美晴の過去パート3〜変わりゆくターゲット

 明日美が止めるも聞く耳を持たずにサキ達の元に向かう裕太。

「おい、丸井。お前いい加減にしろよ。」

 裕太がサキ達に忠告するとサキは鼻で嘲いながら

「は?アンタまで何言っちゃってんの?明日美達に洗脳されたんじゃないの?」

 と彼をバカにする。

「何言っちゃってんのとかこっちのセリフだよ。

 お前ら、明日美、杉野、村田のことも佐竹の事もイジメてるんだろ?

 それに兄さんの事も源さんの事も竹崎さんの悪評をでっち上げて言いふらしている事も知ってるんだぞ?おまけに兄さん達をやれって言ったのも全部お前なんだろ!?」

 裕太がサキ達に迫ると正美が高らかに笑いながら

「は?わたし達がアイツらをイジメてる?アイツらの悪評を言いふらしている?

 別にいいじゃない〜第一、明日美とか奈央とか里沙は生意気だからイジメてやったんだし、美晴なんてぶりっ子でムカつくからしょうがないじゃない。

 アンタの兄さん達3人も感じ悪いしムカつくし。」


 そう言いながら顔をくしゃくしゃにして笑い転げる正美を殴りたくなる衝動に駆られるが必死に我慢する。

 幾らムカつくとはいえ、散々酷いことをしたような人間でも相手は女。殴ったら不利なのは明らか。


「最低だな、自分の思い通りにならないからって悪評をでっち上げて言いふらす、自分の過ちを注意されから腹いせにイジめる、相手の性格が気に食わないからイジめる、これを最低と言わないで何って言うんだよ。」


 普段は静かな裕太が声を荒らげるのを見てサキ達は一瞬後ずさるもすぐに強気な態度に戻って

「は?アンタまでアタシたちに逆らう気?」

 と傲慢な態度と口調で彼に迫る。

「そういう事だな。」

 裕太はサキ達を睨みつけながらそう言った。

 その一言に顔を真っ赤にしたサキ、正美、加奈子、美香が

「「「「アンタ、絶対に許さないから!!」」」」

 と裕太に吐き捨ててどこかへ行ってしまったのだ。


 裕太が教室を出る際の事。突然何者かに背中を硬いもので殴られ、あまりの痛さに床に膝を落とす。

 すると背後からサキ、正美、美香、加奈子が裕太の目の前に出てきて

「椅子で殴られたくらいで倒れるとか案外弱くて笑っちゃう!」

 美香がそう言って不気味に笑う。

「でもアンタが悪いよ?アタシ等に逆らうから。」

 サキは相変わらずいじめを楽しんでいた。

「てかさーわたしらアンタと一翔、義経、季長って奴にロープとカッターナイフを送り付けてやったのになんでアンタ達死んでないの?」

 加奈子がクスクスと笑いながら口にする。

「つーかアンタら4人生きてる価値ないし、わたしらにとったら存在自体が不快だからさっさと死ねば?」

 正美が真顔で裕太に迫った。



 でも彼はやり返すことも無くじっと耐えるのみ。

 そしてとある日の休み時間。


「この筆箱は何かしら?」

 サキが裕太の机の上に置かれていた筆箱をむんずと掴んで素っ頓狂な声をあげる。

「おい、それは父さんと母さんの形見だから返せよ!」

 サキ達の声に慌てて飛んで来た裕太が筆箱を取替えそうとサキ達に迫る。


「取り返して欲しいだなんてアンタふざけてんの?そもそもわたし達に逆らったアンタに拒否権はないわよ!」

 見下すような態度で正美が凄む。


「え?何あれ〜めっちゃウケるんだけど〜。」

「そのまま踏みつけるとかハサミで切り裂くとかしちゃえば?」

「それとかトイレに投げ込むとか。」

 いつも一翔達の悪口を散々言っている女子3人グループがケラケラ笑いながらサキ達の様子を楽しそうに見つめている。


「やめろって言ってんだろ!!!」

 裕太が叫びながらサキから筆箱を無理矢理取り返す。

 幾ら最低最悪なイジメっ子だって言っても女の子だから力では敵わないらしく筆箱はあっさり取り返せた。

 それと同時にサキが尻もちをつく。


 普段は物静かな彼の行動にクラス中が釘付けになっている。


「いったあい…。」

 サキがわざとらしく痛がる、その様子を見ていた女子3人グループが

「うっわあ暴力振るうとかマジ有り得ない。」

「最低じゃん、やっぱり最低最悪なヤツらと付き合ってるだけあるじゃん。」

「女子に暴力振るうとかマジ最悪…一翔も義経も季長も裕太もみんな纏めて死ねばいいのに。」

 と心無い悪口をヒソヒソと言う。



 しかし、自体が急転しサキ達が傲慢に振舞っていられる日が遂に終わりを迎える。


 美晴や明日美、里沙、奈央の母親や裕太の祖母が学校に乗り込んできたのだ。


 校長室に通された彼女らは怒りを無理矢理押さえ込んでいるかのような表情で校長と向き合った。

 美代は横長の和紙2枚と黄緑色の便箋に険しい表情で目を通している。

 校長はおずおずした様子で彼女らの機嫌を取るように言った。

「今日は本校にどのようなご用事で?」

 すると明日美の母が怒りを押し殺したような声で言い放つ。

「いじめの件について尋ねたい事がありますので。」

 その一言に校長の顔はみるみるうちに青ざめていく。

「最近うちの美晴の様子がおかしいと思ってあの子に問いただしたんです。

 そしたら同じクラスの子から激しいいじめを受けていたと。」

 美晴の母の言葉に校長は目を気まずそうに泳がせながら

「でもお宅の娘さんの証言だけではどうにも出来ませんねえ。」

 そう言う校長に対して里沙の母が感情を押し殺した声でそれでもはっきりと述べた。

「美晴ちゃんだけじゃない…娘の里沙も明日美ちゃんも奈央ちゃんも裕太君達も激しいいじめに遭っていたんです。」

 校長は明らかに気まずそうにしており、時折忙しなく手足を動かしている。

 それから裕太、一翔の祖母(美代)が先程まで手に持っていた和紙と便箋を校長に突き出す。


 それは、一翔、季長、義経が書いた遺書だった。

 校長は震える手でそっと手に取る。そこには18歳、16歳の男の子が書いたとは到底思えないような達筆な文字で色んな事が書かれてあった。

 あの日の川原での出来事や無実の罪を着せられたことなど、その全てが目を覆いたくなるような酷いものだ。

「あの子達がこんな目に遭っていただなんて…。あの時帰るのが少しでも遅ければ、あの子達は今頃居ないと考えると…。」

 校長はそれらに目を通しながら冷や汗を何度もハンカチで拭う。

「仮にこれらが事実だとしてもこちらを書かれた方は我が校の生徒では無いので流石に対応は致しかねますねえ…。」

 気まずそうに喋る校長に対して美代は怒りで声を震わせながら叫んだ。

「被害に遭った子がこの学校の生徒じゃないと対応しないのですか!?

 加害者側はあなたの学校の生徒なのに!?そんなのおかしくないですか!!」

 校長は相変わらずに気まずそうに目を泳がせている。

 すると美代は紙袋から学ランらしきものを一着取り出す。

 それは、サキ達にズタズタにされた裕太の学ランだった。

「裕太がいきなり学ランを無くしたと言ったんです。

 その時は一翔達の事もあったのでもしやと思い、あの子に問い詰めたんです。

 そしたら、学ランを壊されたと言ってくれました。」

 美代が怒りで体を震わせながら話す。校長はズタズタに切り裂かれた裕太の学ランを見つめながら

「やはり証拠がない限りはなんとも言えないのが現状ですね。」

 としどろもどろに言う。すると明日美の母が勢いよく立ち上がり


「今すぐ加害生徒をこちらに呼んでください!!

 明日美は、全身痣まみれになるまで殴られたんですよ!!

 このまま明日美を、あの子達みんながやられたことも全部我慢しろとでも言うのですか!?」

 明日美の母の怒声に校長が一瞬仰け反る。すると奈央の母親が

「私の娘なんか階段から突き落とされたのですよ!!

 このままでは私の娘やあの子達に示しがつきません!!今すぐ加害者生徒をここに連れて来てください!!」

 と校長に怒鳴る。校長は額や首筋から滴る冷や汗をハンカチで拭いながら

「お母様方、お気持ちは分かりますが今は授業中ですので、もう少し穏やかに…それと加害生徒には進路の事も関係しているので…。」


 すると遂に痺れを切らしたのか母親達や美代は勢いよく立ち上がった。美晴の母が校長に対して叫ぶ。

「これが落ち着いていられますか!?加害生徒の進路なんかどうなろうが構いません!

 あの子達が受けた仕打ちに比べれば加害生徒が例えどんな罰を受けようとも許せません!!」

 すると明日美の母が校長に向かって大声で怒鳴る。


「明日美が、あんな目に遭ったというのにあなたは加害生徒の進路の事しか頭にないのですか!?

 明日美はいじめられたのですよ!?美晴ちゃんも奈央ちゃんも里沙ちゃんも裕太君達もあんな目に遭ったのですよ!?

 それでも加害生徒の方が大事なのですか!?」

 余りの剣幕に校長が思わず体を縮める、緊張で汗だくになり撫で付けたような髪はぺったりとまるで海苔のように張り付いていた。


 それから暫く彼女達の怒号が校長室に響き渡り、校長は為す術もなくただただ黙り込むのみ。

 母親達の怒りは凄まじいものでその迫力に圧倒されたのか遂に学校側は急いで事実確認をする。


 そして遂に明日美達を暴行した写真や、動画、裕太達の悪評が書かれたものなどがネットの掲示板から見つかった上にその写真がサキ達のスマホから見つかり、サキ、加奈子、正美、美香は校長室に呼び出された。


「サキさん、正美さん、加奈子さん、美香さん、これらは全て本当の事なのかな?」

 学年主任の橋田愛佳がサキ達に問い掛ける。

「「「「…。」」」」

 サキ達は黙って俯いたきり何も話さない。

「なんでこんな事したの?」

 橋田に問い詰められるがサキ達は相変わらず黙りを貫く。

 それに痺れを切らしたのか橋田がバンッと机を思い切り叩いた。

「いい加減にしなさい!!あなた方は自分が何やったか分かってるの?

 これは立派ないじめなのよ?犯罪よ?」

 橋田がサキ達にヒステリックな声をあげるがサキ達はいかにもどうって事も無さそうでその顔には反省のはの字も見当たらない。


「いじめ!?アタシ等はいじめなんてしてないわ!

 あいつらが生意気だから懲らしめてやっただけ!!」

 サキは必死に自分の行いを肯定するが証拠も全て揃っているので肯定出来る余地などない。


「あなた方は人として許されないような事をしたのよ?謝っても決して許されないような事をしでかしたのよ?」

 橋田が怒鳴るがサキ達は全くもって聞く耳を持たない。

 遂に聞きかねた教頭がサキ達を激しく怒鳴りつけた。

「いいか?お前らがやった事は最低の行いなんだぞ!?

 死人が出なかったから良かったものの…お前らがやった事は一歩間違えたら人殺しだったんだぞ!!」

 その一言にサキ達は気まずそうに俯く。それからもお説教は暫く続いた


 おまけに今まで好き勝手悪口を言っていた女子3人グループも勿論例外ではなく、校長室に呼び出されるまではいかなくとも学年室で生徒指導を食らう羽目になった。


 それに何処からかサキ達がイジメを行っていた話、悪評をでっち上げて言いふらしていた話が漏れだして学校中に広まり、サキ達4人は後輩、同級生や先輩から村八分にされたのだとか。


 サキ達と一緒になって一翔達の悪評を吹聴していた女子3人グループ(美津、奈絵、奈々)は今度は逆に自分達が悪口を好き勝手言われる立場に転落。


 彼女らの居場所は何処にもなくなっていた。


「ねえ、ねえ知ってる?サキ、加奈子、正美、美香ってクラスメートをイジメてたらしいわよ。」

「あ、知ってる〜マジ最悪だよね。それにアイツら裕太さんのお兄さん達の悪評をでっち上げて言いふらしていたらしいよ。」

「うわ〜マジ最悪すぎ〜ていうかアイツら同級生だろうと年上だろうと時代が違っていようが誰でもイジメたいタイプでしょ笑」

「サキ達もクソだけどあの3人グループも中々のクソでしょ。

 話によるとサキ達がクラスメートをイジメているのを笑いながら見ていたらしいよ、しかもサキ達に時々指示していたとか。

 オマケに一翔さん達の悪口を吹聴していたらしいし。」

「本当、サキ達四人もあの3人もどうやったらあんなに性格悪くなれるのかね〜逆に教えて欲しいわ〜」

 明日美達の教室の前で話し込んでいる女子5人グループ、そのどれもがサキ、正美、加奈子、美香やあの3人グループに対する聞くに耐えない悪口だった。


 あなた達だってわたしや明日美ちゃん、里沙ちゃん、奈央ちゃんがイジメられてるのを楽しそうに眺めていた癖に。一翔さんや源さん、竹崎さんの、山崎君の悪口を散々言っていたくせに。

 サキ達が不利になった瞬間、手のひらを返す訳?

 悪評が嘘だと分かった瞬間、一翔さん達の味方になる訳?


 と美晴は心底思った。彼女らだってイジメに加担していたくせにと。


 嗚呼、人間ってなんて醜いのだろうかとこの時程にそう感じたことはない。



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