明日美チームside

 バンバンバンバンバン…。

 何処からか聞こえてくるけたたましい銃声。

 一体何なのだろう?

「なんか凄い音しなかった?」

 沙耶さんが辺りをキョロキョロと見渡しながら口にする。

「確かに物凄い銃声がしましたよね。」

 わたしがそう言うと4人が真っ青な顔をして

「「「「まさか…。」」」」

 と呟く。彼らは何かを感じているらしい。


「別に気にしなくていいんじゃない?」

 わたしが彼らを宥めるように言うと裕太が首を横に振りながら

「なんだか嫌な予感がする…。」

 と心配そうな口調で言った。


 嫌な予感…。言われてみればと言えばそれまでだが、わたし自信も僅かに胸騒ぎがしている気がしないでもない。


 まさか…奈央や美晴ちゃん、里沙、友里亜さん、忠信や継信、義盛、弁慶の身に何かあったんじゃ…。

 思いたくもないことが不意に心の中に、頭に浮かんでくる。

 いや、でも彼ら彼女らはわたしなんかよりもずっとずっと強いからそんな事ある訳がない。


 そうだよ…奈央も美晴ちゃんも里沙も友里亜さんも強いもの。


 それに忠信や義盛、弁慶や継信なんか有能な家臣なんだよ?

 そう簡単に死ぬ訳ないじゃない…。


 きっと無事でいる筈だからと心の中や頭の中で不意に浮かんでくるそれを必死に掻き消す。

 だけれどもそれでも心配や不安の気持ちを拭いきれない自分がいた。


 いやいや、こんな事考えてちゃいけない。勝手に死ぬのでは?と決めつけられたのでは彼ら彼女らは酷い迷惑だと感じるに違いない。


 それよりもわたしは沙耶さんや4人に食べさせるためにわざわざ桑の実を取りに行ったんだし、此処で楽しく桑の実を味わおう。


「桑の実取ってきたのだから食べなよ、あと沙耶さんもどうぞ。」

 わたしは桑の実が大量に入った袋を4人に突きだす。

 沙耶さんは笑顔を浮かべながら「ありがとう」と一言口にすると丁寧な手付きで桑の実を一つ取ると口に含む。


「すっごく美味しい!!」

 桑の実を飲み込んだ後、沙耶さんが素敵な笑顔を浮かべながら言う。

 沙耶さんの笑顔に思わずわたしも口元が綻ぶ。

「喜んで頂いて何よりです。」


 4人の方はというと桑の実を黙々と食べている。

 義経と季長の時代なんか砂糖が超高価だから一部の上流貴族のみしか口にできなかったからそれ以外の人々は専ら果物が甘味なんだとか。

 そんな二人にとったら果物を食べることはわたしがチョコレートとかアイスクリームを食べることと同じだ。


 こんな世の中になってしまってもうずっとチョコレートもアイスクリームも口にしていない。

 あの時に食べたアイスクリームのとろける甘さやホワイトチョコレートの優しい甘さ、ミルクチョコレートのまろやかな甘さ、ビターチョコレートのほろ苦さの中に交わる甘さなどが思い出され、どうしても食べたいと思ってしまう。


 でも今は我慢しなきゃ…。きっとその先で幸せが待っている筈だから。


 桑の実を食べる4人の表情は何処か穏やかで内心喜んでくれているのだなと分かって、こっちまで嬉しくなってくる。



 そんな時間を過ごしているうちにわたしは静寂な世界に響き渡ったけたたましい銃声の事もすっかり忘れようとしていた。


 遂に袋の中の桑の実も空っぽになりわたし達は再び避難所を目指して歩き出す。

「あのさ、気になってたんだけどわたしが熱出した時、お見舞いの品持ってきてくれたよね。」

 そう言えば裕太は抹茶チョコレートを、一翔はココアを義経は干し柿を、季長は干しイワシをわたしに持ってきてくれたっけ。


「あれは戸棚に何年もしまってたやつで…お前ならそれでも食べるかなと思って…。」

 裕太がしどろもどろに答える。

「あの干し柿は犬の食べ残しだ。」

「あの鰯は道端に落ちていたものだ。」

「あのココアは捨てようと思ったやつだから明日美ちゃんにぴったりだと思った。」


 嘘ばっかり。あのとき一翔と裕太なんかレシートを落として帰ってるし、拾い上げて見てみればちゃっかり抹茶チョコレートとココア買ってるじゃないの。しかもそこそこお高いのを。

 おまけに義経と季長なんか巾着袋(当時の財布)を忘れて帰るし、巾着袋の中身は干イワシと干し柿を買う前と比べて明らかに減っているからちゃっかり買ってくれてるじゃないの。


 まあ4人の言うことが本当だったら展望台から突き落としてやるけれど。


 まあ嘘だと分かってても此処は騙された振りでもしておこう。

「うわ、酷い。あんた達最低…。幼なじみにそんな下手物渡すとか有り得ない…。

 本当、わたしを一体なんだと思ってるの?」

 わたしが大袈裟な口調で言ってやると4人が

「別に俺は明日美のことなんか嫌いで渋々幼なじみやってるだけだからお前がしなければどうでも良い。」


「僕と明日美ちゃんは勝手に仲良くなっただけだから特別な思いなんてこれっぽっちもないから。」

「鞍馬にいた頃から付き纏ってきおって鬱陶しい女子だくらいにしか思っておらん。」

「明日美殿の事は苦手だから別に何とも思わん。」


 もう4人のセリフ、奈央の言う反対言葉という認識で大丈夫かな?


 沙耶さんはと言えばわたしと4人のやり取りを聞いて余程おかしかったのかお腹を抱えて笑っている。


 それにしてもあの銃声は何だったのかな?








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