激闘
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙…。
静寂に包まれていた筈の空間に突如響き渡るのはまるで喉から絞り出すかのような苦しそうな呻き声。
その声からして凄まじい数のヤツがこちらに向かっていることが分かった。
それも10体20体どころではない。
ざっと100体はいそうだ。
こっちは大丈夫…そう思っていたはずなのに…。
なんでいきなりこんな大群が押し寄せてくるのだろうか?
いつもは幾らゾンビが大量発生しているような場所だったとしてもこんな大群で押し寄せてきたケースは無い。
「嘘…。なんでこんな大群がいきなり…。」
いつもは冷静沈着な里沙がまるで絶望の色を宿したかのような表情を浮かべる。
「きっとこれは罠よ、夕菜達があたしらを葬り去ろうとしているに違いないわ!!」
友里亜が緊迫した口調で言う。
夕菜の罠…。
確かにの計画を阻害する友里亜達の命を夕菜が狙って襲いかかって来るであろうことはある程度想定していたが、まさかこんな形で自分たちを亡き者にしようとするとは誰も想定していなかった。
「絶望を味わった気分はどうかしら?」
ふと背後から少女の声が聞こえる。
振り返って見ると、SF映画で見るような服装にサイドロングにした髪の毛の10代半ばくらいの少女が立っていた。
ー夕菜だー
「あなたねえ、こんな手を使うなんて卑劣にも程があるわ!!」
奈央が夕菜に向かって怒鳴る。
夕菜はサイドロングの髪の毛を指先で弄りながら奈央達を嘲笑う。
「卑劣?それはあんた達の方でしょ?勝手に人の計画を壊そうとするなんて非常識にも程があるわよ。」
「計画を壊す?あんた達の行いで一体何人の尊い命が犠牲になったって言うのよ!?
それにあんた達のせいで、颯太が早苗が友恵がお母さんが、大切な人が死んじゃったのよ!」
友里亜はそう叫ぶやいなや夕菜にロングソードを向けたが夕菜は一切動じない、それどころか不気味に笑っていた。
「大切な人?笑わせないでくれるかしら?あんなのアンタからしたら大切な人かもしれないけれどアタシ等からしたら計画を邪魔する害虫なのよ。」
夕菜は冷酷な笑みを浮かべながら続ける。
「害虫を駆除するのは当たり前のことでしょう?
だからアタシ等は当たり前の事をしただけ。
本当、逆恨みもいい所ね。」
「許さない、絶対にアンタもアンタの親父も絶対に許さない。
この手で倒してやる、大切な人の仇を取ってやる!」
わなわなと震えながらロングソードを握りしめる友里亜を見て夕菜は相変わらず笑っている。
「そんなこと言えるのも今のうちよ。」
「それと」と夕菜は言葉を付け加えて続ける。
「それと源義経だっけ?アイツにお前の家臣はもう居ないって伝えておいて。
言ったらどう反応するかしらねえ、悲しみに歪む顔が見てみたいわ。」
そう言って夕菜は声をあげて高らかに笑った。
「「えっ…そんな…嘘…。」」
里沙と奈央が絶望の色を宿した表情で言った。
忠信さんが、継信さんが、義盛さんが、弁慶さんがやられた?
嘘…そんな事って…。
奈央、里沙、美晴はショックのあまりに言葉を出せないでいる。
「そうやって誰かの大切な人を平然と奪うだなんて絶対に許せない!」
友里亜が鬼の形相で夕菜に迫るが夕菜はケラケラ笑いながら
「は?大切な人?アイツに取っては所詮良いように遣われてる手下でしょ?
アンタ達何馬鹿な事言ってんのよ。」
良いよう遣われてる手下…!!
その一言に憤った里沙が大声をあげる。
「馬鹿な事を言っているのはあなたの方でしょう?
良いように遣われてるって何?
九郎君達のことなんか知らない癖に勝手な事言わないでちょうだい!!」
里沙のあまりの剣幕に美晴が一瞬怯えた表情を見せるが直ぐに真剣な表情に戻って夕菜に歯向かう。
「夕菜、わたしはあなたを絶対に許さない!!誰かの大切な人を奪うだなんて、あなたがこんな下らない計画なんか実行しなければわたしのお父さんもお母さんも、遥も死ななかったのだから!!」
あれだけ気が弱かった美晴が夕菜に向かって吠えた。
その美晴の様子に夕菜は一瞬たじろぐが直ぐにいつもの表情を浮かべて
「あれぇ?アンタいつの間にそんなに偉っそうになったんだ〜。
あれだけ弱虫のいじめられっ子だったのに?」
「わたしは変わった。何が大切なのかも分かった。」
美晴は夕菜を真っ直ぐに見つめながら言った。
「アンタみたいな馬鹿でも分かるような事なのね。
それとね、アンタの妹を殺したのはこのアタシよ。」
その言葉に美晴の顔色が変わった。
「だってアンタの妹、ムカつくからしょうがないでしょ?
あの妹を殺した時の爽快感ときたらなかったわ。」
平然とそう言ってのける夕菜に美晴が怒りに満ちた表情でサバイバルナイフを手にして夕菜に突進する。
「許さない!!わたしはあなたを絶対に許さない!!」
怒り狂いながら突進してくる美晴に怯えることもなく相変わらず気味の悪い笑みを浮かべる夕菜。
「アンタがこのアタシに抵抗して何になるの?
アンタって本当におバカよねぇ、そんなにも命を捨てたいのかしら?」
そう言いながら突進してくる美晴を片手で薙ぎ払う。
堪らず地面に倒れる美晴、その顔は苦痛と悲しみに歪んでいた。
「本当愚かねえ、アンタ達って。色んな世界や時代を侵略してきたアタシ等に歯向かうのだから。」
夕菜が奈央達を見下すかのような笑みを浮かべて可笑しそうに言う。
そして楽しそうに鼻歌を歌いながら
「良いのかしら?ゾンビ君達がアンタらに向かって来ているけど?」
振り向いてみればゾンビの大群はすぐそこまで迫って来ている。
喉から絞り出すかのような呻き声、強烈な腐敗臭、動く度に身体のあちこちからこぼれ落ちる蛆虫。
怯んでいる暇などない、奈央と里沙は薙刀を、友里亜はロングソードを美晴はサバイバルナイフをそれぞれヤツらに向け、戦闘態勢に入る。
いつ見ても慣れない、このおぞましい姿、嗚呼、どんなに美しい人であっても死ねばこんな風に醜く腐り果ててゆくのだ。
「さあどんなショータイムが見られるのかしら?本当楽しみ。」
夕菜の一言を合図にしてヤツらの大群との激しい戦いが始まった。
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