言葉の真偽

「ねえ、わたしのこと嫌いとか、鬱陶しいとか苦手だとか本気で言ってるの!?」

 わたしは前を歩いている裕太、一翔、義経、季長に対して先程の発言の真偽を聞いてみる。


 まあ聞いてみたところで本心は語ってはくれないだろうけれど。

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

 4人は口を固く結んで何も答えない。

「ねえいい加減何か答えたらどうなのよ?それよりあんた達、ちゃんと口ある?」

 つい苛立ってしまってキツい口調で尋ねてしまう。


「そんなにキツいこと言わないであげて。そういう年頃だから仕方ないのよ。」

 わたしの隣で沙耶さんが困ったように笑う。

 そういう年頃ねえ…。確かに4人は思春期真っ只中だけれども。

 でも嫌いだとか苦手だとか何とも思っていないだとか鬱陶しいだとかは素直に傷ついたよ。

 わたしがさっきから黙りを貫いている4人の前に行き顔を覗き込んでみる。

 暫くの見つめ合い。


「「「「な、なんだ?」」」」

 わたしに見つめられた彼らはほんのりと頬を赤らめてわたしから目を逸らす。


 少なくとも嫌われているって事はないらしい。

 そんなわたし達の様子を見ていた沙耶さんがクスリと笑いながら

「ずっと思っていたけれど明日美ちゃんと裕太君、一翔君、義経君、季長君って案外似た者同士だよね。」


 わたし達が似た者同士!?基本ポーカーフェイスで感情があまり顔に出ない4人と感情が顔に出やすいわたし。

 似ている部分なんて…でも昔は似ていたのかもしれないな。


 そんなふうに色々考えている暇もなく不気味なうめき声が容赦なくこちらに近づいてくる。

 目の前を見てみるとゾンビがざっと10体程こちらに向かっていた。


 腐敗して変色した肌、垂れ下がった皮膚、鼻腔を貫くかのような腐敗臭、身体のあちこちで気味悪く蠢く蛆虫。

 いつ見ても慣れないな、このおぞましい姿、見る度に吐き気を催しそうなくらいだ。


「やるしかないな。」

 裕太がポツリと言うと4人が刀を抜いてヤツらに斬りかかっていく。

 とりあえず戦闘は4人に任せておいても大丈夫だろう。

 彼らの実力ならものの数分で全滅させそうだし、彼らが戦っている間わたしは沙耶さんを守護しよう。


「沙耶さん、わたしの傍から離れないでくださいね。」

 わたしは沙耶さんの隣に立ち彼女にヤツらが迫っていないかを確認する。

 それにいつでも戦闘態勢に入れるように大鎌の刃は出しているから仮にヤツらが来てもある程度は倒せるだろうから。


「わたしね、高校三年生と中学三年生の従兄弟がいるの。」

 不意に沙耶さんが口を開く。

 ああだからか。通りで沙耶さんって話しやすい人だなと感じたのだな。

 きっと複雑な年頃の子の扱いには慣れているのだろう。

「そうだったのですね。」

 わたしが返事をすると沙耶さんがクスリと笑いながらとんでもない事を口にする。

「嫌いだとか、苦手だとか、鬱陶しいだとか、特別な思いなんてこれっぽっちもないだとかは全部嘘だから。」


「え!?」

 わたしは沙耶さんの言葉の意味が分からずに戸惑っていると彼女は悪戯っ子のような笑みを浮かべて更にとんでもない事を口にする。

「裕太君と一翔君、義経君、季長君の本音を代弁しただけよ。」


 思わずびっくりして仰け反ったわたしを見て沙耶さんは可笑しそうに小さく笑いながら

「わたし、高校三年生と中学三年生の従兄弟が居るって言ったでしょ?

 それに裕太君達4人はわたしの従兄弟と同年代なんだし。

 時代こそ違っても基本人の思いは変わらないものだからね。

 だからわたしには分かるの。それにわたし、大学時代は心理学を専項にしていたんだし。」

 沙耶さんの意外な告白に正直どう反応して良いのか分からない。

 でも大学時代では心理学を専項していたとなると彼女の言っていることはかなり信憑性が高そうだ。


 程なくして4人が戻って来る。

 何事もなく無事で戻って来てくれたことに対してホッと胸を撫で下ろす。


 以前と比べてゾンビの数は大幅に減っていた。

 このまま順調にいけばわたし達の日常は近いうちに戻ってくるだろう。


 だが、これから状況が一変しゾンビ対人から人対人の戦いが始まるなど誰1人予想していなかったのである。

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