迫り来る脅威
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙
ヤツらの呻き声がすぐ近くから聞こえてくる。
展望台の真下を覗いてみるとゾンビの大群がすぐそこまで迫っていた。
倒さないといずれ此方に来てしまうだろう…。
4人は隣に置いていた日本刀を手にして下に下りようとする。
わたしは大鎌を手に取りそんな彼らの後を追う。
「ちょっと待って…!!」
わたしの声に彼らが足を止めて振り向く。
「なんだよ…?」
裕太が相変わらずぶっきらぼうな口調でわたしに返事する。
「わたしも行く。」
「正気か?」
季長が淡々とした口調で言った。
「正気だよ。わたしだって戦いたいもの。」
わたしはそう言いながら4人に近づいていく。
「やめとけ、明日美殿には無理だ。」
義経が冷めた口調でサラリと酷い事を言う。
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃない!!」
「別に良いよ、僕たちだけで何とかするから。」
一翔がそう言ったのを最後に4人とも階段を駆け下りてヤツらの大群に向かって行ってしまった。
後を追いたい気持ちも山々だったけれど来たら来たで「邪魔」だと言われそうな気がする。
でもどうしても心配だ。
怒られるかもしれないけれどわたしもついて行こう。
わたしは大鎌を手に階段を駆け下りて行った。
ざっと30体以上は居るであろうヤツら。
ヤツらは腐り落ちて変色した歯茎と歯を丸出しにした顎を外れそうなくらいに開けて4人に食い掛かろうとする。
腐敗が進んで真っ黒く淀んだ眼球、青や緑に変色した皮膚は今にもずるりと落ちてしまいそうだ。
見てるだけでも拒否反応を起こしそうなおぞましい姿。
4人はそんなヤツらに向かって日本刀を抜き放つとその首を次々と切り落としていく。
怖い、けれどわたしだって戦いたい。強くなりたい。
わたしは大鎌の柄を強く握りしめる、その硬い感触が手のひらに伝わってくる。
わたしは意を決してヤツらに斬りかかっていった。
わたしの存在に気が付いたらしくゾンビが2体、此方目掛けて襲いかかってくる。
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙…。
すぐ傍でヤツの呻き声がした。
心臓が鼓動を止めてかなりの時間が経過したであろう腐乱死体の筈なのに何故だろうか、何処かその呻き声は苦しそうに聞こえてしまう。
このゾンビ達も元は普通の人間であったに違いない。
夕菜達があんな実験なんてしなければ、このゾンビ達だって生きているはず。
新しい生物兵器の威力を試したいからといって人々をゾンビに変えた夕菜達が許せなかった。
今4人が倒しているヤツらだって夕菜があんな事しなければ今も元気に生きて、普通の幸せを感じていられた筈なのに…。
気がつけば夕菜に対する許せないという感情は憎悪という感情へと変わっていった。
わたしは大鎌を振るいヤツを斬りつけようとするが狙いを外してしまったらしく刃は空を斬るのみ。
人の心を持たない、人であり人でないヤツは容赦なくわたしに襲いかかってくる。
腐った手がわたしの顔目掛けて伸びてきた。
ヤツに引っ掻かれたり噛まれたりでもすれば、わたしはヤツらの仲間になってしまうだろう。
やっぱり4人の言う通り大人しくしとけば良かったのかな?
そんな後悔が頭を過ぎった時だった。
ボタリ…。鈍い音が響いたかと思えばヤツの首が2つ地面に落ちていた。
目の前には日本刀を手にした裕太と一翔が居た。助かった…。
2人はわたしのことを鋭い目で見つめるとわたしのことを叱った。
「待っていろって言っただろ?なんで来たんだよ!?
お前死んでてもおかしくなかったぞ!?」
「僕たちの気持ちも考えないでいつも勝手な事するのやめてくれる?」
二人の言い分は最もだ。
確かにわたしは死んでいたかもしれない、残される人達の気持ちなど一切考えずに。
「来てしまったのならば仕方あるまい。明日美殿は我らの後ろにいろ。」
ヤツらと戦っている最中の義経がわたしにそう言ってくる。
裕太と一翔もすぐさまヤツらとの戦闘に戻り、実質わたしは戦わないで4人の背後にいるだけだ。
結局わたしはなんの役に立てないまま。
4人だってヤツらに噛まれたら命はないのに…。
そんな事を考えているうちに4人は既にヤツらを倒しきっていた。
やっとの思いでヤツらの大群を全滅させる事が出来たが、次は何やら銃みたいな物を抱えた兵士達数人に囲まれてしまった。
きっと夕菜達が仕向けたのだろう。
彼女らの計画を邪魔するわたし達を葬り去ろうとしてこんな事を…。
それに夕菜達が直接手を下さずにそれを部下達に全てやらせるだなんて何て卑劣…。
わたしが大鎌を構えようとしたその時だった。
兵士の一人が銃をわたしに向けて発砲したのだ。
忽ち響き渡る鋭い銃声。
そして銃口から出るのは弾丸…ではなく鋭利な刃物のような空気の塊だった。
こんなものに体を貫かれたらどうなってしまうのかは容易に想像がつく。
わたしは死を覚悟して目をぎゅっと瞑る。
もうダメだ…。わたしは此処で死んでしまうのだろう。
そう思ったその時…。
「明日美殿!!」
聞き慣れた声が鼓膜に響くなり誰かがわたしの前に飛び込んでくるような気配を感じる。
いつまで経っても鋭い空気の塊がわたしの体を切り裂く気配はなく、途端にザクりと肉を切り裂くかのような鈍い音が微かに聞こえてくる。
慌てて目を開けると目の前には左腕を抑えて苦悶の表情を浮かべる季長が居た。
きっとわたしを庇ったに違いないのだろう。あのまるでナイフのような空気の塊は確実に彼の左腕を深く切り裂いていたのだ。
若草色の直垂の袖は彼の血で鮮やかな程に赤く染まっていた。
「季長ーーーー!!」
わたしは思わず彼の名前を叫んでいた。
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