戦闘の後で

 先程の騒ぎから一時間程が経過。深手を負った季長の容態も段々と落ち着いてきており、命が危険に晒される心配はあまり無さそうだ。


 凄く安心した…。

 緊張や心配が薄れたからなのか心の底から安堵すると同時にどっと疲れが湧いてくる。


 鉛のような重たい眠気が不意に襲ってきて思わずカバのような大あくびを4人の前でしてしまう。


 4人はベンチで深く腰を落としていた。深手を負ってしまった季長に関しては寝てた方がいいんじゃない?とは思うけれどあいにく寝られそうな所がない。


 仕方ない、お邪魔させてもらうかと思ったもののベンチに座れるスペースはもう無い。


 どうしよう…でも4人を退かす訳にもいかないしなあ…。


 そんな事を考えながら、わたしはふとある事を思いつく。


 思いつくままにわたしは4人に近づいて行き彼らの膝の上に寝そべった。


「おい、一体これはどういうつもりだよ!?」

 わたしの行動に酷く慌てふためく4人、その様子が面白くてつい笑みが溢れてしまう。


「何笑ってんだよ?てか人の膝の上をベッドにする奴があるか!!」

 白い頬を赤くさせた裕太が更に慌てふためく。

「これは一体何のつもりだ!?」

 義経が見てるこっちがびっくりしてしまうくらいに動揺している。

「一体何のつもりって見たまんまでしょ?」


「少しは恥らえ…。」

 季長がわたしの様子を見て呆れたように呟く。

 確か義経や季長の時代は異性にボディタッチするという事は以ての外だったから彼らの反応は無理もないだろう。


「良いじゃん、一人は寂しいし。」

 わたしの一言に4人はしどろもどろになりながらボソリと呟く。

「「「「す…好きにしろ…」」」」

「じゃあお言葉に甘えて好きにするねー。」

 わたしは一言そう告げると大きなあくびをした。

 今までの疲労がどっと溢れ出し全身が沈むような感覚を覚える。

 やがてわたしは深い深い眠りに落ちていった。


「明日美ちゃん、寝ちゃったね。」

 一翔が明日美の寝顔を見ながら言う。

 余程疲れていたのだろう、彼女はピクリとも動かずに眠っでいる。


 まるで死んでいるかのようで一瞬心配になったが時折聞こえてくる規則的な寝息で単純に熟睡しているだけだと分かり4人はホッと胸を撫で下ろした。


 全くとんだ迷惑だな、これじゃ動くに動けないじゃないかと思いながら気持ち良さそうに眠っている彼女を見下ろす。


 ほんのり薔薇色の掛かった柔らかそうな頬、肩を覆い尽くすくらいに伸びた艷やかな髪の毛。

 そして何より4人の目に入ってきたのは明日美のあどけなさの残った可愛らしい寝顔。


 そのまるで花の精のように見える彼女を見て4人は思わず頬を緩めた。


 笑みが溢れたのって、心の底から笑えたのっていつぶりだろうか?


 数年前、色々あり過ぎてもう自分自身がどうなろうか興味が無かった。

 それに4人とも生に対しての執着なんて全くと言っていいほどない。


 だけれど今になって思う。明日美と一緒に歩んでいくのも、彼女の幸せを見届けるの悪くないって、生きていく事は決して悪いことではないって。


 確かに昔は両親が逆走してきた車に突っ込まれた事故で亡くなったのに、加害者側が刑事責任能力が無いと判断されて損害賠償も何もなかった。


 鞍馬寺で稚児をやっていた頃は数々の僧侶の欲求のはけ口にされた。


 領地争いで没落し、何とか竹崎家を復興させようと頑張ってみても全く上手く行かなかった。


 いい事なんて何一つ無い、もういっその事…。

 という考えが何度も頭を過ぎった、でも明日美のおかげで何度思い留まっただろうか、何度救われただろうか。

 自分達のせいで何度彼女を泣かせてしまったのだろうか。

 数え出したらきりがない。


 明日美はきっとこれから大人になって、その先の未来で自分達なんかよりもずっとずっと素敵な男性と出逢うに違いない。


 ただの自己満足でも良いから、できればその日まで、せめてこの騒ぎが終結するまでは彼女の事を絶対に守らなくては…。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る