激闘の始まり
美晴を避難所に届けた後のこと。友里亜は動く屍で溢れかえった街中に一人ポツンと立っていた。
明日美ちゃん達のもとに戻るのは簡単だが、これ以上誰かに迷惑を掛けるわけにはいかないから…。
聞くところによると夕菜とリュウが一番狙っているのはこのあたしなんだとか。
だから、もうあたしはあたしでやっていく。あたしが近くにいない方が明日美ちゃん達にとっては安全だろうから。
でも心配だから、離れたくても離れられない…。
もしも明日美ちゃん達が夕菜やリュウに襲われたら…。
ふとそんな嫌な予感があたしの脳裏を掠めた。
しかしそんな彼女を嘲笑うかのように嫌な予感は的中してしまったのである…。
明日美はすっかり4人の膝の上で心地良さそうに眠ってしまっていた。
そんな時、外から何者かの気配を感じる、まるで自分達を偵察しているかのよう。
その尋常じゃないくらいの気配を4人は素早く察知すると膝の上で熟睡している明日美を揺さぶる。
「「「「おい!!」」」」
そう明日美に呼びかけると彼女は眠い目を擦りながら目を覚ました。
「何?まだ眠いんだけど…あれ?慌ててどうしたの?
え!?一体何があったの!?」
初めこそ眠気眼を擦っていた明日美だが普段は冷静な彼らの動揺した様子を目にして今が異常事態にあることが分かったらしく思わず取り乱しそうになる。
「なんだか嫌な予感がする。取り敢えず一旦引くぞ!!」
裕太の緊迫した口調に明日美はやはり何かがおかしいと再認識。
「引くって逃げるってことだよね?」
「そういう事だ。」
どうやら走って展望台の向かいにある山に身を潜める事にするらしいのだ。
でも走って逃げたら4人に置いていかれちゃいそう…。
明日美はお世辞にも運動神経が良いとは言えない。
決して悪い訳では無いが4人に比べれば圧倒的に劣っているのは事実である。
すると一翔が明日美の傍によっていき腰を下ろす。
「僕の背中に乗りなよ。おぶって行ってあげるから。」
「え?良いの?わたし重いけれど大丈夫?」
「大丈夫だよ。君の遅い足で行くよりかはずっと良いはずだから、早く。」
彼に急かされて明日美は彼の背中に乗る、彼は明日美をしっかり抑えると向かいの山に向かって走り出した。
何とか走り抜け、山に入ると木々が多い繁っている場所に身を潜める。
ここならそう簡単に見つかることはないだろう。
相手に察知される前に行動できて良かったと明日美は心から思った。
流石は剣道、弓道の大会で優勝しまくっている、数々の修羅場を潜り抜けて来ただけあって察知能力は素人とは桁違い。
もしも彼らが気づかなければわたし達は襲われたかもしれないだろうなと。
(あいつらここに居ると思ったのに!!)
大量の兵士を連れて展望台へとやって来た夕菜は悔しさと怒りで地団駄を踏んだ。
どこ探しても明日美はおろか一番駆除せねばならない友里亜も居ない。
もしもと思ってこの展望台に来てみたのに生きている人間は勿論、ゾンビ一体すら居ない。
何なら虫一匹すら居ないと言ってもいいくらいだ。
このまま見つからないと夕菜やリュウ達の計画は全て水の泡になるばかりか夕菜自身の命にも関わる。
だからなんとしてでもアイツらを見つけないと、どんな手を使ってでもアイツらを殺さないと…。
その頃、リュウはもしかしたら山の中に身を潜めているのでは?と睨み一人で山の中を捜索していた。
武器は空気銃のみ。この武器を持っていればどんな強敵が来ても倒せるに違いないと思ったから。
だから一人でも大丈夫だろうと。
山の中を捜索すること数十分。木々が多い繁っている場所には辿り着いた。
ひょっとしたら此処に誰かが身を潜めているに違いないと思い目を凝らす。
すると、蹲っている少女が視界の隅に入ってきた。
間違いない、この女こそがリュウ達の計画を邪魔している一人である明日美だ。
明日美が居るってことはあの男も…裕太、一翔、義経、季長も近くに居るに違いない。
リュウは察知されないように気配と姿を消すと明日美達に近づく。
そして彼らの傍に近づいて姿を現すと不気味な笑みを浮かべながら。
「そこのお嬢ちゃん、お兄さん、いつまでこっちの計画を邪魔するつもりだい?」
木々が多い繁っている場所に身を隠して数十分が経過。
誰かがこちらに向かって来る気配はない。
山の中は基本一年中落ち葉が落ちているものだから誰かが迫ってきているのなら足音が聞こえるはずだ。
いくら忍び足で行こうとも当たりは不気味な程に静寂に包まれている為嫌でも足音が耳に入ってしまう。
だから小さな足音すら聞こえないという事は誰かが迫ってきていないという事である。
誰かが向かって来ている事はないという事を再確認してわたしはすっかり安心しきっていた。
するとその時―――――!!
「そこのお嬢ちゃん、お兄さん、いつまでこっちの計画を邪魔するつもりだい?」
いきなり背後から聞こえてくる男性の声。
嘘…。足音なんて何一つしなかったのに…。
もしも誰かが近づいているのならば4人が気づかない筈がない。
裕太、一翔はおろか義経や季長すら気づけなかった。
と言う事は、この人はまるで煙のように姿を現したというのだろうか?
恐る恐る振り返ってみるとそこには見ているだけでも背筋が凍り付くかのような不気味な笑みを浮かべた男性が立っていた。
歳の頃は40代と言ったところでまるでSF物で見かけるような服装にマントを羽織っている。
この人は――夕菜の父であるリュウ―――
リュウは銃口をわたし達に向けると冷酷な笑みを浮かべ一言。
「今此処で計画を邪魔した罰を受けてもらおうか?」
リュウはわたしを見つめると再び不気味な笑みを浮かべて
「まずはお嬢ちゃん、お前から罰を受けてもらおう。」
そう言って銃口を真っ直ぐわたしの方に向ける。
どうしよう、このままじゃ殺される!
わたしは咄嗟に目を閉じて頭を必然的に庇った。
ザシュッッ―――!!
何かが切り裂かれるかのような音がしたっきり当たりは再び静寂に包まれた。
銃声が響く事も、わたしが撃たれる気配もない。
恐る恐る目を開けてみるとリュウが左腕を肩の付け根からバッサリと切り落とされていた。
痛みで声も出せない程に藻掻き苦しんでいる。
地面はリュウの血液で真っ赤に染まっていた。
その近くには太刀を手にした義経。
きっとわたしが撃たれる前に素早く刀を抜いて斬撃したのだろう。
切り落とされた左腕が義経の足元に転がっている。
「明日美殿に手出しをする者は絶対に許さん…。」
義経がまるで地を這うかのような声で言った。
表情こそあまり変化がないもののその目には激しい怒りが込められている。
「クソックソ…!俺がこんな若造に殺られてたまるか…。」
リュウは苦悶に満ちた表情で呟くと切り落とされた左腕を手にして煙のように消えてしまった。
「助けてくれたの…よっちゃん?」
わたしが彼に問い掛けると太刀を鞘に収めながら
「当たり前だ、それよりも無事で何よりだ。」
そう言って小さく微笑んだ。
リュウは激痛を堪えてなんとか娘である夕菜の元へと向かった。
「どうしたの!?お父様!?」
左腕が付け根から切り落とされた、血塗れの姿で帰ってきたリュウを目にした夕菜は慌ててリュウの元へと駆け寄る。
「どうしたの?誰にやられたの!?」
「ちょっと義経というヤツに…。」
「大丈夫よ、腕が切り落とされたくらいなら余裕で治せるわ。
取り敢えず軍の本部に戻りましょう!」
夕菜はそう言ってリュウの肩を抱きながら軍本部へと向かう。
(許さない、許さない…。明日美め、裕太め、義経め、季長め、友里亜め、絶対に殺してやる―!!
ぐちゃぐちゃになるまで切り裂いてやる、灰になるまで焼き尽くしてやる―。
そして、大地の肥やしになるがいい!!)
夕菜の明日美達に対する憎悪は膨らんでゆくばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます