ナミダイロ

悲しい知らせ

 避難所まではあともう少し。

 わたし達は沙耶さんを連れてヤツらがあまりいない道を歩いていた。


 程なくして避難所が見えてくる、まだ新しくて綺麗な避難所だ。

「そろそろ着きますよ?」

 わたしが沙耶さんに言うと彼女は柔らかながらも寂しげな表情で

「あなた達とももうお別れね、なんだか寂しいわ。」


 わたしも寂しいよ…。話しやすくて知識豊富な沙耶さんと別れるのは。

 まだ出会って数時間程度だけれど沙耶さんのお陰で両親が行方知れずになった寂しいさも、悲しみも少し癒えた気がするから。


 あの日以来時が止まったかのように思えた。

 離れ離れになっていた両親にやっと出会えたかと思えばわたし達を庇って工事用具の下敷きになってしまった。


 でも、わたしを今まで育ててくれた両親がそう簡単に死ぬ訳がないって、きっと助かって何処かの病院に居るはずだってずっと自分自身に言い聞かせてきたから。


 避難所の前まで来て沙耶さんがわたしに

「またあなた達に逢えたら良いわね、それにこの騒ぎがおさまったら直接お礼をしに行くから。」


「はい、わたしもまた沙耶さんに会いたいです。

 もし、また会えるのならその時は心理学のお話を聞かせてくださいね。」

 わたしは沙耶さんに思わずそんな事を言ってしまっていた。

 すると沙耶さんは裕太、一翔、義経、季長の方を向く。


「もう、せっかくカッコイイんのだからもう少しふざけても騒いでも良いと思うんだけどな〜」

 沙耶さんはおどけたような口調で言った。

「「「「か…かっこ…。」」」」

 いきなりカッコイイと言われた4人は少し動揺しているみたいだ。

 そんな彼らの様子を見て沙耶さんが可笑しそうに笑いながら

「褒められ慣れていないのね、可愛い…!」


「「「「か…可愛い??」」」」

 可愛いって沙耶さん…4人は可愛いと言われて喜ぶタイプじゃないよ…。

 ほら動揺してるじゃん…。


「じゃあ、元気で。絶対に生きて、生き延びてね。

 そしてまた会いましょう。」

 沙耶さんは笑顔でわたし達に手を振りながら避難所へと入っていった。


 それからわたし達は元来た道を辿り、展望台へと帰ってきた。


 するとそこに居たのはまさかの美晴ちゃんと友里亜さん。

 

「美晴ちゃん?どうしたの?」

 わたしが彼女に聞くとしゃくりあげながら


「どうしよう…奈央ちゃんが、里沙ちゃんが…。」

 え…嘘…奈央と里沙の身に何があったって言うの…?

 聞きたいような聞きたくないような…。

 何か嫌な予感がしたけれどわたしは意を決して美晴ちゃんに一体何があったのか聞いてみた。


「美晴ちゃん、一体何があったって言うの!?」

 わたしは思わず彼女の両肩を掴んでしまっている、彼女は円な瞳から涙を流しながら


「奈央ちゃんも里沙ちゃんも、忠信さんも、継信さんも、義盛さんも、弁慶さんも…みんな…。」



 ここから先、美晴ちゃんが何て言ったのか記憶にはない。

 いや、記憶にはないって言ったら嘘になるだろう、ただ、こんなの信じたくはない。

 何かの悪い夢に違いないって思いたい。

 まだ彼ら彼女らが何処かで生きているって信じていたい。


「「「「嘘…だろ…。」」」」

 4人が信じられない、信じたくないとでも言いたげな表情で「嘘だろ」って言葉を口にする。

 4人の瞳が明らかに揺れていた。


 4人が少しだけ覚束無い足取りで展望台のテーブルへと向かっていきそこに腰掛ける。


 今、なんて思っているのかな?きっと酷く悲しいに違いない。

 義経なんかは厚い信頼関係で結ばれた家臣であり盟友である忠信達が居なくなったからその悲しみはとても計り知れないくらいだろう。


 4人はわたし達に背中を向けているからその表情は見えない。

 泣いているのか、いつもの無表情なのかは分からない。


 だけれど4人の背中は小刻みに震えていた。



 すると程なくして4人は立ち上がると展望台の階段を降りて何処かへと行ってしまう。


 わたしは4人が腰掛けていたテーブルへと向かって行きそこに腰掛けてみる。

 まだ彼らの温もりが残っていてほんのりと暖かい。

 それよりも木の板でできた床に4箇所、不自然なシミが残っている。

 そう、まるで、雫が垂れたかのような。

 でも雨なんか一切降っていないし、辺りは乾燥していて雫が垂れるなんてことは絶対にない。


 ああそういう事なのか。


 この4箇所のシミが何なのか分かった途端、わたしの胸に悲しみという感情が津波のように押し寄せてきた。


 奈央と里沙と4人、お互い嫌っていた訳じゃないものな。


「もう、幾ら顔が良くってもそんな融通が効かない性格だとモテないわよ!?」

 と言っている奈央も


「まあある意味4人らしいわね。」

 と言って笑っている里沙の事も


 義経と剣術を対決して負けて悔しがっている忠信も、それを見て微笑ましそうにしている継信も義盛も弁慶も、もう彼ら彼女らと逢えないのだと思うと、悲しくてどうしようもなくて涙が次から次へと溢れだしてくる。


 きっと何処かで生きていると、助かっていると思ってしまいたい自分がいる。

 だけれど状況的にその可能性が限りなく低いという事を表していた。


 これ以上大切な人をなくしたくはない。


 だから何としてでも、無力だって良いから美晴ちゃんと友里亜さん、そして4人の事をわたしが守ってあげなくては。

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