見のこと?」
隣で一翔が答える。
覚えていてくれたんだ…。お花見の約束をしたのはもう数ヶ月も前だからてっきり覚えてないのだと思っていたけれど。
一翔が覚えているという事はきっと裕太も義経も季長も覚えているに違いない。
「あのさ、ずっと思っていたけれど4人って桜が似合うよね。」
わたしは思わずそんな事を口にしていた。
当の彼らはと言えば少し驚いたような表情でこちらを見ている。
「俺が?」
「僕が?」
「我が?」
「某が?」
「うん。雰囲気とか凄く似合ってる。」
わたしがそう言うと彼らは困ったように微笑んだ。
最近では少しずつ表情を取り戻しつつある彼ら。
でも微笑んだのはほんの一瞬でまたいつもの無表情に戻ってしまっていた。
「あ…。無表情になってる。さっきちょっと笑っていたのに。」
わたしが残念そうにすると裕太がぶっきらぼうな口調で
「余計なお世話だ。」
と一言口にした。
「もう、4人共顔は悪くないんだからもう少し愛想良くした方が良いと思うのにな〜。」
思わず本音が口を継いで出る。
「わざわざ愛想振りまいてまで誰かに良く見られたいだなんて思ってないから。」
一翔がいつものクールな口調で言った。それもそうだなと思った。
そんな事を言い合いながら過ごしていると何処からともなく足音が聞こえてくる。
また誰かがわたし達を狙っているのだろうか?と思わず身構える。
4人も刀の柄に手を掛けて警戒態勢に入った。
そんな中足音は段々と近づいてきてついに木々を掻き分けて何者かがこちらにやって来る。
また襲われるのだろうか?と思い震えていると
「あれ?明日美姉ちゃんにお兄ちゃん達じゃん。
こんな所で何やってんの?」
不意に自分たちの名前を呼ぶ変声期真っ只中の少年の声が聞こえてきた。
声からして恐らく10代前半くらいだろう。
誰だろうと思って顔を上げてみるとそこには少し自分に似た少年が顔を覗かせていた。
「え!?聡一君!?」
わたしは驚きのあまり大声を出してしまった、何故ならばそこには居るはずの無い従兄弟の聡一が居たから。
確か彼は今12歳の小学6年生の筈。
「なんで聡一君がこんな所に?」
わたしが彼に尋ねると彼はイタズラっ子のような笑みを浮かべながら
「俺、両親が長期出張しているじゃん?だから叔母さんの家に預けられてたんだけどさ、叔母さんが怪我して病院に運ばれて俺一人になったから避難所に行った方がマシかなって。
だから出来るだけあの気持ち悪い腐れ人間共が居ない山道を通って避難所に向かおうとしたら偶然誰かの話し声が聞こえたから此処に来て覗いてみたらお姉ちゃんやお兄ちゃん達が居た訳。」
つまり預かってくれていた叔母さんが負傷して病院に運ばれて聡一1人が家で過ごすのは大変危険だと判断した為避難所に向かうと。
「裕太兄ちゃん、かず兄ちゃん、よし兄ちゃんにすえ兄ちゃん、元気だった?」
聡一がニコニコしながら4人に迫る。
「「「「お陰様で。」」」」
4人がいかにも不機嫌そうに答える。4人は散々聡一にからかわれてきたからまた何か仕掛けられるのでは無いかと警戒しているらしい。
季長に至っては聡一に対して苦い思い出があるらしく彼の事は警戒しているらしい。
「もう聡一君、あまり4人をからかっちゃダメよ〜」
わたしがそう口にすると聡一はわざとらしい口調で
「だってお兄ちゃん達をからかうの面白いんだもん。」
と言った。
「あと明日美姉ちゃんのお母さんとお父さんは元気?」
聡一が心配そうに聞いてくる。お父さんとお母さん…2人はわたし達を庇って大量の束ねられた鉄パイプの下敷きになってしまった。
4人は気まずそうに下を向き、わたしも思わず俯いてしまう。
きっとわたしの顔は今にも泣きそうなみっともない表情だったと思う。
そんなわたし達の様子を察した聡一は申し訳なさそうな表情で一言。
「なんか、ごめんね。」
「良いよ、気にしないで。」
申し訳なさそうにする聡一に対してわたしはそんな事しか言ってあげられなかった。
「てかなんで明日美姉ちゃん達なんでこんな所に居るんだよ?」
聡一がわたし達にそう尋ねてくる、正直に言って良いのだろうか?
わたしが迷っていると裕太がさらっと答える。
「俺たち狙われてんだよ。」
衝撃の一言に驚いた聡一は驚いた表情で
「なんで、なんで狙われてるの!?悪の組織の陰謀に気づいちゃったとか?」
といかにも小学生らしい考えを口にする。が、実際そうなので全く笑えない。
「大体聡一君の言った通りだよ。」
一翔が答える。聡一はまるでヒーロー物を見ているかのように興奮しながら
「えー、マジで!!すげーじゃん。姉ちゃんに兄ちゃん達かっけえ!」
と言った。
「俺も仲間に入れてもらって良い?そういうの憧れてたし。」
聡一が目をキラキラに輝かせながら迫って来る。
そんな彼を見て一翔が
「それはダメ、君を危険には晒せないから。」
あっさり断られて聡一が不機嫌そうに口を尖らせる。
「別にいいじゃん、もしも姉ちゃんと兄ちゃん達を襲う奴がいたら俺が倒してやるからさ。」
そんな事を言う聡一に向かって義経が一言。
「ろくに剣術も出来ないような奴が大きな口を叩くでない。」
「もう、よし兄は相変わらず辛辣だなあ。だから誤解ばっか買うんだよ!」
どうしよう…。聡一何を言ってもわたし達から離れなさそうだし…。
どうやって彼を説得して安全な場所に連れて行こう?
わたし達は聡一というわんぱく坊主に悩むのであった。
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